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ワクチン製造用のプラスミドDNA:
高回収率製造と迅速分析

Nature Technology Corporation (Lincoln, Nebraska, USA) は新しいfed-batch(流加)培養法を開発し、今日までに報告1されている中でも最も高い回収率(2.1 g/L, 43 mg/g 乾燥重量)での高品質のプラスミドDNA製造を実現しました。新しいPlasmidSelect Xtra Screening Kitを用いた迅速かつ正確なプラスミドDNAの定量および品質評価も紹介します。


DNAワクチンおよび遺伝子治療薬の開発が治験段階さらには製薬市場へ向かうに従い、プラスミドDNAの重要性が次第に高まってきています。がんだけでなくウイルス、細菌および寄生虫疾患に対する予防ならびに治療用ワクチンすべてが新世代製品の対象となる可能性があります。製造販売を目指したDNAワクチンについては、低コストでの製造と並んで高い回収率と品質が強く要求されています。

温度を上げるとプラスミドの回収率が向上するという新たな培養プロセスでは、大量のプラスミドDNAを得ることができます。プラスミドの定量および品質評価を迅速に行うツールを用いることにより、培養および精製プロセスが至適化され、上記の目標を達成することができます。

誘導プロセスにより高回収率と高品質を実現

図1
図1.プラスミド生産用fed-batch培養において、栄養分を制限しかつ低温(30oC)で増殖させた後、温度を42℃ まで上げることにより、pUC系プラスミドの複製を誘導(X =菌体濃度; F(t) =供給速度; V =培養量; Sf = 制限基質濃度; u = 比増殖速度)

プラスミド産生のホストとして広く用いられている大腸菌DH5α株でFed-batch培養を行いました。DH5α株においては、recAの変異によりクローンしたDNAの組み換えを最小限に抑えており、またendA1の変異によって非特異的なプラスミドの分解の可能性を取り除いています。目的物質であるpDNAVaccはpUC系の複製により至適化された6.5 kbのDNAワクチンプラスミドです2

この誘導プロセスでは、プラスミド回収率および品質を高めるために調製された市販培地を使います。基本培地中の炭素源が枯渇すると、fed-batchフェーズを開始し、栄養制限下対数増殖供給法(nutrient-limited exponential feeding strategy, 図1)に従い栄養分を供給します。

まず菌体量を増やし、次にプラスミドを蓄積させます。栄養分を制限しかつ低温(30℃)で増殖させ、プラスミド産生量を低く維持します。次に温度を42℃まで上げ、プラスミド複製を誘導します。一般に、比プラスミド回収量は昇温後15時間に渡って上昇します。

迅速なプラスミドDNAの定量および品質評価

PlasmidSelect Xtra Screening Kitは、Sepharose™ High PerformanceおよびPlasmidSelect Xtra担体が充填されたプレパックHiTrap™で構成されており、このキットを用いてプラスミドDNA含量および品質、すなわちsupercoiled (スーパーコイル)/open circular (開環状)プラスミド比(sc/oc)が測定できます。

このキットはÄKTA™designクロマトグラフィーシステムを用いて、簡単に測定ができます。前処理なしで複雑なサンプルを迅速かつ正確に分析できるため、培養およびアルカリ溶菌のアプリケーションに特に有用です。

この方法では、まずHiTrap™ Sepharose™ HPでプラスミドDNAのグループ分画を行い、結果と標準曲線と組み合わせることで定量を行います。次にHiTrap™ PlasmidSelect XtraでscプラスミドDNAアイソフォームとocプラスミドDNAアイソフォームを分離し、そして2つのピークをまとめることによりsc/oc比を算出します。

いずれの培養段階においてもサンプルを採取し、分析することができます。プラスミドDNA含量は通常10分以内に測定でき、sc/oc比も30分以内に得ることができます。図2には、この方法を用いて得た典型的な分離例を示しています。比較として、アガロースゲル電気泳動によるpDNA分析も行いました。

図2. 典型的な分離パターン (A) HiTrap™ Sepharose™ HPを用い、グループ分画により測定したプラスミドDNA含量 (B) HiTrap™ PlasmidSelect Xtraを用い、選択的にプラスミドDNAアイソフォームを測定して得られたsc/oc比
A)
図2A
Column: HiTrap™ Sepharose™ HP 5 ml
Buffer: 2.1 M (NH4)2SO4, 10 mM EDTA, 100 mM Tris-HCI, pH 7.5
Wash: MilliQ water
System: ÄKTA™explorer 10
Software: UNICORN™ 5.01
B)
図2B
Column: HiTrap™ PlasmidSelect Xtra 1 ml
Buffer A: 2.25 M (NH4)2SO4, 10 mM EDTA, 100 mM Tris-HCI, pH 7.5
Buffer B: 2.0 M NaCl, 10 mM EDTA, 100 mM Tris-HCI, pH 7.5
Gradient: 0~55% B in 11 CV
Wash: MilliQ water
System: ÄKTA™explorer 10
Software: UNICORN™ 5.01

結果

サンプルを一定の間隔で培養槽から採取し、細胞密度を測定した後プラスミドDNA分析を行いました。接種後25時間目(細胞密度:OD600 = 40)に42℃に昇温し、pDNAVaccプラスミドの複製を誘導しました。41時間目には、最終細胞密度がOD600 = 90になりました。

プラスミドDNAを定量したところ、回収量は昇温後15時間に渡って上昇し続けました。最終回収率は1.1 g/Lでした。

プラスミドDNAの品質分析を行ったところ、最終サンプル中のscプラスミドの純度は96%でした。過去の検討から、HiTrap™ PlasmidSelect Xtraによる品質分析はキャピラリーゲル電気泳動結果と同等であることが証明されています(Application Note 28-4094-86 AA. Fast determination of plasmid DNA quantity and quality in complex solutions)。

図3に昇温後の細胞密度、プラスミドDNA回収率およびsc/oc比のモニタリング結果を示しました。

図3
図3.6.5 kbプラスミド(pDNAVacc)培養のモニタリング結果。細胞密度(A600)、プラスミドDNA回収率(mg/L)およびsc/oc比。後者2つのパラメータはPlasmidSelect Xtra Screening Kitを用いて測定。

濃度測定分析技術の代替法

PlasmidSelext Xtra Screening Kitで得たピークを回収し、アガロースゲル電気泳動(AGE)により同定を行いました。図4にHiTrap™ Sepharose™ HPによるグループ分画で得たプラスミドDNA画分ならびにHiTrap™ PlasmidSelect Xtraによって分離したocおよびsc画分のAGE結果を示しました。sc画分レーンの薄い上部のバンドはscプラスミドダイマーでocアイソフォームと近い位置に泳動されます(データ非掲載)。sc/oc比もゲルイメージの強度を分析して算出しました。

PlasmidSelect Xtra Screening Kitから得た結果よりも、AGEから得たocプラスミド量は全体的に多くなりました。sc/oc比測定におけるAGEの信頼性は、その他の欠点(例えば、カメラの露出時間、アイソフォームごとに異なる染色、アイソフォームの同時移動)により限界があります。

図4
図4.HiTrap™ Sepharose™ HPによるグループ分画で得たプラスミドDNA画分ならびにHiTrap™ PlasmidSelect Xtraで分離したocおよびsc画分の純度を示したエチジウムブロマイドで染色した0.8%アガロース電気泳動ゲルサンプルを各フラクションごとに3レーンで分析しました。左から、それぞれ接種後25、29、33、37、39、40および41時間目のサンプルを示しています。25時間目のサンプルは5倍希釈、残りのサンプルは10倍希釈して泳動しました。ocピーク画分は希釈せず、scピーク画分は2倍に希釈して泳動しました。

まとめ

Nature Technology Corp.が開発した誘導fed-batck培養法は、高い生産性を有した培養を可能とし、結果的として高いプラスミド回収率(通常1 g/L以上)が得られます。さらに、PlasmidSelect Xtra Screening Kitを用いて、このプロセスで回収したプラスミドの品質が高いことを証明しました(supercoiled含量 96%)。

誘導培養と迅速かつ正確な分析の組み合わせにより、回収率と純度の向上ならびに医薬品市場への導入を目指したプラスミドDNAの製造コスト削減をサポートします。


参考文献

1. Carnes, A. E., et al. Inducible E. coli fermentation for increased plasmid DNA production. Biotechnology and Applied Biochemistry 45, 155-165 (2006).
2. Williams, J. A., et al. pDNAVACCultra vector family: high throughput intracellular targeting DNA vaccine plasmids. Vaccine 24 (21), 4671-4676 (2006).

追加情報

Data File:
PlasmidSelect Xtra, PlasmidSelect Xtra Screening Kit, PlasmidSelect Xtra Starter Kit, 28-4094-87

Application Notes:
PlasmidSelect Xtra for downstream processing of supercoiled plasmid DNA, 28-4094-85
Fast determination of plasmid DNA quantity and quality in complex solutions, 28-4094-86


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