すべてにおいて優れた精製―
高分子量タンパク質の大量負荷における精製
MacroCap™ SPは、バイオ医薬品としての応用を目的とした
PEG
(polyethylene glycol:ポリエチレングリコール)修飾タンパク質(すなわち
PEG
化タンパク質)など、大きな生体分子の精製用に設計された陽イオン交換体です。MacroCap™ SPでは、大量にサンプルを負荷しても、
PEG
化タンパク質を高純度および高収量で得ることができます。また、CIP(cleaning-in-place:定置洗浄)安定性に優れ、担体の寿命が長く、経済的に運転することができます。
ポリエチレングリコールと治療用タンパク質
PEG(polyethylene glycol:ポリエチレングリコール)は無毒性かつ非免疫原性の高分子であり、状況に応じてサイズや側鎖構造を変化させられることが特徴です。近年、タンパク質治療薬の薬物動態特性および免疫特性を改善する方法として、目的タンパク質へのPEG修飾(PEG化)が脚光を浴びています。
治療用タンパク質のPEG化により、治療用タンパク質の元々の機能に影響を与えることなく臨床的な特性が改善される可能性があります。具体的には、投与量の減少、循環時間の増加、溶解性の向上、吸収の持続化、免疫原性の低下が挙げられます。これらの効果はさまざまなタンパク質治療薬で認められており、そのうちの数点はすでに承認されて市場に出ています。
PEG化タンパク質精製における課題
PEG化反応後の目的タンパク質の精製には、いくつかの課題があります。このPEG化に関わる課題は、研究ラボにおけるmgレベルから大規模なバイオテクノロジー企業におけるkgレベルのPEG化反応においても関係なく共通するものです。
第一に、PEG化反応後の生成物にさまざまな種類のタンパク質が混在することです。PEG化反応では、純度の高いタンパク質または他の物質に官能化PEGが結合します。この反応生成混合物には、未反応のPEG、未反応のタンパク質、および種々のPEG化タンパク質が含まれます。この種々のPEG化タンパク質には、付加されたPEGとタンパク質のモル比(N)が目的と異なるものや、Nは同じだがPEGの結合部位が異なるもの(PEGの位置異性体すなわちPEGamer)などが含まれます。よって、これらの不純精製物を取り除く必要があります。
第二に、PEG化により目的タンパク質の性質が変化することです。PEG化により、天然タンパク質は非常に大きいサイズに変化し、平均表面電荷が低くなります。重量で計算すると、PEGポリマーは一般的に、球状タンパク質の6倍以上の水和量を占めています。PEG化後の精製工程では、これら2つの要因(大きなサイズおよび低い電荷)がイオン交換担体の結合容量および分離能に不利に働きます1。さらに、これらは担体を汚染する要因であるため、担体の寿命が低下します。
PEG化タンパク質などの高分子を分離する選択肢のひとつとして、GF(gel filtration:ゲルろ過)が挙げられます。GFでは、PEG化タンパク質と天然タンパク質を分離することが可能ですが、目的タンパク質の濃度が低くなってしまいます。また、Nが異なるPEG化タンパク質やPEGamerを効果的に分離できない場合があります。イオン交換クロマトグラフィーは、GFよりも好まれている精製法ですが、PEG化タンパク質の特性による課題は残ります。ほとんどの場合において、PEG化タンパク質に対するイオン交換担体の結合容量は、PEG化されていないタンパク質の約1/10しかありません。
大きな生体分子の分離用に設計されたMacroCap™ SP
上記で挙げたような精製の課題を解決すべく、設計された担体がMacroCap™ SPです。MacroCap™ SPは、PEG化タンパク質などの大きな生体分子の精製用に設計された陽イオン交換体です。Cytiva独自の担体を基材とすることで、大きな生体分子に適した物質移動特性を備えています。ベースマトリックスは高度に多孔質であり、高分子が吸着できるよう表面積が大きくなっています。主な特性を表1に示します。
表1. MacroCap™ SPの特徴
マトリクス |
アリルデキストランとN,N-メチレンビスアクリルアミドの架橋ポリマー |
イオン交換基 |
強陽イオン |
荷電基 |
-SO3 |
イオン交換容量 |
0.10~0.13 mmol H+/ml medium |
平均粒子径 |
50 μm |
流速*1 |
120 cm/h (ベッド高:20 cm)
70 cm/h (ベッド高:30 cm) |
推奨分離範囲 |
A)分子量 150,000 以上
B)機能性デキストランやPEGの分子量 Mr≧20,000
C)分子量10,000以上のPEGが付加されたPEG化タンパク質 |
pH安定性*2 |
Short-term: pH2~13
Working: pH3~12
Long-term: pH4~11 |
保存温度 |
4 ℃~30 ℃ |
化学耐性 |
親水性バッファー、0.5 M NaOH、0.1 M クエン酸、25%エタノール、30%プロパノール、30%メタノール、50%エチレングリコール、1%Tween-20、1%SDS |
*1 条件:BPG 300カラム、圧力<3 bar(0.3 MPa)、水と同等の粘性をもつバッファーを用いた場合
*2 以下のような条件におけるpHを示しています
Short-term:90~400時間の定置洗浄または定置浄化を行った際に、担体の機能を保持できるpH範囲
Working:担体に目的タンパク質を結合させる、もしくは溶出させる際のpH範囲
Long-term:常に担体が安定した機能を保持できるpH範囲
サンプル処理量が多くても高純度、高収量を達成
MacroCap™ SPはサンプル処理量が多くても選択性が高く、モノPEG化タンパク質をオリゴPEG化タンパク質およびPEG化されていないタンパク質と分離することが可能です。図1にMacroCap™ SPによる20,000 Mr PEG修飾チトクロームの分離結果を示します。サンプル処理量は、担体1 mlあたりタンパク質6 mgとしました。モノPEG化チトクロームCの動的結合容量(QB10%)は3.8 mg/mlでした。
一般的にPEG化には純度の高い未変性タンパク質を使用することが多いため、通常生成物の経済的価値は非常に高いです。したがって、全体の生産性から考ると、目的のPEG化タンパク質を高収量で得ることが最も重要となります。吸光度測定の結果では、MacroCap™ SPでモノPEG化タンパク質が99%の純度で回収できており、サイズ分析では純度93%でした。
(A)
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(B)
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図1. PEG化チトクロームC1のMacroCap™ SPによる分離
(A):MacroCap™ SPによる分離クロマトグラム。青で塗られた番号(1~3)がついているフラクションはGF(gel filtration:ゲルろ過)分析用にプール。
(B):(A)でプールしたフラクションをSuperdex™ 200を用いてゲルろ過を行い、オリゴPEG化タンパク質(青)、モノPEG化タンパク質(紫)、非PEG化タンパク質(緑)の量を分析。 |
優れた化学的安定性、長い担体寿命
MacroCap™ SPは化学的安定性に優れているため、酸性条件およびアルカリ条件のどちらでもCIP(cleaning-in-place:定置洗浄)を行うことが可能です。また、MacroCap™ SPのベースマトリックスは親水性のため、疎水性の高いベースマトリックスで認められる非特異的結合およびファウリングが少ないのが特徴です。これらの特徴により、担体寿命が保証されます。
図2では、RNase A、チトクロームC、リゾチームの選択性および結合容量を示しています。酸性/塩基性条件でのCIPを1サイクルとして計30サイクル実施したところ、CIPの前後でその選択性と結合容量は変化しませんでした。
図2. MacroCap™ SPのCIP検討
RNase A、チトクロームC、リゾチームの分離におけるMacroCap™ SPの性能は、CIP手順を30サイクル実施後も変化しませんでした。
縦軸:吸光度(mAU)、横軸:送液ボリューム(ml)
※1サイクルあたりのCIP条件:5 CV(column volume:カラム容量)H
2O → 2 CV 0.5 M NaOH後40分間放置→2 CV H
2O → 2 CV酸性溶液(~pH 2)後40分間放置 → 2 CV H
2O → 5 CV 0.5 M NaOH後40分間放置 → 5 CV H
2O
製造のニーズに対応
MacroCap™ SPはCytivaのBioProcess™担体のひとつであり、特に製造スケールに対応するよう設計されています。すなわち、この担体はラボから製造スケールアップが容易であり、標準的なCIPおよび定置殺菌が可能です。担体の製造方法がバリデートされているのはもちろんのこと、Regulatory Support File(RSF)をはじめとする資料や、在庫保管サービスなどもご用意しています。
まとめ
MacroCap™ SPは、
PEG
化および他の高分子量の生体分子を大量に精製するために設計された陽イオン交換体です。モノ
PEG
化タンパク質を、オリゴ
PEG
化タンパク質および
PEG
化されていないタンパク質から1回の精製で高純度に分離することが可能です。CIP安定性が優れているため、担体の寿命が長く、疎水性の高いベースマトリックスで知られているファウリングの問題もありません。今後のタンパク質治療薬の発展に貢献できる担体として、自信を持っておすすめいたします。
参考文献
Fee, C. J. and Van Alstine, J. M. PEG-proteins: Reaction engineering and separation issues. Chem. Eng. Sci. 61, 924-939 (2006).
補足
■データファイル(英文)