Biacore 文献情報 低分子医薬品
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FBDDを基盤としたPPI阻害剤の探索
フラグメントベースドラッグディスカバリー(FBDD)において、BiacoreはNMR等の他の生物物理学的手法と並行して頻繁に活用されていますが、PPI阻害剤の探索における適用例は多くはありません。武田薬品工業株式会社では、フラグメントライブラリーをスタートとして、PPI阻害剤のスクリーニング、阻害効果の確認、化合物の最適化の過程でBiacoreを使用しました。ターゲットタンパク質は、自己免疫疾患やガンに関与する転写因子:B-cell lymphoma 6 (BCL6)で、補因子:BCoRとの結合阻害を阻害する化合物を探索しています。BCL6はホモ2量体で、2量体の結合によってできる浅いくぼみをターゲットとして、Biacore測定でヒットしたフラグメント(KD = 1200 μM, ligand efficiency (LE) = 0.28)を、HTSでのヒット化合物とインテグレートして最適化を行っています。最適化した化合物は、BiacoreでKD= 0.078 μM, LE = 0.37、細胞アッセイでPPI IC50=8.6 μM (M2H)の阻害効果が得られています。
参考文献: Kamada, Y., et al. (2017). “Discovery of a B-Cell Lymphoma 6 Protein-Protein Interaction Inhibitor by a Biophysics-Driven Fragment-Based Approach.” J Med Chem 60(10): 4358-68.
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低分子創薬におけるBiacoreの活用方法
1990年代後半から始まったSPRを用いた低分子医薬品の測定ですが、現在ターゲットバリデーションからスクリーニング、MOAの理解、リード最適化など幅広い分野で様々な手法とともに、より確かなデータを迅速に取得するための基盤技術として日常的に使われるようになりました。近年においてはFBDDにおいて、NMRやX-ray構造解析と共に主要技術となっています。このような低分子創薬におけるBiacoreの主な活用方法をまとめました。
詳細は以下アプリノート: Biacore™ systems in small molecule drug discovery(PDF)から
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HTSにおいてBiacoreを含めたBiophysics測定を活用した結果
アストラゼネカ社は2000年代初頭からHTSに並行してNMR、SPRやITCなどのBiophysics測定技術を使用してきました。最初は、HTSのトラブルシューティング的な位置づけだったが、近年はプロジェクトの初期から積極的に使うようになっているようです。20のin-houseのプロジェクトをレトロスペクティブに検証した結果、BiophysicsはHTSの測定系やアウトプットの確実性を高めた結果、コストダウンに貢献していると報告されています。
参考文献: Folmer, R. H. (2016) "Integrating biophysics with HTS-driven drug discovery projects." Drug Discovery Today 21(3), 491–8
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医薬承認のカギの1つとしてkineticsに期待
Phase Ⅰまで入った医薬品候補化合物がFDA承認されるのはわずか10%。このような消耗戦を解決するカギの一つとしてkineticsがあるのではないかと多くの研究者が考えていますが、系統だった理論が十分に確立されているとは未だ言えません。この問題に向かってK4DD(Kinetics For Drug Discovery)と呼ばれるヨーロッパのコンソーシアムが2012年から5か年計画で取り組んでいます。
参考文献: Sukkar, E. (2014) "Bound to work better: binding kinetics can be used to better inform the design and development of drugs." Pharm J
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Residence timeとそこに含まれるリード最適化における意義
Epizyme社CSOのDr. Copelandは、GSK社時代からKinetics、特にResidence time(医薬品が標的分子に結合後保持され続ける時間)とそこに含まれるリード最適化における意義に関して多くの論文や講演をご発表されています。 Nature Reviews Drug Discovery 5, 730-739 (September 2006)
上記論文から10年を経た2016年にさらにご講演やレビューをご発表されています。その中の事例の一つとして、酵素阻害剤についてin vitroアッセイでのAffinityの高さよりも、より解離し難い(=long residence time)化合物が、薬効の高さと相関している結果が得られています。residence timeは、1/kd(解離速度定数)で算出することができます。
参考文献: Copeland, R. A. (2016) "The drug–target residence time model: a 10 year retrospective" Nat Rev Drug Discov 15(2),87-95
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Kineticsと構造との関係性
Kineticsと構造との関係性についてもよく議論になるところで、SKR(Structure Kinetics Relationship)に関しての報告もよくみられます。2017年Marburg大学のKlebe教授とスウェーデンにあるCytivaのR&Dとの共同研究からの報告において、中性金属プロテアーゼThermolysinへの17の阻害剤の結合をSPRと結晶構造解析のデータを評価しました。結果、Asn112の可動性を減少させることで、水素結合を増強させ、結果この酵素のOpen Stateへの構造変化に起因するリガンドの解離を抑えることが分かりました。
参考文献: Cramer, J., et al. (2017) "Elucidating the Origin of Long Residence Time Binding for Inhibitors of the Metalloprotease Thermolysin." ACS Chem Biol 12(1),225–33
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食肉中の抗菌薬の高感度自動検出
感染症治療薬として汎用されるキノロン系抗菌薬は食用家畜にも与えられています。この抗菌薬は食用組織に蓄積することもあり、ヒトの健康に深刻な被害をもたらすことがあります。本論ではBiacore 3000を用いた、ミルク、鶏の筋肉、ウシ、ブタ、魚などの組織中に含まれる抗菌薬ENROの量の測定系を確立させました。さらに、従来のELISAでの結果と比較し、正確性、感度、安定性、自動化、高スループットであることを示しました。
参考文献: Pan, M., et al. (2017) "Development and Validation of a Reproducible and Label-Free Surface Plasmon Resonance Immunosensor for Enrofloxacin Detection in Animal-Derived Foods." Sensors 17: 1984.
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標的タンパク質のフレキシビリティに着目した戦略とそれを強力にサポートするThermodynamics/Kinetics情報(Merck社)
分子認識過程においてタンパク質のフレキシビリティの重要性は広く認識されているにも関わらず、SBDDにおいて結晶構造解析にタンパク質-リガンドのスナップショットの制限された情報で進めていくことが少なくありません。結合ポケットに高いフレキシビリティを有するHSP90を標的として、タンパク質-化合物相互作用のダイナミクスがthermodynamicsとkineticsデータにどのように寄与するのかを、20の阻害剤を用いて詳細に実験的・計算科学的に検証したレポートです。本標的タンパク質は結合サイトにループ(inとout)またはヘリカルコンフォメーションを取ります。ヘリカルコンフォメーション結合化合物は遅い結合解離速度、高アフィニティ、高cellular efficacy そしてエントロピー駆動特性が観察され、これはヘリカルコンフォメーションがリガンド結合状態でより大きなフレキシビリティ持つことによると考えられました。このような通常とは異なるメカニズム、すなわち結合状態での標的蛋白質のフレキシビリティを増加させるようなリガンドデザインは新たな医薬品探索のストラテジーになりえます。
参考文献: Amaral, M., et al. (2017) "Protein conformational flexibility modulates kinetics and thermodynamics of drug binding" Nature Communications 8: 2276.
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AbbVie社のHit-to-lead最適化プログラムにおけるKinetics/Thermodynamicsデータの活用例
Hit/lead 最適化にKineticsやThermodynamics情報を有効活用することが提唱されていますが、本稿ではAbbVie社においてEEDのアロステリックサイトを標的としたhit-to-leadプロセスにおける多数のKinetics(SPR)およびThemodynamics(ITC)データを検証しています。結晶構造情報と組み合わせて進めたプログラムの進展とともにより解離速度の遅いリード化合物となるストーリーが詳細に記述されています。このkoffと細胞増殖抑制試験とは相関し、またFRETによる測定をValidateしていました。 ITCのデータは化合物の光学純度を鑑みて理解するべきということを示唆する結果が得られました。 Aminopyprrolidine誘導体は主にエンタルピー駆動型でプログラムの進展とともにエンタルピーの寄与が改善していきました。またKineticやthermodynamicsパラメーターをヒットセレクションに使う場合の課題についても言及されています。
参考文献: Wang, Y., et al. (2017) "Are We There Yet? Applying Thermodynamic and Kinetic Profiling on Embryonic Ectoderm Development (EED) Hit-to-Lead Program." J Med Chem 60(20): 8321-35.
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