Capto™担体
高いベッド高でプロセスの自由度を向上
各バイオ医薬品メーカーは新製品をいち早く発売しようと競争する中で、経済的負担の軽減と生産性の向上に迫られています。そのため、各社はバイオプロセス操作の経済性を改善する新たな方策を探し続けています。問題は、スループットと生産性の両方を向上しなければならないという点にあります。その達成には、高流速での分離が可能で高い動的結合能力を有する担体が必要です。高生産性陰イオン交換体Capto™ Qはまさにこの条件を満たしています(Capto™ Qの記事参照)。
新しい高剛性担体が開く新たな道
Capto™ Qは物理的強度に優れていることから、幅広いベッド高に充填して高流速で操作できます。スケールアップしてベッド高を高くし小口径カラムを使うことができます。一般に小口径カラムは操作や充填が容易であり、設備投資が少なく設置面積をとらないので、あらゆる点でコスト削減につながります。
通常、プロセス開発はスモールスケールで行い、至適化が完了した段階でラージスケールに移行します。スケールアップはベッド高と線流速を変えず、ベッド径と流速を増やすのが一般的です。サンプルとバッファーを節約するには、容積の小さいカラムを使って低いベッド高で至適化をするのが望ましいのですが、そうなると高いベッド高を必要とする最終スケールのプロセスとのジレンマが生じます。低いベッド高でのプロセス開発と、ベッド高を維持したスケールアップを両立するのは簡単なことではありません。したがって、Capto™担体がもたらす自由度を活用するには、プロセス開発とスケールアップの新たなアプローチが必要です。
高いベッド高を実現するプロセス設計
プロセスの至適化とスケールアップの原則は、最終スケールで用いられるベッド高の高低によって変化するものではありません。プロセスを適切に管理できていると主張するには、クリティカルなパラメータを至適化し、どのスケールでも一定であることを示す必要があります。
高生産性クロマトグラフィー精製のポイントは目的成分に対する担体の結合容量で、結合容量の至適化がプロセス開発の鍵となります。pHやバッファー組成などのプロセス条件が一定であれば、動的結合容量は滞留時間(目的成分と担体の相互作用が可能な時間)で決まります。滞留時間が長ければ長いほど、目的成分に対する担体の結合容量が増大します。目的成分と担体の相互作用は、カラムのベッド高とは関係ありません。実際には、結合容量の至適化がすでに完了しており、滞留時間が変わらなければ、ラボスケールのカラムから、ベッド高の高いパイロットスケールや製造スケールのカラムにスケールアップすることは可能です。
正確なスケールアップには、動的結合容量が一定である他にも、必要な条件があります。バイオ医薬品の製造プロセスのスケールアップには、分離プロファイルが同一であることが求められます。精製率や回収率の他、核酸や宿主細胞タンパク質、ウイルスなどの不純物のクリアランスが一定でなければなりません。ベッド高を変更するといずれかの数値が変わる可能性があるので、最終ベッド高で再バリデーションを行う必要があります。例えばウイルスクリアランス試験などは、最終ベッド高で徹底的にバリデーションを行うのが望ましいと考えられています。その場合、ベッド高と線流速を変えず、カラム径を縮小してプロセスをスケールダウンします。
まとめ
Capto™ Qを含め、最近開発された高剛性担体は、プロセススケールのカラムを高線流速、高ベッド高で操作することができます。小口径カラムは大口径カラムよりも操作が容易でありコスト効果で高いので、明らかにメリットがあります。プロセス開発やスケールアップの際、特定のパラメータは最終スケールのベッド高とは異なるベッド高で至適化できますが、それ以外のパラメータは最終ベッド高で検証する必要があります。Capto™担体による自由度は、ラージスケールでのタンパク質精製に新たな道を開きます。
用語解説:滞留時間
滞留時間は、例えば目的分子など、特定の非結合成分がカラムを通過するまでにかかる時間と定義されています。滞留時間はベッド高(cm)をサンプル添加時の線流速(cm/h)で割った数値とほぼ一致します。一方、固相(この場合担体)への物質移動時間とか、結合または非結合目的タンパク質の平衡化に要する時間とも定義されています。結合部位もしくは表面への溶質の輸送および結合/吸着プロセスは、作業のスケールとは無関係です。滞留時間が一定であれば、スケールを変更しても全体的な結合速度が保たれ、溶質の結合率が一定となります。