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Location:Home実験手法別製品・技術情報ゲノムDNAの精製

FTAカード上に保存された血液、培養細胞、動物、植物の組織サンプルからのRNAspin MiniによるRNA精製(2)

血液および培養細胞研究 序論

遺伝子発現データは疾患の発見、予後および治療に関する研究に役立ちます。例えば、相対的なRNA量の特異的な変化を元に、血液サンプル中の遺伝子発現量の変化を測定することによって、一部のがんなどの疾患の存在と進行を知ることができます。さらに、培養細胞の遺伝子発現解析は、疾患の発症機序や、in vitroでの治療薬候補の有用性を知るのに役立ちます。血液と培養細胞の正確な発現解析は、他のサンプルと同様に、迅速なサンプル採取とRNAの安定化に依存します。

 

材料および方法

サンプル採取

全血

ヒト血液は、静脈穿刺によりEDTA入りバキュテイナ採血管に採血しました。採血後、血液を40 μlずつ直ちにFTAカードにスポットし、室温で2時間以上乾燥させました。

培養細胞

ヒト急性単球性白血病細胞株THP-1を10% FBSを含むRPMI-1640培地で培養し、細胞1 mlを回収しました。これを400 rpmで5分間遠心し、細胞ペレットを培地200 μlに再懸濁しました。得られた細胞懸濁液を40 μlずつFTAカードにスポットし、室温で2時間以上乾燥させました。

コントロールRNA

コントロールとして、50 ng/μlのControl Total RNA(ヒト由来、ライフテクノロジーズ社)5 μlを、直径5.0 mm のFTAディスク4枚にスポットしました。

RNA精製

RNAspin Miniを使用し、FTAカード上の血液、培養細胞、精製RNAからTotal RNAを精製しました。各サンプルスポットの中央からハリスユニコアパンチ(5.0 mm)でディスクを打ち抜きました。RNAの精製は、RNAspin Miniの標準プロトコールに従いました。各ディスクは、β-メルカプトエタノールを添加した抽出バッファー中で、20ゲージのニードルを使用して短時間でホモジナイズしました。得られたライセートをRNAspin Miniフィルターユニットにアプライし遠心しました。70%エタノールを添加した溶出液を、RNAspin Miniカラムにアプライし、1分間遠心しました。カラムのシリカメンブレンを脱塩し、DNase I処理を行いました。シリカメンブレンを洗浄し、40 μlのRNase free waterをアプライ、1分間遠心し、Total RNAを溶出しました。

RNA定量

ABI 7900HTサーマルサイクラー(ライフテクノロジーズ社)で定量PCR(RT-qPCR)を行い、溶出したRNA濃度を測定しました。反応は、TaqMan™ EZ-RT PCRキット(ライフテクノロジーズ社)とGAPDH Control (ヒト由来、ライフテクノロジーズ社)でセットアップしました。、キット付属のコントロールRNAを10倍段階希釈し、5~0.0005 ng/μlの5点でRNA定量用標準曲線を作成しました。RNA解析用のPCRプライマーは、cDNAだけを増幅できるよう、イントロンをまたぐように設計しました。

逆転写とcDNA解析

定量後に、SuperScript III First-Strand Synthesis System for RT-PCR(ライフテクノロジーズ社)を用いて、等量のRNAをcDNAに転写しました。反応溶液(50 μl)をデュプリケートで調製し、解析のための最終的なcDNA量を増やしました。逆転写反応後、デュプリケートのサンプルをプールし、TaqMan™ Universal PCR Master Mix(ライフテクノロジーズ社)とRNase P Control Reagentsキット(ライフテクノロジーズ社)を使用し、定量PCR(qPCR)でアッセイしました。cDNAの定量によって、StellARray Gene Expression Systemトレイ(Lonza Walkersville社販売、Bar Harbor Biotechnology社製造)を使用したqPCRにおいて、異なるサンプル由来で同じ量のcDNAが使われたことが確認できました。cDNA定量用標準曲線は、RNase Pキットに付属のコントロールDNAを10倍段階希釈し、200~0.02 ng/μlまでの5点で作成しました。

発現解析

Lonza Walkersville社製の特注の384ウェル発現プレートを使用しました。各プレートには、凍結乾燥された96種類の標的遺伝子用のプライマーが4ウェルずつ含まれます。以下の方法で、cDNAをプレートに添加し7900HTサーマルサイクラーで増幅後、global recognition pattern software(Lonza社)を用いて解析しました。

  1. TaqMan™ master mix(1,056 μl)を998 μlの蒸留水で希釈しました。
  2. 希釈したTaqMan™ master mix(2006 μl)をcDNA 106 μlに加えました。
  3. ステップ2で調製したそれぞれのcDNA溶液を、各遺伝子用プライマーセットを含むウェルに20 μlずつ添加し、プレートを室温で30分、インキュベートしました。
  4. インキュベート後、Lonza 社のサーマルプロファイルに従って、7900HTサーマルサイクラーで増幅反応を行いました。
  5. 解析は、global recognition pattern softwareで倍数変化を調べました。次に、個別のRNA精製からの反復測定値に対する、各遺伝子の生のCq値をプロットしました。

* Cq値=Cq値=一定の増幅産物量になるサイクル数:各反応の蛍光強度が設定した閾値を超えるPCRサイクル数。Cq値が小さい場合、鋳型DNA量が多い(遺伝子発現レベルが高い)ことを示すのに対し、Cq値が大きい場合では鋳型DNA量が少ない(遺伝子発現レベルが低い)ことを示します。

 

結果と考察

96個の標的遺伝子のRNA発現量を比較することにより、各サンプルの反復RNA抽出間で、発現プロファイルの再現性を評価することができました。図1は、(a)血液、(b)コンロトールRNA、(c)THP-1細胞における代表的なデータを示したものです。各グラフは、StellARrayプレート4枚中2枚での比較を示しています。

qPCRの通常のダイナミックレンジは15から35サイクルの間です。鋳型量が少なく、Cq値が35を超える場合、一般的にデータの変動が大きくなります。データの変動が大きい場合、定量不能(Cq値40として記録)となる場合が多く、本実験でもいくつかのサンプルで定量不能でした(図1)。

図1のグラフは、各サンプルタイプの4反復のデータのうちの2反復のデータを示したものですが、別のプレートで反応を行った各サンプル由来の4反復で抽出したRNAすべてで、同様に再現性の高い発現レベルが得られました(データ未表示)。さらに、発現プロファイルをTHP-1細胞から直接精製したRNAと、FTAカードにアプライした細胞から精製したRNAで比較したところ、FTAカードによる変動やバイアスはみられませんでした(データ未表示)。

RNA発現量を比較したところ(図1)、同じサンプル(全血または培養細胞)由来で、反復で抽出したRNA間では線形相関を示したことから、RNAspin Miniを使用しFTAカードから、質の高いRNAが再現性高く精製可能なことがわかりました。このRNAの質と再現性は、あらゆる発現研究において重要です。

本項では、FTAカードにより、ヒト全血由来のRNAを分解することなく48時間安定して保存できることが確認できました。FTAカードを使用することで、離れた場所で採取したサンプルを実験施設へ輸送し、RNAを抽出、発現解析することができると考えられます(データ未表示)。

 

図1
図1 (a)血液、(b)精製RNA、(c)THP-1細胞をアプライしたFTAカードからの反復RNA抽出物のCq値。それぞれのTotal RNAサンプルで、StellARray遺伝子発現プレートを用いて96個の標的塩基配列を増幅しました。プロットは、2反復プレート上で反応を行った反復RNA抽出物由来の96個の標的塩基配列のCq値を示しています。

 

結論

これらの結果から、全血サンプル、培養細胞、精製済みRNAをFTAカードにスポットできること、illustra™ RNAspin精製キットを用いてRNAを精製するまでの間、最大で48時間保存ができることが確認できました。得られたRNAは収量も質も十分で、PCRアレイを使用した再現性の高いハイスループット発現解析に使用することができます。


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