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洗浄や洗浄バリデーションの軽減または省略、迅速な操業開始、柔軟性、将来的に簡単に技術移管できること、交叉汚染の可能性の低減などがディスポーザブル製品の使用が過去数年の間に増加した理由として考えられます。FDAはドラフトガイダンスで第I相臨床試験用の治験薬製造にディスポーザブル製品を使用することを提唱しています。 ディスポーザブル製品の使用と規制上の課題FDAは、ドラフトガイダンスで、ディスポーザブル製品がcGMPの遵守を促進し、プロセス開発の簡素化に役立つと言及しています1。FDAはさらに、多品目製造施設で生産が行われる場合において、各製品に専用の装置を充てることができないときは、ディスポーザブル製品を使用することが望ましいとしています。 現在、ディスポーザブル製品は、細胞株の樹立から、細胞培養、精製、製剤化の操作に至るまで使用することができます。ディスポーザブル製品を使用しても、バリデーションに関するすべての課題を回避できるわけではなく、他にも考慮すべき規制上の課題があります。規制の要求を遵守するためには、原料の管理、リスクアセスメント、評価の文書化が求められます。ここでは、溶出物と漏出物、供給業者の適格性評価、スケーラビリティー、バリデーションについて取り上げます。 溶出物と漏出物装置は、1回または複数回の使用にかかわらず、原料、プロセス中間体、原薬(API)、最終製剤のいずれかと接触する表面が反応性、付加活性、吸着性を持たないことが求められます。その趣旨は、製剤の安全性、特性、強度、品質、純度を維持することにあります2。これは、患者の安全を守る上で非常に重要であるため、承認されたバイオ医薬品を製造する装置のみでなく、治験薬製造用の装置についても取組むべき課題です。BPSAのウェブサイトには、ディスポーザブル装置の溶出物と漏出物のリスクを評価する体系的な手法が掲載されています3。カナダ保健省の職員がまとめた「閉鎖系容器システムの溶出物と漏出物に対する体系的な手法」にも詳細な情報が記載されています4。一般に、シングルユースの器具や装置は、ラミネートまたは接着剤で接合した複数層のプラスチックやエラストマーのフィルムでできています。溶出物や漏出物の元となりうるものには、基材ポリマー、添加剤、プロセスや重合時の残留物、不純物、分解物などがあります5。 溶出物溶出物とは、エラストマーやプラスチック成分から遊離する可能性のある化合物のことです。溶出物は、これらの成分は製造直後すぐに存在している場合や、後日、保管の段階やガンマ線照射の結果として生じる場合もあります。新しい分子が成分の内部に形成されることや、プラスチックの層が分解することもあります6。これらの成分に対して試験を行い、どのような条件下でどの化合物が溶出される可能性があるのか、理解する必要があります。ある総説には、数種類のプラスチック材料において、様々な溶液との接触条件下で溶出される物質の一覧が掲載されています7。製造業者が製品に対して試験を行い、溶出物データを提示するのが一般的です。 漏出物漏出物とは、つまり通常の使用条件下で遊離する化合物のことです。数年前に、コートしていないゴム栓の付いた注射器でEPO(エリスロポエチン)を投与された患者が赤芽球癆(PRCA)を発症し、警告がでたことがあります。コートしていないこの栓から芳香族および脂肪族の漏出物が浸出し、これがアジュバントとして作用してEPOの免疫原性を促進させPRCAが発症したと考えられます8。FDA査察官によると、タンパク質製品は漏出物に対して特に高い感受性を持つことがあるということです9。 注射剤の製造業者は、実際のプロセス条件下で漏出物試験を実施することが求められます。一般に、漏出物試験の計画に必要な情報は、溶出物試験のデータと試験方法から十分に得ることができます。注目すべき点として、接着剤成分、ラベルのインクに由来するトルエン、硬化剤は、プラスチック容器の内側に移動することが知られています10。バイオ医薬品では、プラスチックの種類によって影響が異なります。一例として、充填/最終工程の段階で、充填用の先端部を変更したところ、最終製品で凝集が生じたケースが知られています。また、漏出物はプロセス中間体、API、最終製剤の試験を妨げることがあります。例えば、プラスチック製のディスポーザブル製品に由来する漏出物が、エンドトキシンに対するLAL試験に干渉することが報告されています11。 溶出物および漏出物に関連した規制上の課題には以下のようなものがあります。
試験方法溶出物や潜在的な漏出物の分析には、同定、定量、生物学的適合性の評価のための試験法が要求されます。溶出物や漏出物の特性の試験には、質量分析(GC-MS、LC-MSなど)、NMR、LC、FTIRなどの試験法が用いられます。定量的な手法には、非揮発性残留物(NVR)の測定が含まれます。全有機炭素(TOC)の測定も有用な定量的測定法のひとつです。生物学的適合性の評価は、数ある手法の中でも特にUSPやEUなどの薬局方が定める手法に従って行います。Class VI試験としては、溶出物をマウスに注射して行うin vivo解析(全身注射試験)、ウサギを用いた局所的応答測定(皮下試験)、筋組織移植試験などがあります12。細胞毒性試験は、哺乳類の培養細胞を用いて行います13。これらの手法はいずれもディスポーザブル製品の供給業者が実施しますが、データを確認し、規制当局による査察時にデータをすぐに提示できる場所に保管し、プロセス固有の漏出物試験を供給業者のデータで代用することの正当性を説明するのは製造業者側の義務です。供給業者による情報が十分でないときは、エンドユーザーが溶出物試験を実施する必要があります。溶出物や漏出物の試験を計画する場合は、収集すべきデータが最小限になるよう、ファミリーアプローチやブラケティングアプローチを使用することをご検討ください14。 許容限度の設定漏出物は、製品の分解、毒性、免疫原性、発がん性をもたらす可能性があります。溶出物の許容限度を設定するためにさまざまな手法が取られてきましたが、そのほとんどは患者の安全性のリスクアセスメントや評価に関連しています。上流の漏出物は精製プロセスにより、除去することができます。これは現在のアフィニティークロマトグラフィー工程からProtein Aが除去されているかを確認するのと似ています。最終製剤中に含まれる量を算出し、毒性学的分析を実施し、安全域を設定します(一般に、浸出物のLD50より3 log以上低い値を設定します)15。 供給業者の適格性評価供給業者との対話や供給業者の査察は、医薬品を製造する企業にとって常に重要となります。供給業者適格性評価は、一貫性、バッチ間の信頼性があるディスポーザブル製品の供給をうける上で欠かせない要素です。ディスポーザブル製品のみを使用する工場では、適格性評価の対象となる供給業者が多く、供給業者の適格性評価の計画を策定することが極めて重要です。 ディスポーザブル製品の製造に使用される原材料のトレーサビリティーは規制上の要件のひとつです。規制では、動物由来製品に対してかなり厳格な要件を定めています16, 17。また、動物由来原料に関連する事項に加え、製造時に使用された他の潜在的な有害物質が存在しないこと、または除去されていることを明記した書類を提出する義務、製剤を製造する企業がその書類を審査および保管する義務が課せられています。 ディスポーザブル製品が無菌状態で提供されている場合、滅菌プロセスのバリデーションに関する書類が必要となります。多くの場合、プラスチックの滅菌にはガンマ線照射が用いられます。ガンマ線照射滅菌については、ガイドラインが制定されており、下請け会社で実施しても構わないことになっています18, 19。 スケール変更ディスポーザブル製品を使用することにより、FIH(first-in-human:初めて人に投与する)試験までの時間を短縮できます。ただし、順調に進めば、第III相臨床試験でスケールアップが必要となることは間違いありません。さらに製剤が大量に必要となれば、承認後にスケールアップのバリデーションが必要となる場合があります。スケールアップが可能であることは、臨床試験や毒性試験の繰り返しを回避する上で極めて重要です。ディスポーザブル製品が大規模製造に使用できない場合や現実的でない場合に、大規模製造用設備の接液部材質がこれまでと異なる場合もあります。事前の計画の策定や適合性試験および毒性試験の実施は慎重に行う必要があります。 大規模製造では、プロセス中間体や製品との接触面が異なることに加えて、装置設計を変更しなければならないことがあります。例えば、バイオリアクターでは、高さを変更すると、圧力が増加し、細胞のマイクロキャリアへの接着に悪影響を及ぼす可能性があります。また、混和のダイナミクスが変わると、ガス交換が十分に行われなくなる可能性や栄養が行き渡らなくなる可能性があります。細胞にストレスがかかると、レトロウイルス粒子が増加し、下流プロセスの変更を余儀なくされる場合があります。 バリデーションディスポーザブル製品を使用する単位操作に対し、バリデーションを行う必要があります。コンポーネントに対しては据付時適格性評価(IQ:installation qualification)と運転時適格性評価(OQ:operational qualification)が必要となり、組み立てられたシステムには稼働性適格性評価(PQ:performance qualification)が必要となります20。バリデーションの前に、互いに接続する個々のコンポーネントの適合性を評価することが重要です。OQの一環として漏れ試験が必要になる場合もあります。ディスポーザブル製品のプロセスのバリデーションは、製造時と同じ化学条件下で行います。供給業者の適格性評価パッケージ、実際のプロセス条件での漏出性データ、ディスポーザブル製品の妥当性に関する書類は、バリデーションパッケージを裏付けするものとなるため、規制当局による査察時に提示できる状態にしておく必要があります。 ディスポーザブル製品の保存のバリデーションも必要です。ディスポーザブル製品の安定性は、実際の保存条件下でバリデートする必要があります。例えば、バリデーション試験では、時間、温度、pH、電気伝導度、明るさ、接触溶液などの項目が必要となる場合があります。保管のバリデーションの一環として、製造設備内での製品の品質についても評価する必要があります。しかし、適切に設計およびバリデートされていれば、小規模の試験で十分な場合もあります。 ディスポーザブル製品を用いる主な利点は洗浄バリデーションを省略できることにありますが、測定用プローブなど一部のコンポーネントについては依然として洗浄および滅菌後にバリデーションを行う必要があります。 注意すべき点は、溶出物や漏出物の測定に使用する分析法のバリデーションも必要なことです。分析法のバリデーションについてはICH Q2Aおよび2Bに記載されています21。また、ディスポーザブル装置の廃棄プロセスについてもバリデートする必要があり、多くの場合、これは各地域の規制に従って行います。 まとめディスポーザブル製品を使用すれば、臨床試験を迅速に開始し市場にいち早く導入できるほか、技術移管を簡素化し、交叉汚染のリスクを低減、洗浄のバリデーションを省略できます。しかし、溶出物や漏出物の同定および試験、供給業者適格性評価、スケールアップ、バリデーションなど、いくつか対応すべき規制上の課題も残されています。 参考文献
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