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バイオダイレクトメール vol.38 細胞夜話
<ビールと発酵とSaccharomyces cerevisiae

宴会の主役、ビール。その起源は、6000年以上前にさかのぼると言われており、最古の記述はメソポタミアのシュメール人が残した「モニュマン・ブルー」という粘土板に見ることができます。
後に、ビールの製法はメソポタミアからエジプトに伝わり、近代ビールとほぼ同じ原理によるアルコール発酵が行われるようになります。なお、当時のビールは発酵の原理こそ近代ビールとほぼ同じものの、ホップは使われておらず、炭酸ガスの封じ込めも行われていなかったので、苦味や発泡性がなく白ワインに近い風味のものだったようです。

ビールの製法は地中海を渡りギリシアやローマに伝わりますが、麦の栽培に不向きな土地だったせいか、この地ではあまり上等なものができなかったようです。ギリシア悲劇で有名な詩人ソフォクレスは「ギリシャ本土のビールを我々は飲みたいと思わない」と書き残しています。

地中海北岸ではあまり受けがよくなかったビールですが、緯度が高くブドウ栽培に不向きな地域では、発酵飲料の主流となりました。その後、キリスト教の布教にともない、教会や修道院などで盛んに醸造されるようになり、ヨーロッパ中に普及してゆきました。

麦汁をアルコールに変えているのは誰だ

実は、酵母の存在自体は、1680年代に報告されていました。顕微鏡の発明者であるオランダのレーウェンフックが、パン種を顕微鏡で観察し菌(酵母)の存在を確認しています。しかし、レーウェンフックの発見は百年以上忘れられたままになります。
1837年になって、フランスのカニャール=ラトゥールとドイツのシュワンが、ビールの中に見られる酵母が単細胞の生物であることを報告しています。ちなみに、シュワンはこの生物を「Zuckerpilz(sugar fungus)」と名付け、後のラテン語名であるSaccharomycesの由来となりました。
最終的に、パスツールが、酵母によって発酵がおこることを示しました。

そして、デンマークのカールスバーグ醸造所のハンセンが、上面発酵するビール(エール)と下面発酵するビール(ラガー)から、アルコール発酵の原因となっている2種類の酵母を単離することに成功します。ハンセンが単離した酵母のうち、前者がSaccharomyces cerevisiae、後者がSaccharomyces carlsbergensisと命名されました。その後、ハンセンは1883年に純粋な酵母を培養する方法を確立しました。

研究の材料としてのSaccharomyces cerevisiae

Saccharomyces cerevisiaeは、まず、その実用的用途から主に生化学分野で研究が進められました。生化学的研究の進展により、やがて酵素のはたらきが理解されるようになります。特に、スクラーゼ、カタラーゼ、チマーゼ、チロクロムなどの研究は、培養した酵母から大量に得られる酵素を使うことで大きく進展しました。ちなみに、酵素を表す「enzyme」という用語を1876年に考案したのはドイツのキューネで、「en」は「in」、「zyme」は「yeast」を表すギリシア語です。

当初は、遺伝学の研究が、増殖が速い大腸菌やファージを研究の主な対象としていたため、Saccharomyces cerevisiaeの遺伝学的な研究の開始は遅れ、本格的な研究が始まるのは1970年代に入ってからでした。大腸菌やファージは真核生物とはかなり異なっており、それらのモデル生物から得られた結果が真核生物には当てはまらないこともあったため、簡単に培養でき、比較的増殖が速く、安全で、しかももっとも単純な真核生物として、Saccharomyces cerevisiaeが注目されるようになりました。

Saccharomyces cerevisiaeを用いた遺伝学的実験の最初の例となったのは、1960年代後半に、アメリカのハートウェルによって行われた、細胞周期の研究でした。発がんにおける細胞周期の役割や制御を研究していたハートウェルは、細胞周期に関する変異株をつくり、細胞分裂の周期が遺伝的に制御されていることを示しました(ハートウェルは細胞周期の主要な制御因子を発見した成果により、イギリスのハント、ナースとともに2001年にノーベル賞を受賞しました)。

Saccharomyces cerevisiaeの形質転換は、1978年に最初の例が報告され、1990年から形質転換したSaccharomyces cerevisiaeを用いてB型肝炎のワクチンが生産されるようになりました。また、染色体研究の知見から、酵母人工染色体(YAC)が作られ、長いゲノム断片をクローニングする際のベクターとして利用されています。

ゲノムプロジェクト、そしてポストゲノムシークエンス時代の研究材料へ

Saccharomyces cerevisiae S288Cのゲノムの全塩基配列が1996年に発表されました。これ以降、トランスクリプトーム解析、プロテオーム解析、システム生物学の研究材料として盛んに利用されるようになりました。今では必須遺伝子を除く全ての遺伝子について破壊株がつくられており、表現形の解析が進められているほか、タンパク質の相互作用を解析するTwo-Hybrid法などで、ポストゲノムシークエンス研究に欠かせないツールとしても幅広く利用されています。

一方、バイオテクノロジーの発展に非常に大きな貢献をすることになったビールの研究ですが、今度は、最新のバイオテクノロジーがビールの研究に使われるようになっています。ビール酵母のマイクロアレイが作成され、ビールの発酵に関与する遺伝子の探索や、味の違いを生み出す遺伝子の探索、発酵条件の変化による遺伝子発現の変化の解析などが精力的に進められています。

Note


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