委託製造における課題
CMOの視点
1980年代以降、バイオ医薬品の委託製造業者(CMO)は流動的な状況に置かれています。2000年、2001年は生産が追いつかなかったため、バイオテクノロジー企業はバイオ医薬品の品不足が続くのを懸念していました。そこで、バイオ医薬品企業とCMOは生産設備に莫大な投資をしました。FDAに申請されるバイオ医薬品の数が減少しているため、今日では、初期の臨床試験用医薬品の生産能力が余る可能性が指摘されていますが、後期臨床試験用および市販用医薬品の生産能力は依然として不足する可能性があります。組換えタンパク質、モノクローナル抗体、ペプチドの委託製造で実績のあるDiosynth Biotechnology社は、常に需要に応えられる態勢を整えています。
従来、バイオテクノロジー企業は第III相試験までとそれ以降の医薬品の製造すべて担っていました。FDAが臨床試験用医薬品の製造記録を義務付けたことにより、企業は臨床試験の結果が出る前に製造プロセスに多額の投資を強いられました。臨床試験の結果で開発が中止になった場合、その投資は相当な負担になりました。
1990年代半ばにFDAが規制を変更し、バイオ医薬品の製造の初期工程を外部委託してもよいことになりました。そのため、CMOの生産能力が急速に拡大し、2004年には全バイオ医薬品企業のおよそ35%が製造を外部委託するまでになりました。2008年には約50%に達すると予想されています(1)。
外部委託の理由としては、自社内でのプロセス開発やスケールアップのノウハウが不十分であることや、製造設備を追加する必要があることがあげられます。創薬に力を注いでいる企業が、GMP対応施設を揃えてプロセス開発や製造を行うのは困難です。GMP対応施設の整備に必要な時間と資金で、小規模企業は実績のあるCMOを利用することが可能です。
モノクローナル抗体の重要性
CMOの成長に拍車をかけているのが、哺乳類細胞培養施設の需要です。特に、哺乳類細胞を用いて生産するモノクローナル抗体製剤が増加しているためです。モノクローナル抗体を利用した新治療法の需要を反映し、大容量のリアクターの数が増えています。大容量のリアクターにかかるコストは、最高の設備と資金を投じた会社に匹敵するほど高額です。CMOには数千リットルの生産能力があり、しばらくの間は、モノクローナル抗体製剤を抱えるバイオ医薬品企業のニーズに応えることが可能です。
実績あるCMO
Diosynth Biotechnology社は、米国とオランダにGMP対応施設を有し、技術移転やプロセス開発からラージスケールの製造に至るまでバイオ医薬品の製造に関してあらゆる面のノウハウを持った委託製造企業です。バクテリアや酵母、昆虫細胞、哺乳類細胞を宿主とする組換えタンパク質や融合タンパク質など、非常に広範囲のバイオ医薬品に対応したノウハウを提供できます。
医薬品業界に精製技術を提供する立場として、Cytiva社はDiosynth社にラボスケールやベンチスケールから製造スケールにいたる担体や装置を長年提供してきました。Diosynth社では、プロセスの多くにÄKTA™explorerシステム、BioProcess™スキッド、精製用担体、ホローファイバー膜技術、拡張流動床クロマトグラフィーを利用しています。担体の選別や効率的なカラム充填に関して、Cytivaの技術スタッフがいつでも相談に応じており、Diosynth社とCytivaの絆を深めてきました。
スピードが重要
Diosynth社の近年のプロジェクトには、Cytivaが提供した製品が生かされています。Diosynth社は、モノクローナル抗体の製造プロセスに関する技術移転と2Lから2,000 Lへのスケールアップを半年以内で実現しました。これほど短期間で達成できたのは、Cytiva社からの協力、技術支援、製品があったからです。このプロジェクトの成功には、UNICORN™制御ソフトウェアも貢献しています。UNICORN™は、Cytivaのすべてのクロマトグラフィーシステムとろ過システムに共通する制御ソフトウェアで、タンパク質精製プロセスの簡素化にはなくてはならない存在です。使用に慣れるまでの時間を短縮し、クロマトグラフィー操作とろ過操作の幅広いスケールに十分に対応します。Diosynth社の研究員Greg Runyon博士は「方法と操作の追跡ができ、処理をラボスケールから製造スケールにスケールアップできる」と述べています。ロード時間、カラム洗浄プロファイル、グラジェントプロファイルなどの分離に関わる変数をほとんど変えずに、研究室で開発した方法をラージスケールに移行することができます。ラボスケールで行ったカラムの洗浄、再生プロトコールもスケールアップが可能です。ろ過プロセスも同様です。プロセスの流速や膜間差圧のスカウティングをラボスケールで行い、ラボスケールの装置から生産ユニットへ直接スケールアップが可能です。UNICORN™を用いれば、あらゆるスケールで同じ方法を適用でき、電子署名や電子記録の規制要件を完全に順守できます(FDA 21 CFR Part 11)。UNICORN™は使いやすくバリデーションが可能だとRunyon博士は述べています。
Diosynth社が語る今後の進展 - Diosynth社の営業部副社長Richard A. Basile氏が語る
「私共はバイオ医薬品製造業界全体のキャパシティーがバランスのとれた状態に近づいていると思っていますが、発現系、容量、設備を所有する企業を考えると状況は複雑です。今後、業界はさらにひしめき合い競争が激しくなりますが、Diosynth Biotechnology社のように幅広いサービスを提供し、好業績を上げているCMOは、活発なバイオ医薬品開発の恩恵を受けることができると思います。現在、私共は米国とEUにある工場で4品目の承認済み医薬品を製造しており、弊社が製造している後期臨床試験段階の医薬品や市販品の製造がさらに増えると予想しています。
この点に関する最大のニュースはDiosynth社がOrganon社と合併したことであり、Aken Nobel社はバイオテクノロジー分野へのコミットメントを表明し、米国マサチューセッツ州ケンブリッジに研究センターを開設しました。この合併によってDiosynth Biotechnology社とOrganon社は、かつてない幅広いサービスを提供できることになります。特に細胞系の開発、製造から規制対策に至るChemistry, Manufacture and Control(CMC)の徹底したクリティカルパスに対するソリューションを提供します。さらに場合によっては、商業化提携として顧客に有利な条件や共同開発の選択肢、インライセンスの機会を提供する立場となります。
中間スケール施設とラージスケール施設の両方で細胞培養と発酵の需要が大きく伸びつつあると感じており、初期段階の技術が前臨床段階や初期臨床試験段階の開発に移行するにつれて、スモールスケール施設がフル稼働になりつつあります。オランダにある私共の新しいラージスケール施設は、下流工程と上流工程の両方でcGMPに対応したフレキシブルな最先端の製造技術の代表です。私共はこの製造スケール施設に大いに期待しており、近い将来、新たな顧客を獲得してサービスを提供できると確信しています。上流設備も下流設備も自由度の高い設計をしているので、個別の需要に応えることができます。例えば、最近、私共は第III相試験用および市販用にトランスジェニック動物モデルで生産したタンパク質の精製でPharming社との協定に署名したと発表しました」
謝辞
バイオ医薬品の製造においてCMOが直面している課題についてお話いただいたDiosynth Biotechnology社に感謝申し上げます。
ノースカロライナ州Research Triangle ParkとオランダOssにあるcGMP対応施設で、モノクローナル抗体や組換えタンパク質などのバイオ医薬品を委託製造しています。細胞培養施設と発酵施設には110L、2,000L、7,500L、25,000Lのバイオリアクターを備え、スモールスケール、中間スケール、ラージスケールの製造に対応でき、各種精製工程と最終製造工程に必要な設備を完備しています。生物製剤の製造に80年の経験があり、製薬企業55社との取引実績があります。Diosynth Biotechnology社は、世界各国の臨床試験用および市販用医薬品のcGMP製造のために経済性の高いプロセス開発を提供することに重点を置いています。
参考文献
A Survey of Industry Capacity in Advances in Large Scale Biopharmaceutical Manufacturing and Scale-up Production Vol. 2 (Langer, E. ed) Institute for Science and Technology Management, Maryland, p. 723 (2003).