バイオダイレクトメール vol.7 Technical Tips
<FRETを利用した酵素活性測定>
蛍光共鳴エネルギー転移(FRET; Fluorescence resonance energy transfer)を用いた酵素活性測定の手法についてご紹介します。
FRETはドナーとアクセプターと呼ばれる2種類の蛍光物質が100Å以内に近づいた時に、ドナーが発した光エネルギーをアクセプターが吸収することをいいます。FRETの検出は通常ドナーの励起波長を照射し、ドナーあるいはアクセプターの蛍光強度を測定することで行います。ドナーの蛍光強度を測定する場合は、2種類の蛍光物質が近い位置にあるとアクセプターに光が吸収されるためドナーの蛍光強度は低くなり、距離が離れると蛍光強度が高くなります。アクセプターの蛍光強度を測定する場合はその逆で、距離が近いと蛍光強度が強くなり、離れると強度が低くなります。この原理を利用して生体物質を2種類の蛍光物質(ドナー、アクセプター)で標識すると生体物質がくっついたり離れたりする反応を観察することができます。2種類の蛍光物質を選ぶ条件はドナーの蛍光波長とアクセプターの吸光波長が重なっていることです。また、アクセプターには光を吸収するが蛍光は発しないクエンチャーなどが使用される場合もあります。
今回はヌクレアーゼ及びプロテアーゼの活性測定例をご紹介します。FRETが起こるにはドナーとアクセプターが100Å以下に接近していることが必要です。これをオリゴヌクレオチド、ペプチドに換算すると1ヌクレオチド、およびアミノ酸は約3Åなのでおよそ30分子以下になります。
ヌクレアーゼアッセイ
アクセプターの蛍光強度を測定するアプリケーション例としてヌクレアーゼアッセイを紹介します。オリゴヌクレオチドの5′末端を下図のようにCy3およびCy5で標識します。ドナーとなるCy3から発せられる光によりCy5が励起され、発光します。ヌクレアーゼを加えるとオリゴヌクレオチドが切断され、2つの蛍光物質が離れるため、FRETが起こらなくなります。その結果Cy5の蛍光は消失します。

図1 ヌクレアーゼアッセイの模式図
プロテアーゼアッセイ
ドナーの蛍光強度を測定するアプリケーション例としてプロテアーゼアッセイをご紹介します。基質となるペプチドのN末端をCy3(ドナー)で、C末端をCy5Q(アクセプター)で標識しましす(図2)。Cy5Qはクエンチャーと呼ばれる光を吸収する物質です。Cy3が励起されて発生した蛍光がエネルギー転移でCy5Qに吸収されます。プロテアーゼを加えるとCy3ドナーとCy5Qアクセプターが離れ、FRETが起こらないのでCy3より蛍光を検出できるようになります。

図2 プロテアーゼアッセイの模式図