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微生物検査におけるメンブレンフィルター法(MF法)

創業以来さまざまな分析ニーズに応えてきた、約250年の歴史をもつ「Whatman™」。CytivaのWhatman™は、食品・飲料メーカーや製薬企業、水質検査企業向けに、微生物検査のための高品質製品を幅広く提供しており、展開している「ろ過製品」は、ラボで手法やワークフローに合わせて最適なものを組み合わせて使用することができます。

微生物検査の用途が異なるものであれば、標的微生物も違う微生物になります。微生物検査では、ターゲットに適した、高品質のメンブレンフィルターを使用することが不可欠です。このメンブレン選択ガイドを使用して、アプリケーションに適したメンブレンを決定するのがオススメです。ラボで1日数回の微生物検査を行う場合でも、大規模に数百回検査する場合であっても、メンブレンフィルターと検査装置の選び方によって、結果の効率や精度、信頼性に大きく影響します。

1950年代初頭、バクテリアの粒子や細胞をフィルター表面に吸着濃縮させると細菌学で大きな注目を集めた「メンブレンフィルター」。そのフィルター表面に捕捉されたバクテリアは、適切な増殖培地にメンブレンを表向きに置くと、コロニーとして増殖させることができます(図1)。栄養培地の開発が進むにつれて選択培地が登場し、水や廃水の水質モニタリングといった衛生細菌学の分野において、メンブレンフィルター技術の重要性が高まりました。その後10年も経たないうちに、多くの研究者がメンブレンフィルターを使用して水から大腸菌群の回収に関するデータを次々公開。メンブレンフィルター技術は、有益な水質試験の標準手法となりました。

ただし、バクテリアといった特定の微生物に限ったものだけでなく、異なった性能を発揮できるメンブレンフィルターに焦点を当てた出版物も多数あり、メンブレンメーカーは広範囲の微生物に対応したメンブレン性能の最適化に尽力してはいますが、こうした課題は今日でも存在しています。また、国際標準化機構(ISO)などが特殊な増殖培地の有無にかかわらず、特定の水系または水質指標生物用のメンブレン性能を精査するように推進しています。

メンブレンフィルター法(MF法)のワークフロー

滅菌済みの新しいメンブレンとファネルを微生物検査用吸引マニホールドにセットします。ファネルに液体サンプルを注いで、吸引します。ろ過完了後、メンブレンは簡単に吸引マニホールドから取り外せして、殖培培地上に移して捕捉された微生物を培養します。

図1.メンブレンフィルター法(MF法)のワークフロー。 (A)メンブレンとファンネルの固定 (B)サンプルのろ過とリンス (C)メンブレンの回収とプレート。MF技術は、水質モニタリングのために水サンプルからバクテリアを濃縮および培養する簡便な手法です。

MF技術の利点

微生物含有量の分析のために、MF技術が水質サンプルを処理する優れた方法として早くから認識されていたのは、以下の理由からです。

  • 感度の向上:大量のサンプルから微生物をメンブレンフィルター表面に濃縮することができます
  • 阻害物質からの分離:メンブレンには微生物が捕捉され、塩素化合物や重金属などの水に溶解した物質はすべてメンブレンを通って流れることにより分離することができます
  • 阻害物質の中和:リンスバッファーの使用によって、微生物の成長を妨げたり阻害したりする可能性のある物質を洗い流して中和します
  • 単離されたコロニー:メンブレン表面の微生物を増殖させて、コロニーとして単離することができます。必要に応じて、さらなる特性評価または識別のためにコロニーを簡単にカウントしたり、選択もできます

メンブレンフィルターの選び方

メンブレンフィルターは、孔径(ポアサイズ)、色、パッケージなどさまざまな種類を展開しています(図2)。いくつかの標準的手法では、孔径が具体的に明示される場合がありますが、それ以外の手法では一般的にある適切な範囲として表記されます。その場合、サンプルを効率的にろ過するために必要な流量で標的微生物を最適に回収するようにフィルター孔径を選択します。メンブレンフィルターのカラーオプションもあり、メンブレンの色は回収されたコロニーとメンブレン表面のコントラストをつけ、標的微生物の正確な識別と定量化を可能にします。カラーメンブレン(白色、黒色、緑色)を選択する場合は、対象となる微生物や特殊な選択的増殖培地の種類、使用する培地によって成長するコロニーの色がどのメンブレンの色に対してより際立つかを判断します。

図2.Cytivaの「Whatman™メンブレンフィルター」滅菌パック(A)黒、(B)白、(C)緑色(孔径0.2〜3.0 µm)(D)自動ディスペンス用eButlerディスペンサーパックでも利用いただけます。

メンブレン選びが重要な理由

多くの実験技術には、結果の品質に影響するさまざまな操作パラメーターや材料パラメーターがあります。MF技術で得られる結果の精度に最も重要な影響を与えるのは、やはり使用する「メンブレンの品質」です。微生物学的分析で使用する最適なメンブレンを選択するときは、多くのメンブレン特性を考慮することが重要です。

1. コロニーの回収

メンブレン性能の最も重要なポイントは、試験対象である培養物から高い割合でコロニーを回収する能力です。高い回収能は、サンプル中にどのくらい微生物が存在しているのかも反映するはずです。コロニーの回収率は、さまざまな既知微生物を一連のメンブレンサンプルに接種し、コロニー数を増殖培地の培養密度チェックと比較することによってテストします。

大腸菌群/大腸菌の水質検査法にMF技術が早期に採用されたため、指標細菌として大腸菌は、微生物モニタリングの工程内やメンブレンフィルターの完成品の品質管理テストにも採用されました。数年をかけて、MF技術を使用するため大腸菌以外の微生物や病原性生物に適用する手法が開発され、広範囲の微生物に対する知見も増えています。

図3.寒天プレートへの直接播種と比較した、メンブレン上で成長したコロニー回収能(%)。試験方法:ISO 7704、ISO 8199、ISO11133に準拠、試験微生物:Escherichia coli WDCM00179、Enterobacter aerogenes WDCM00175、試験培地:発色性大腸菌群寒天(CCA)、レファレンス培地:TSA寒天、インキュベーション時間:36±2℃で21〜24時間

2. コロニーの形態

コロニーの形態、つまりフィルター培地上で成長するコロニーの外観は、メンブレンの回収率や性能に密接に関係しています。 各手法で培養時間や温度、培地といったインキュベーション条件が決められており、標的微生物が示す典型的なコロニーの特性を観察します。典型的な特性には、コロニーの色やサイズ、形状、エッジタイプなどが含まれます(図4)。多くは、目的以外の微生物の増殖を抑制しながら、標的微生物の成長を促進するように調製された選択培地を利用します。選択培地の成分によって、標的微生物は特徴的な色素沈着をしながら増殖して色素を取り込んだり、特異的な酵素反応を引き起こしたりすることで選別することができます。ある手法ではコロニーの適切な形成に影響を与える培養時間や温度範囲が明示されており、標的微生物を正確に数えることができます。所定の時間内にサンプルが適切にインキュベートされているのに、特にコロニーが小さいままで成長が阻害されている可能性があったり、逆にコロニーが大きく成長している場合、コロニーのサイズを考慮します。実際のサンプル中の非標的微生物が栄養素を奪い合い、標的微生物の成長を抑制してしまったりマスキングしてしまって、不正確な結果となってしまう可能性が生じれば問題になります。

図4.CCA培地で培養されたEscherichia coli(AおよびB)およびEnterobacter aerogenes(CおよびD)のコロニー形態の比較。(A)および(C)は明確なエッジ、形状、サイズを形成して良好な形態を示し、正確にコロニー数をカウントすることが可能です。一方(B)および(D)は、不規則なサイズのコロニーが観られ、周囲に広がってしまい合体するコロニーも観察されます。

3. グリッド線(罫線)

メンブレンのグリッド線は、メンブレン表面で成長しているコロニーをカウントしやすくします。グリッド線は観察しようとする標的微生物の形態形成を阻害したり強めたりコロニーを壊したり影響するものではないですが、グリッド線に対してまたは横切ってコロニーが成長するときに、つぶれたり平らになったり、四角い外観を示す場合があります。それ以外には、グリッド線に沿って識別できないコロニーの成長が見られる場合もあります(図5)。

「カウントガイド」としてのグリッド線の使用:コロニー密度が高い場合、規定の正方形内のコロニー数をカウントし、有効ろ過面積(EFA)における合計正方形数を乗じることで、コロニーの成長を推定できます。メンブレンのグリッド線の「デザイン」と「パターン」は重要な検討事項です。一般的に、破線パターンはグリッド線に対してコロニーが抑制されずに成長しやすい一方で、実線は問題を引き起こす高い可能性があると言われています。実線のパターンラインを形成するためにインクをより濃く塗布すると、特に10倍の倍率でプレートを検査する場合に、眼精疲労の可能性はありますがよりコントラストが高まります。

図5. コロニーの成長に対する「グリッド線の影響」。 (A)グリッド線上にも成長が見られる、通常のコロニー成長。(B)グリッド線によって歪んだコロニー成長。

4. 湿潤性

メンブレンの湿潤性は液体がメンブレン構造を濡らす能力であり、メンブレン表面の化学的性質によって決まります。通常、微孔性メンブレンに使用されるポリマーは疎水性で、メンブレンは水には濡れません。ただし、ナイロンやセルロースなど、メンブレンに使用される親水性材料もいくつかあります。

湿潤性は、主に「2つの理由」からメンブレンの微生物学的品質管理にとって懸念事項となります。

第一に、メンブレンを瞬時に完全に濡らすことで、ろ過中におけるコロニーの不均一な分布を防ぎます。メンブレンを完全に濡らすことによって、有効なろ過面積全体に微生物を均一に分布させることができます。第二に、疎水性部分のない完全に濡れたメンブレンは、メンブレン表面の微生物に対してスムーズに栄養素を供給できるため、正常なコロニー成長と形態形成を可能にします。湿潤性はメンブレンディスクを水面に浮かせ、濡れるとメンブレンが均一に暗くなるのを観察することで確認することができます。メンブレンに白い斑点やスペックルが連なったり拡散している領域、グリッド線に沿って白色になっている部分は、適切に湿潤していないことを示し、ろ過やインキュベーションの際に疎水性部分が残っている場合があります。

図6に示すように、微細な炭素粒子の軽いスラリーをろ過すると、有効なろ過面積全体の分布を視覚化することができます。この方法では、疎水性スポットなどのメンブレンの不規則性や、ファンネルサポートスクリーンやグリッド線の影響によって引き起こされる粒子分布のパターンを確認することができます。

図6. 炭の堆積。 (A)および(B)は炭の均一な堆積を示しており、メンブレン全体が親水性を示しています。(C)ランダムな疎水性スポット (D)疎水性の拡散領域(一定の湿潤性を示さない)(E)湿潤性に対するグリッド線の影響

5. 保持力

メンブレンの保持力は、微生物がメンブレンを通過するのを防ぐフィルター性能をいいます。試験微生物の濃い懸濁液は、107微生物/cm2の濃度となるまでメンブレンフィルターを通してろ過されます。水質試験では、セラチア菌(Serratia marcescens)をろ過して、0.45 µmフィルターの保持性能を評価します。以下は、一般的に用いられている試験微生物の孔径別の表です。

表1. メンブレン保持力試験の仕様

Pore size Test organism Concentration Basis norm
0.15 Burkholderia cepacia (ATCC 17770, DSM 50180) 107/cm2 DIN 58355-3:2005;ASTM D3862-13
0.2 Brevundimonas diminuta (ATCC 19146, DSM 1635) 107/cm2 DIN 58355-3:2005;ASTM D3862-13
0.45 Serratia marcescens (ATCC 14756, DSM 1636) 107/cm2 DIN 58355-3:2005;ASTM D3862-13

6. 流量

流量は既定のメンブレン特性とされていましたが、現在の標準的手法では、より一般的な特性評価を利用しています(たとえば、『Standard Methods』、第23版、9222 g十分なろ過速度(5分以内))

ほとんどのメーカーが各種微生物検査用メンブレンを開発しています。メンブレンがサンプルのろ過時間へどのように影響するのか、そしてそれがサンプルを処理する際のワークフローにどう影響を与えるかどうか、という点が重要です。

一般的に入手可能なメンブレンフィルターの平均流量を図7に示します。

図7. 同グレードの白色0.45µmメンブレンフィルターの流量比較(ml/分/cm四方のろ過材を使用)。

7. 厚さ、柔軟性、もろさ

図8に示すように、メンブレンの厚さはメーカー間で簡単に測定して比較できますが、メンブレンの取り扱い特性の予測因子としてそれ単独で用いることはできず、メンブレンの厚さに加え、柔軟性、そして脆性が連動することでハンドリング特性を生み出します。使いやすさであったりメンブレンの優れた取り扱い性能は、分析者の主観的なものです。分析者がメンブレンを処理する手法をわずかに改善することで、問題を克服できる場合も多くあります。たとえば、先がとがっていたり鋸歯状の先端の鉗子ではなく、丸い先端の鉗子を使用してメンブレンを処理すると、フィルターの裂けを防ぐことができます。水平方向の動きでフィルターを表面から引っ張ったりするのではなく、ローリングモーションを使用してフィルターをテストスタンドから持ち上げると、裂けるリスクが少なく、簡単に取り外すことができます。

図8. 同グレードの白色0.45µmメンブレンフィルター厚さの比較(µm)

適切なメンブレンをいかに選ぶか

微生物汚染において液体サンプルをテストするためによく利用されている「MF技術」。従来の方法よりも準備に手間がかからず少ない培地で微生物を分離してカウントできる数少ない方法の1つであり、メンブレンフィルターはポアサイズと色が各種取り揃えられています。メンブレンの物理的特性は、メンブレン表面に使用されるグリッドプリントのタイプと同様に、各メーカーごとに異なります。検査対象となる微生物のサイズ、コロニーの色、培地の要件はすべて「メンブレンフィルターの選び方」に影響します。MF分析技術におけるこのメンブレンの選択は、コロニーの回収率に大きな影響を与え、したがって結果の精度に影響します。誤った結果はさまざまな業界で重大な影響をもたらす可能性があり、バッチリリースの遅延、コストのかかる製品のリコール、また最も重要なこととして、公共の安全への影響です。

微生物検査用メンブレンフィルター:簡単選び方ガイドは、こちらをご覧ください。微生物検査のアプリケーションに適切なメンブレンを選択する際にご活用ください。


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