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生化夜話 第28回:小さいことはいいことだ - HiTrap™の開発

祝HiTrap™ 20th

昔はタンパク質を精製するだけでも論文になった、という話を耳にしたことがある方も少なくないかと思います。そう聞いて何とも羨ましいと思ったのです。しかし、タンパク質研究がはじまった頃は、方法論も確立しておらず、機器や試薬も限られており、それこそ研究者の工夫と根性の世界で、だからこそタンパク質の精製が論文になったのです。そんなタンパク質精製も、手法や機器、試薬の改良により、今ではさほど難しい作業ではなくなっています(もちろん目的のタンパク質に大いに依存しますが)。

タンパク質精製の簡略化につながる大きな技術革新の1つが、1980年代に開発された組換えタンパク質の発現技術です。1970年代に大きく発展した分子生物学の技術を活用することで、生体内に微量にしか存在しないタンパク質でも大量に発現させることが可能になり、精製も容易になりました。

もちろん実際には組換えタンパク質が問題のすべてを解決してくれるわけではありませんでした。大腸菌があらゆるタンパク質を製造できる万能のタンパク質工場になることもなく、膜タンパク質やタンパク質複合体、封入体などは今日においても周到な精製戦略をもってしても容易ならざるターゲットなのですが、それでも以前に比べてタンパク質の精製が身近になったのは間違いありません。

担体メーカーの驚愕

一部のタンパク質については精製がゴールではなく研究の(重要な)通過点になってしまった1990年、長年にわたってタンパク質精製用の製品を製造してきたファルマシアには、そんな現場の状況を反映した研究者の声が届いていました。

タンパク質精製用クロマトグラフィーの進歩とともに歩んできたファルマシアのスタッフにとっては少々ショックだったかもしれませんが、この時代に新たにタンパク質研究をはじめた研究者は、クロマトグラフィーそのものには興味がなく、あくまでも目的タンパク質を手に入れるためのツールに過ぎないのでした。また、パッキングとその後の理論段数のチェックが面倒、使用後のカラム洗浄と保管に手間をかけたくない、という声もありました。いろいろと話を聞きながら要望を取りまとめたところ、購入後すぐに使えることと、使い捨ての安価な製品であることが重要だとわかりました。

そこでファルマシアでは小さなプレパックカラムの開発を決定しました。カラムに担体が入ったプレパックカラムなら購入後すぐに使えますし、小型なら担体の量も少なくて済むので安価です。また、カラム小型化の背景には、担体の改良により結合容量が大きくなったことで、小型のカラムでも十分な量のタンパク質を得られるようになってきたこともありました。ただ、カラムを小型化するとどうしても理論段数は低くなりますので、小型プレパックカラムの開発は理論段数の影響があまり大きくないアフィニティークロマトグラフィー用の製品からはじめることにしました。

ハイ、できました

開発にはカラム本体の小型化だけでなく、Sepharose™ High Performanceシリーズの担体をベースにした新規担体、それから小型カラムへの担体パッキングを可能にする装置が含まれていました。

製造部門のパッキング能力の課題(あまりに小さいとパッキングが難しい)から大きなプレパックカラムのアイディアも出ましたが、それでは「安価な使い捨てカラム」という要件を満たせませんので、サイズは1 ml、5 mlに決めました。小型のカラムに担体をパッキングする装置のプロトタイプは、FPLCのP500ポンプを改造して製作しましたが、1本ずつしか製造できなかった上に、1 mlの製品は早期の自動化が実現しなければ需要に追いつかないと想定されていたので、外部のエンジニアリング会社に依頼して自動パッキング装置をつくってもらいました。

この製品はあくまでも使い捨てですので、カラム本体はあえて高級感がなさそうなデザインを選びました。

このプレパックカラムは、小型でもHigh Capacity(結合容量が大きい)であることと、アフィニティークロマトグラフィー用からスタートしたことにちなみ、そこでよく使われる目的タンパク質をトラップ(Trap)するという表現からHiTrap™と命名されました。

最初の製品は、6種類の担体とそれぞれの容量違い1 ml、5 mlのプレパックカラム、合計12種類のラインナップで1991年に発売されました。それからちょうど20年が経過しました。今ではHiTrap™シリーズは135種類を数える大きなファミリーに成長しました。

トラップ、ありました

と、書くと何とも順調でめでたい製品開発史になってしまいますが、実際には問題と失敗が少なからずありました。

1 ml用のカラムは直径が小さくてあつかいが難しく、自動パッキング装置ができあがるまでに実は相当時間がかかっていました。また、同じく製造用の装置では、カラムに文字を印刷する機材がイマイチで、当初はプラスチックのカラムにうまく印字できませんでした。

安価にするために安い材料を選んだせいなのか、開発当初のカラムはもろく、パッキングの際に圧力をかけるとヒビが入ることがありました。これでは不良品が増えてかえってコストアップ、「安物買いの銭失い」になってしまいます。そこで改良を加え、材料は今日も使われている丈夫なものに変更されました。

そんなこんなで発売にこぎつけたのですが、発売とほぼ同時にとんでもない問題が発覚しました。コスト削減のやり過ぎによりカラム頂部のストッパーの設計が不良で密閉が十分ではありませんでした。そのせいで、製品パッケージの箱の中でカラムが乾き始めてしまったのです。結局、慌ててストッパーを設計しなおすことになりました。


HiTrap™というと、このキャラクターを思い出される方も少なくないと思います。

HiTrap™キャラクター画像01HiTrap™キャラクター画像02HiTrap™キャラクター画像03

これは、楽しそうなキャラクターをつくって、若手研究者にHiTrap™の簡単で便利な感じを伝えようとしたものでした。ただし、いくら簡単さをアピールするにしても、精製用カラムとしての品質は十分であることも大事なところですので、ファルマシアが伝統的に使っていた赤いキャップは常にかぶせておくことにしました。

このように実にさまざまなデザインが用意され、HiTrap™を知ってもらうために活躍したのに触発されたのか、その他の製品でもキャラクターが用意された例がありました。ただ、筆者が調べた範囲ではHiTrap™のキャラクターのように活躍することはなかったようです。キャラクターの作者には残念な結果でしょうが、極東の某国のようなキャラクター作成ブームにならなくてよかったと思うのは、筆者だけでしょうか。

(さらにおまけのHiTrap™キャラクター画像集)
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HiTrap™キャラクター画像07HiTrap™キャラクター画像08HiTrap™キャラクター画像09HiTrap™キャラクター画像10
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