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バイオダイレクトメール vol.40 細胞夜話
<WI細胞~Hayflick Limit発見の立役者>

1960年代の培養細胞のドグマ「脊椎動物由来の培養細胞は永遠に増殖を続ける」に果敢に挑戦した若きHayflick博士。最初に投稿した雑誌からリジェクトされつつも世に出た論文は、その後40年間で3,000本近い論文で引用される強烈なインパクトを秘めていました。Hayflick Limit発見につながる博士らの研究を支えたのが、ヒト胎児組織由来の「WI細胞」でした。

Hayflick Limitの発見から老化研究の最前線へ

老化した細胞は正常細胞と形状が異なっていました

正常細胞

Leonard Hayflick博士は、Ph.D取得後フィラデルフィアのWister Instituteに招かれ細胞培養の研究室を開設し、ガン発症へのウイルス関与の仮説を検証するべく、さかんに正常細胞を培養していました。ところが、まもなく、継代が進むにつれてみられる細胞の形状の変化に悩まされるようになります。操作上のミスと思われたその現象を検証してみる気になったのは、既存の定説を鵜呑みにしない若さと野心故だったかもしれません。培養の歴史が始まってから既に60年、培養細胞の増殖能に限界があると考える者はなく、技術さえあれば細胞は無限に増殖させられるものだと考えられていました。ヒト胎児の組織由来の線維芽細胞(WI-1~WI-23)を次々に樹立した博士らは、これらWI細胞群を用いた検証実験から、「正常二倍細胞が有限の分裂限界をもつ」という結論を導き出したのです(Hayflick Limitの発見)。

その後樹立されたWI-38細胞(3ヶ月の女胎児肺由来)は細胞老化研究の分野でモデル系として広く認知されるようになり、世界各地の多くの研究機関に配られました。ただし、WI-38の場合、元々ワクチン製造やウイルス産生(Adenoviruses、Coxsackie A、Cytomegalovirus、Echovirus、Herpes simplex Virus、Poliovirusなど多種で確認済み)を目的に開発されたためもあって、細胞老化研究のために若い細胞(分裂回数の少ない細胞)を入手しにくいという問題がありました。しかも、1970年代に入ってから、Velo細胞などによる汚染が報告されるようになり、新たなモデル系としてMRC-5細胞、IMR-90細胞などが利用されるようになってきました。また、国内では細胞老化研究専用の細胞TIG-1(東京都老人総合研究所)が開発され、WI-38細胞の代替として多く用いられています。

ちなみに、正常なヒト羊膜細胞の代表格といわれるWISH細胞は、博士が、我が子誕生の際に後産の羊膜をラボに持ち帰り、めでたく樹立に成功した細胞株です。所属していたWister Instituteのイニシャルと娘さんのイニシャルSHをとって、WISHと名付けられたそうです。

《参考》Hayflickモデル

Hayflickらの実験の結果、ヒトの細胞の場合、約50回で分裂が停止し、細胞の老化が顕著にみられるようになりました。成人由来の細胞の場合はその半分以下の回数で分裂停止することが観察されています。テロメアの短縮との関連も示唆されており、老化研究の中心的存在といえます。また、ガン細胞はHayflick Limitに達することなく際限なく増殖を続けることから、細胞増殖の謎の解明が、ガン研究の発展にも大きく貢献することが期待されます。

Hayflickモデル:最初は対数増殖を行いますが、分裂回数が50回に近づくほど分裂速度が低下し、50回付近でほぼ停止します

Hayflick Limit発見以前から今に至るまで、「増殖の限界はテクニカルエラーにすぎない」「培養細胞の継代=生体内の現象とは言えない」「線維芽細胞特異的現象ではないのか」等々さまざまに反論はあるようですが、Hayflick Limitの存在は今なお細胞増殖に関する定説であることは確かです。10年後、あるいは50年後、こうした定説のいくつが覆され、いくつが生き残っているのでしょうか。

参考文献

Hayflick, L. The establishment of a line (WISH) of human amnion cells in continuous cultivation. Exp Cell Res. 23:14-20 (1961).
Hayflick, L. and Moorhead, P.S. The serial cultivation of human diploid cell strain. Exp. Cell Res. 25, 585-621 (1961).
Shay, J.W. and W.E. Wright Hayflick, his limit, and cellular ageing. Nat Rev Mol Cell Biol. Oct;1(1):72-6. (2000).
近藤 昊(1984)ヒト二倍体線維芽細胞の老化 1.国外の細胞.細胞培養10、320-329.
大岡 宏(1984)ヒト二倍体線維芽細胞の老化 2.TIG-1細胞.細胞培養10、330-332.

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