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Kvick™ labカセットを用いたCHO細胞培養液の濃縮

10 kD Kvick™ labカセットを用い、CHO細胞培養液のクロスフローろ過プロセスを開発、至適化を行いました。サンプルの濃縮およびダイアフィルトレーションを2種類のクロスフロー流量で至適化し、1,500 Lのバッチサイズまでスケールアップしました。併せて、このプロセスにおける効果的な洗浄方法についても実証しました。この結果、TMP(transmembrane pressure) 2.2 bar、クロスフロー流量 8.2 l/min/m2が推奨のプロセス条件でした。

■ Kvick™ labカセット
■ Kvick™Lab システム、Kvick™Flow システム


はじめに

CHO細胞はモノクローナル抗体ほか、治療用タンパク質生産の発現系に幅広く利用されている細胞です。CHO細胞培養液の濃縮には、高流束で処理できるフラットシートカセットが適しています。 メンブレンの公称分画分子量(NMWC)はプロセスの性能に大きく関係します。
メンブレンの分画分子量が目的分子より大きい場合、収量は著しく低下します。逆に分画分子量が小さすぎる場合は、流束が落ち、プロセス時間の増大および大きいシステムが必要となります。メンブレンを用いたクロスフローのアプリケーションでは、メンブレンの孔径は、一般的に目的分子のサイズによって選択します。経験的に、メンブレンの分画分子量は、目的タンパク質の1/5~1/3の大きさのものを選択します。よって、IgGの濃縮には50 kDまたは30 kDのメンブレンを、血清アルブミンには10 kDのメンブレンが使われます。
この研究では、10 kD Kvick™ labカセット(0.01 m2、Cytiva)を用い、分子量約37 kDの目的タンパク質を含むCHO細胞培養液を濃縮しました。このプロセスでは、20倍濃縮、5倍量ダイアフィルトレーションを行いました。このプロセスは、TMPとクロスフロー流量で至適化しました。両方のパラメーターとも、流束を至適化に重要です。さらにプロセスの安定性およびカセットの洗浄性についても検討しました。プロセスを至適化した後、1,500 Lまでスケールアップし、その結果5時間で処理が完了しました。

実験と結果

TMPの至適化

TMPは流束に直接影響をおよぼすため、TMPの至適化は重要です。TMPが低いと、流束が落ち、大きなメンブレン面積が必要となるため、さらに大型のシステムが必要となります。一方、TMPが高すぎると、ゲル層の形成が進みます。最適なTMPは、あるクロスフロー流量におけるTMP-流束曲線で求めることができます。
TMP-流束曲線を書く前に、10 kD Kvick™ labカセットにてΔP-クロスフロー曲線を作成しました。ΔPとクロスフロー曲線をもとに、900 ml/min(ΔP = 1.6 bar)と650 ml/min(ΔP = 1 bar)2種類のクロスフロー流量でのTMPの至適化を実施することにしました。
Fig.1 にサンプル流束-TMP曲線を示します。この情報を用い、2種類の異なるクロスフロー流量における至適なTMPから、スケーラビリティーの検討を行いました。

図1


20倍濃縮におけるプロセススケーラビリティー実験

TMP至適化実験で選択した(1)TMP 2.2 bar、クロスフロー流量 900 ml/min、(2)TMP 1.5 bar、クロスフロー流量 650 ml/minの 2種類のプロセス条件にて、プロセススケーラビリティーを検討しました。それぞれ20 LのCHO細胞培養液を用い、20倍濃縮および5倍量のダイアフィルトレーションを行いました。Fig.2にサンプル流束-ろ過量曲線を示します。サンプル流束-濃縮倍率曲線の結果は、Fig.3に示します。
クロスフロー流量900 ml/minでの処理(Fig.2の900-1, 2.2 bar)では、サンプル流束は一定でした。クロスフロー流量を650 ml/minに落としたところ、予想通り、サンプル流束の減少がみられました(Fig.2の650-1, 1.5 bar)。1回目と2回目のサンプル流束(Fig.2の900-1, 2.2 barと900-2, 2.2 bar)を比較すると、プロセス条件が全く同じにもかかわらず、2回目の方が、最初の処理に比べ流束が非常に遅いことがわかります。流束の低下に関しては、カセットの洗浄性実験で言及します。

図2   図3


カセット洗浄方法の評価

標準的なカセットの水流束テストを用い、3種類のカセット洗浄方法を評価しました。低下してしまった流束を回復させるため、Table 1のカセット洗浄プロトコールにて検討を行いました。室温にて0.5 M NaOHで30分、40℃において1 M NaOHで洗浄、また室温にて次亜塩素酸ナトリウムを含む0.5 M NaOH (300 ppm)の3種類の洗浄方法を検討しました。NaOHと次亜塩素酸ナトリウムの組合せが最も効果的でした(Table 1)。


表1


プロセス安定性の検討

NaOH-NaOClの洗浄プロトコールが本当に効果的であったかを検証するために、3回目のクロスフロー流量900 ml/min、TMP 2.2 barでのCHO細胞培養液の濃縮試験を実施しました。その結果、サンプル流束と濃縮倍率より、最初の処理とほぼ同じ結果が得られました(Fig.4)。


図4


ダイアフィルトレーションの至適化

バッファー消費量とプロセス時間の両方で、ダイアフィルトレーションを至適化しました。濃縮倍率ごとのサンプル流束にて評価しました(Fig. 5)。ダイアフィルトレーション至適化曲線は、クロスフロー流量に対しプロットしました。最速なプロセス時間で処理するためのダイアフィルトレーション条件は、このデータから得ることができます。
クロスフロー流量 900 ml/min、2.2 barでは、20倍濃縮後、ダイアフィルトレーションを行うと、バッファー消費量およびプロセス時間が最小限になるという非常に効果的な結果が得られました。クロスフロー流量 650 ml/min、1.5 barでは、ダイアフィルトレーションは16倍~20倍濃縮の間で最もプロセス時間が短くなりましたが、バッファー消費量は20倍濃縮時に最小量でした。

図5


プロセスのスケールアップ

Kvick™ labカセットはKvick™ flowカセット(Cytiva)へ直線的にスケールアップが可能です。至適化されたプロセス条件にて、1,500 Lまでスケールアップし、5時間で処理できました。 Kvick™ lab(Table 2)で得られた結果をもとに、異なるプロセス条件におけるサンプル流束の平均を計算しました。1,500 Lバッチに必要なメンブレン面積を計算し、Table 2に結果を示しました。5時間で処理を完了するためには、クロスフロー流量 900 ml/minの結果を用いて計算した結果、メンブレン面積は4.5 m2、一方クロスフロー流量 650 ml/minの結果を用いた場合は、メンブレン面積は5.9 m2が必要であるという結果がでました。4.5 m2のシステムに要求されるクロスフロー流量は37 l/min、5.9 m2では35 l/minです。 Kvick™ labテストで得られた結果をもとにスケールアップの計算を行ったところ、クロスフロー流量 8.2 l/m2/min、TMP 2.2 barでの運転が推奨されました。


表2


まとめ

この研究では、目的タンパク質の分子量が約37 kDであったため、10 kDカセットを選択しました。
至適TMPは、20倍濃縮および5時間以内でのプロセス両方について、ほぼ同等な結果となりました。プロセス安定性のデータは、至適TMPの選択において、補足となります。 プロセス開発の重要なステップは、効果的な洗浄ステップを組み込むことです。このテストでは、室温下0.5 M NaOHでの温和な洗浄サイクルでは水流束を十分に回復できず、次亜塩素酸ナトリウムをNaOHに加えることで、効果的な流束を得ることができました。次亜塩素酸を加えた洗浄液では、水流束およびサンプル流束の両方が回復しました。次亜塩素酸ナトリウムが好ましくない場合は、0.5 M NaOHの洗浄ステップ後に、酸(0.5 M H2SO4)での洗浄ステップを試してみてもよいかもしれません。塩基に引き続き、酸での洗浄を行う手法にて、過去に良い結果が得られています。
最後に、この研究でCHO培養液の濃縮、ダイアフィルトレーションプロセスの開発、至適化を行い、1,500 Lまでのスケールアップも行うことができました。



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