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バイオダイレクトメール vol.46 細胞夜話
<第10回:鼻をくすぐるよい話?-植物組織培養技術>

細胞夜話も10回という記念すべき回数になりました。今までは大腸菌、ピロリ菌などの細菌、神経細胞などの動物細胞、はたまた昆虫細胞などさまざまな細胞にまつわる話をお届けしてきました(過去に掲載した夜話に関してはこちら)。そこでふと植物細胞を取り上げていない!ということに気づき今回は植物細胞にスポットを当てることにしました。

Story of Plant

話は変わってこの時期、花粉症でお悩みの方も多いのではと思います。という私も最近鼻がぐずぐずしており、もしや花粉症が始まったのかなと危惧しています。そんな花粉症の方には朗報となるか? 昨年1月に無花粉のスギが発見されたというニュースが報じられました。新たに見つかった「爽春(そうしゅん)」は、普通のスギと同様に雄花を着けますが、雄花の成熟過程で花粉が正常に発達せず、最終的に花粉が生産されないという特徴を持っています。

花粉ができないのにどうやって増やすのかと疑問に思われる方もいらっしゃるかもしれません。現在は接木で増やしているそうです。「爽春」は母樹が何本かあるそうなので接木をすればある程度増えますが、花粉が少ない品種としてすでに見つかっていた「はるよこい」は母樹が1本しか見つかっていないため接木をするにも限界があります。そこで登場するのが植物組織培養技術です。

植物組織培養とは植物細胞あるいは植物の葉、茎、根、成長点、種子、胚、花粉などの器官、組織を完全無菌の状態で培養して増やすことをいいます。培地は培養する種類、目的によってさまざまなものを使い分けるようです。基本的な成分は無機塩類、ビタミン、アミノ酸からなり、目的によってはココナツミルクや酵母抽出物のような抽出物を加えます。さらにオーキシンやサイトカイニンなどの植物ホルモンを加える場合もあります。培養細胞にオーキシンを加えるとカルスが形成され、カルスをオーキシン無添加培地あるいはサイトカイニンを加えた培地に移してやると再分化して茎葉が生えてきます。

無花粉杉の場合も母樹から組織を取り出してきて無菌的に培地に置床させます。時間がたつと培地中の塩類、炭素源などが消費されて少なくなるため新しい培地に変えて継代しつつ細胞を増やしていきます。ある程度増えたところでホルモンを加えた培地に移してやり、分化させ苗木を作っていきます。植物組織培養を行うことで一部の組織から多量の苗木を作ることができるようになります。爽春の場合は挿し木よりも5倍の量の苗木を作ることができるそうです。

もし、本来植物が持っていない形質を付与するのであればプロトプラストを形成させる必要があります。プロトプラストは植物細胞の細胞壁を消化酵素で分解して原形質だけにしたものです。細胞壁によりブロックされていた高分子、粒子、ウイルスなどがプロトプラストで進入しやすくなるので容易に遺伝子を導入することができるようになります。細胞壁はセルロ-ス、ヘミセルロース、ペクチン質等からなりそれぞれを分解する酵素を組み合わせて効率よくプロトプラストを単離させます。20世紀半ばには植物を食べるカタツムリに注目が集まり、カタツムリから抽出した酵素を用いてプロトプラストを作製していました。そのためカタツムリが高値で取引されていたこともあったようです。

このような植物の組織細胞技術を用いて無花粉杉を増やすだけでなく、有用な物質を作らせるという試みがなされています。ビタミンAの前駆体を合成できるゴールデンライスは開発途上国で問題となっているビタミンA欠乏症で苦しむ人々を救う手立てとして期待されています。また、バナナにワクチンを含まれるように改良したワクチン入りバナナなどさまざまな形で応用されています。花粉症を治してくれるイチゴがあるとうれしいですね。これからイチゴがおいしい季節ですし。


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