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Location:Home実験手法別製品・技術情報2D DIGE(蛍光標識二次元発現差異解析)

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2011年11月に開催された「DIGE User's Day 2011」は、横浜市立大学 先端医科学研究センターの平野 久教授のご講演「電気泳動によって見えるタンパク質の翻訳後修飾」をはじめとする計4講演が行われました。

また、サンプル調製法などをテーマにしたパネルディスカッションも開催されました。基本技術はもちろん、近年普及してきた新しい技術などについて、パネラーの先生方のみならず会場からも多くの発言があり、充実したものになりました。

横浜市立大学先端医学科学研究センター教授の平野久先生に会場の質問や進行をとりまとめていただき、パネラーとして東京都健康長寿医療センター研究所老化機構研究チーム研究副部長の戸田年総先生と、国立がん研究センター創薬プロテオーム研究分野分野長の近藤格先生にご参加いただきました。以下はディスカッションの模様です。

マウスの皮膚をサンプルとする際に液体窒素と乳鉢を使って抽出しているが、冷却状態を保てる破砕器について教えて欲しい。

近藤先生

安井器械製の「マルチビーズショッカー」を使用しています。装置自体には冷却機構がありませんが、使用する「ビーズ」「チューブ」「サンプル」を液体窒素で凍らせて、必要な時間マルチビーズショッカーで処置します。少々振っただけでは温度は上がらないので冷却しなくても大丈夫です。全工程において常に傍に液体窒素を置き、適宜冷やすことでうまくいっています。

非還元状態でのサンプル解析に注意点やコツはありますか?

戸田先生

SH のレドックスを見るのであれば、還元状態・非還元状態でのディファレンシ ャルなラベリング比較は1つの方法です。

例えば貴社のCyDye™ DIGE Fluors Saturation LabellingDyesを使用して還元しない状態でフリーのSH 基をCy3で標識しておきます。続いて余分なCy3を除去し、還元してからCy5で標識してディファレンシャル解析を行うと良いです。SS架橋を作ったタンパク質を、そのままの状態で解析したい場合には、分解能に問題はあるが、酸化を起こしにくい試薬を使用すれば、ネイティブなSS架橋を持った状態にしたままで2Dに持って行くこともできます。

具体的には、染色に使う色素によって酸化しやすいものや架橋を起こしやすいものがあります。例えばメチオニンは非常に酸化が起こりやすく、SYPRO™ Ruby(Life Technologies)の染色では酸化が起きます。Oriole(Bio-Rad)ならあまり酸化は起こりません。そのため、レドックスを確認する目的でポストスティニングするときには、色素選びが重要です。

サンプルを採取する際に、酸化しないよう窒素気流下にする などのケアは必要ですか?

戸田先生

そこまでやる必要はないです。メチオニンとシステイン以外では、よほど強い酸化条件でなければ、サンプルの調製中には酸化は起こりません。

平野先生

ブルーネイティブ電気泳動を用いれば、一次元目は非還元状態でSS架橋を持ったまま分離し、二次元目はSHに還元し、サブユニットをバラバラにした状態で電気泳動する方法があります。他に架橋の状態を簡単に見る方法として対角線電気泳動というものもあります。最初非還元状態で分離、続いて還元状態で二次元的に泳動することによってSS架橋の状態を見ることができます。

タンパク質抽出・調製ProteoExtract Kit(Merck)を使って沈殿させて、再び溶かす方法をとっています。ゲル状に溶け残るのが原因だと思うのですが、回収率が50~60%と低くて困っています。

戸田先生

もともとタンパク質濃度が低い髄液や尿からタンパク質を回収する際に、比較的失敗が少ないのはアセトン沈殿です。酸性にせず、9倍ボリュームのアセトンを加え、ボルテックスをよくかけて-80℃の状態で1 時間静置後、遠心すると良いです。メジャーなタンパク質の沈殿に、マイナーなタンパク質も巻き込まれて回収されていると推察しています。また、アセトン塩酸やトリクロロ酢酸などを用いて酸性条件で沈殿させると、溶けにくくなることがあります。

近藤先生

アセトン沈殿でマイナス20℃にして数時間放置することが多いです。血清の場合、-80℃オーバーナイトでは再可溶化できませんでした。また、凍結乾燥も良く用います。多量の培養上清を調べる場合など、カラカラにして再度蒸留水で可溶化し、実験の内容に応じて脱塩します。凍結乾燥すれば水分はゼロになり、タンパク質は逃げられないため、回収率はこの方法なら完璧だと思います。

平野先生

アセトン沈殿を完全に乾かしてはいけません。構造が破壊されてしまうので、解けにくくなるためです。生乾きに程度に留めるのがいいと思います。

塩基性領域の等電点分離がきれいになるようなサンプル調製法を知りたい。

戸田先生

一般には、塩基性のタンパク質はpHの変化に対して、フォーカスしにくいといわれています。還元状態で電気泳動するときに使用するDTT どの還元剤は、アルカリ性でマイナス荷電を持つため、塩基性領域は電気泳動中にDTTが無くなってしまいます。それに対して、マイナス極側にDTTを含む溶液を置き、泳動中に陰極側のDTTが補給されるように電気泳動のシステムを工夫するとテーリングが少なくなります。

血液の混入が多い組織からタンパク質を抽出する際の注意点を教えて欲しい。例えば脳組織の場合、検体によって抽出時のサンプルが赤くなるものとそうでないものがあるが電気泳動への影響があるのか知りたい。

近藤先生

血液に含まれるタンパク質は、一番アルブミンが多いです。そのエリアの近くのタンパク質は影響を受けます。しかし、見慣れてくると、このスポットはアルブミンであるのかそうでないのかわかるようになります。動物実験であれば、サンプリングの際にPBS 溶液で洗うと血液成分をある程度除くことができます。組織検体から抽出したサンプルから抗体カラムを用いてアルブミンなどを除こうとしたことがあったが、除去したいタンパク質以外のものが大きく失われてしまいました。肝臓に代表される血管が多い手術検体は、そのまますりつぶすと血管中の血液を含めたサンプリングになります。血液を除くためには、レーザーマイクロダイセクションが有効です。顕微鏡を見ながら大きい血管を避けて、目的とする細胞だけを回収します。

貝類の細胞タンパク質を抽出している方からの質問です。粘性の高い多糖類が多く、二次元電気泳動をかけるとテーリングが起こるので精度をあげる方法はありますか?

近藤先生

生のものからスタートできるのならば、一般的には沈殿がおすすめです。多糖類は沈まないが、タンパクは沈む方法を探ってみるとよいかもしれません。例えばTCA やアセトンによる沈殿など。

ロスの少ない方法としては、無理して二次元泳動をしないのはいかがでしょうか。目的によっては、サンプルをSDS-PAGEで分離してゲル内消化してMS に持って行く手もあります。

同様の質問を、植物からのタンパク質抽出にお悩みの方からもいただいて います。やはり粘液の多い組織サンプルです。

平野先生

ホモジナイズした時点で多糖類やゴム類が多量に含まれていると除去がとても難しいので、できるだけつぶさないで、押し出すような方式で抽出液を取って電気泳動するしかないと思います。

会場:聖マリアンナ医科大学(現 近畿大学生物理工学部)永井宏平先生

以前、昆布からのタンパク質抽出という論文を出しています。昆布、梅の葉のプロテオーム解析をした際には、組織を直接有機溶媒(エタノールやアセトン)に入れ、ホモジェナイズすると、タンパク質は細かいと沈殿になって外に出てきます。残っている残渣とタンパク質の粉を大きさで分け、粉の部分だけを取り出すときれいに電気泳動できました。

有機溶媒の中ですりつぶすと多糖類は溶けず、タンパク質だけ沈殿して落ちてくるので、この方法は植物でもおすすめです。

戸田先生

サラサラした状態にしないと沈殿もうまくいかないですね。c8 のカラムに逆相で集めると多糖類はまったく付かないので、多糖類は逆相カラムで取り除ける可能性があります。

会場:北里大学 大石先生

珊瑚のタンパク質の場合、酵素処理(キチナーゼ)を使ったらうまくいったことがあります。糖タンパク質であればNグリカナーゼなどでしょうか。

pH3~10のNLの塩基性側での分離が悪くなる傾向がある、改善方法はありますか?

戸田先生

確かに塩基側では還元状態を保つのが難しくなります。その処置として私たちは、電極スリップを使ってDTTを補給するとかなり良くなりました。これにより、以前では分析できないくらいテーリングがひどかったものが改善されました。

電気泳動の最適な時間を決める際の判断基準は何ですか? 

Cytiva

泳動の条件での設定は「時間」と「ボルト×時間」での設定がああります。イモビラインドライストリップは「ボルト×時間」で設定をお願いします。

24 cmのゲルだと、10万ボルト×時間を超えるとタンパクをフォーカスしすぎて、ゲルの編み目から絞り出されると聞いています。ドライストリップのゲルは4%のアクリルアミドゲルのため、タンパクの保持能力がなく絞り出されてきます。

近藤先生

細部が異なるいろいろなプロトコールがありますが、考え方は共通です。最初は低い電圧で低分子を電気泳動して露紙に吸着させます。次に少しずつ電圧をあげ、最高電圧にして一定時間、泳動します。サンプルにもよりますが、手術検体からの比較的きれいなタンパク質サンプルの場合、ボルト×時間の幅は広いので、あまり厳しく考えなくてもよいと思います。

ミニゲルの二次元ウエスタンブロッティングの結果の信頼性に関して、ラージゲルでの再確認が必要でしょうか。

近藤先生

まず原則として、ゲルサイズは大きければ大きいほど、解像度が上がり、また再現性も良いというメリットがあります。また、スポットも見つけやすくなります。

戸田先生

ミニゲルにもメリットはあります。ラージゲルを扱うにはそれなりの量の抗体が必要になるため、結局トリミングをすることがあります。トリミングをするくらいなら、ミニゲルという選択はあると思います。私のところでもやっています。

翻訳後修飾の解析は質量分析でも行えるが、ゲルをベースにした解析の強みは何ですか?

平野先生

ゲルを使わないで行うショットガンは、最初にぶつぶつにタンパク質を切ってしまうため、1つの分子でいろんなところが修飾されているもの、いないものを全てまとめてしまい、識別できなくなります。ゲルベースだとそれを区別して解析ができる点がメリットです。

SDS-PAGEの際に使用するトリス-トリシンバッファー系のゲルのご質問です。トリシン系泳動の使用で低分子領域、分子量20キロダルトン以下のスポットを増やせますか?

戸田先生

私たちのところでは、最近ではトリス-グリシンバッファーをやめて、トリス-トリシンバッファーのゲルで行っています。そのメリットは、以下の3つに集約されます。

  1. グラジェントゲルを使わなくてもワイドレンジの分子量のタンパク質を1枚のゲルで分離することができます。
  2. 非常に薄い濃度のゲルが使えるので、ゲル内消化をするときのトリプシンの染みこみを良くすることができます。
  3. グリシンバッファー系の条件で作られたゲルをそのまま使って、マイナス極側のバッファーだけをトリス-トリシンバッファーに変えるだけなので簡単です。

pH8~9のサンプルを、CyDye™染色したところ標識効率が著しく落ちます。効率を下げるといわれているDTTはわずか2 mg/ml以下でした。pHを合わせても標識効率が下がってしまう原因は何でしょうか。サンプルは一般的なもので、尿素が7から8M含まれています。

近藤先生

私の経験では、pHはラベル効率に大きく影響します。尿素の濃度が低くてもラベルされないことがあります。用いられている条件はpHとウレア濃度の点では問題ないので、夾雑物が影響を与えている可能性はないでしょうか。

Cytiva

ジチオトレイトール(DTT)は2 mM入っていても、標識効率は十数%悪くなりますので、DTTは除くことをおすすめします。

戸田先生

やはり夾雑物だろうという疑いを持っています。Dyeそのもののモル比を抑えた方がよいです。Dyeは低分子ペプチドやアミノ酸が含まれていると、そちらへDyeが引っ張られてしまうため、前処理で取り除いて行うことをおすすめします。

近藤先生

タンパク質の量を減らすことは夾雑物も減らすことになります。レーザーマイクロダイセクションで回収されるような少数の細胞からDIGEを行う場合、サンプルの質のために失敗することは経験的にまずありません。それは実験に使用するタンパク質サンプルがきわめて少なく、すなわち含まれる夾雑物の絶対量が少ないからだと考えています

レーザーマイクロダイセクターを使った実験について。 ダイセクションするときはどのような状態になっているのか教えて欲しい。

近藤先生

平野先生とは意見が違いますが、カラカラに乾かして良いと思います。レーザーマイクロダイセクションのときに、エタノールで固定して、染色し、室温でカラカラに乾かして数時間以内にマイクロダイセクションに持って行っています。2D-DIGEの電気泳動パターンを見る限りではタンパク質の分解もなく、実験間の差がでていません。少々湿っていてもレーザーマイクロダイセクションは可能です。

ダイセクター時のレーザーの熱で焼ける部分の影響はありませんか?

近藤先生

焼けている部分そのものは影響されていると思います。しかし、細胞一個ずつをレーザーで回収するのではなく、ある細胞集団をまとめて囲って切るようにしているので、観察したい細胞に含まれるタンパク質については問題ないと考えています。

レーザーマイクロダイセクションの場合、生乾きでやるときはうまく切れないことがあります。切片の厚さ、レーザーのタイプによるかもしれません。

Saturation Labelling Dye標識を行う量は、厚さ10ミクロン切片を切ったときに1 mm平方くらい集めるとゲル一枚分です。おおよそタンパク量にすると1~2 μg、細胞数は、実験間のブレを考慮して3,000個くらい欲しいところです。

Minimal Labelling Dye標識の場合、13 cmゲルに150 μg乗せているならば、1/10にすれば分離や再現性はすごくよくなるはずです。再現性良く実験するのは、24 cmでも100 μgが上限です。100 μgでも多いくらい。分取ゲルに100 μgのタンパク質を添加すれば、たいていのスポットが質量分析で同定できます。質量分析での同定実験がうまくいかないときには、タンパク質の量を増やすのではなく、in-gel digestion法の回収率や質量分析装置の調整に気配りをする方がよいと思います。


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