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高品質の製造プロセスへの近道~過去の経験に基づく発見的デザイン
過去の経験に基づく発見的デザインは、検査すべき対象数を減らすことで時間を短縮でき、プロセスのばらつきを最小限に抑えます。FDAによるPATの枠組みで説明されているプロセス理解(Process understanding)の探求の優れた出発点となります。この記事はDownstream 41「下流プロセスにおけるPAT 序説」の続きです。 FDAは、工程分析技術(PAT:Process Analytical Technology)の枠組みを「製造プロセスをモニター、分析、制御することによる、プロセス性能と製品品質の最適化のためのシステム」と説明しています。PATは、FDAのより広範な規制構想である「21世紀における製薬会社のcGMP-リスクに基づく手法」(1)の一環であり、その全体的な目標は、よりよいプロセス理解と継続的な改善を通じて一貫した高品質な製品の製造を確実に実現することにあります。PATは、バイオ医薬品の「不良ロット」の低減と、販売品の全体的なコストの削減という、関係省庁と製造会社の双方にとってのメリットを秘めています。 中心的な役割を担うプロセス理解PATは、GMPから脱却しBMPに移行することを意味します。BMPはbetter manufacturing practice(よりよい製造の実施)を省略したもので、ここではプロセス理解が中心的な役割を担います(図1)。
PAT(2)の観点から見たプロセス理解は、当てはまらないものを挙げるとよく説明できます。プロセス理解とは、あるプロセスの小さな一面を改善することではなく、分析ツールキットに(さらに)別の測定法を追加することでもなく、不良プロセスをよりよく管理することでもありません。 PATの目指すところはもっと大きなものです。それは、製造プロセス全体を統合し、原材料を効率的かつ確実に最高品質の製品に変換することに関連しています。 PATの実施 - モノクローナル抗体を例にPATプロジェクトがこのビジョンの水準を実現でき、そして大きな総合的利益、とりわけ企業の上層部で認識できるほどの経済的利益に焦点を当てているとすれば、PATプロジェクトを実施する正当性を説明するのは容易であると強く信じています(図2)。
実績のある「プラットフォーム技術」の概念にPATを組み込むことで、経済的な効果を示しやすくなります(PATは、最新の情報にアップデートでき、費用効率がよく、あらゆる工程に適応できる理想的なツールです)。その明らかな例がモノクローナル抗体の製造プロセスです。図2に挙げたPATを実施する上で重要となるもうひとつの点は、発見的(過去の経験を活用)および実験的(新たなデータを収集)な手段によるプロセス理解です。 プロセス理解のための発見的手法組織内外での経験を活用する発見的概念は、図3に示すように、モノクローナル抗体精製におけるプロセスのばらつきを最小限にする上での近道となります。これは、ある重要な側面で、行き当たりばったりのデザインと異なります。それは、各工程が、よく定義され、限定的で、専用の目的があるプロセスである点です。例えば、「キャプチャー(初期精製)」の主な役割(図3と図5を参照)は、生成物の収率を優先し、上流プロセスのばらつきによる影響を相殺して安定的な環境を作ることにより、全体的なプロセスの安定性や経済性を保証することです。 図3は、ばらつきを最小限にすることに焦点を当てた発見的手法をモノクローナル抗体プロセスプラットフォームに適用した様子を示しています。
まず、「上流」の細胞培養の安定性に注目すると、このプロセスが実際に何をするのか、何の影響を受けるのかを十分に理解していないことが挙げられます。細胞は生きた有機体であり、内部の代謝と周辺環境との間に複雑な相互作用があることを考えれば、これは驚くべきことではありません。ある企業(Amgen Inc)は、「細胞が何を生産するのか」をクローン選別の時点で詳しく調べる方法に関する発表を行っています (3)。 下流での問題を回避するため生成物を早い段階で計画的に選別することはManufacturabilityと呼ばれます。この手法をクローン選別時に用いる2つの例として、一貫したグルコシル化パターンと均一な表面電化分布があります。いずれの例においても、下流で精製される生成物に望ましくないばらつきが生じるのを確実に軽減すると考えられます。 クローン選別の時点でこの戦略を適用するには、生成物に関するかなり詳細なデータを得る必要があります。それでもこの戦略は、時間が経過するにつれ一般的な方法となるでしょう。そして、より安定性の高いプロセスへとつながる、発見的手法に基づくワークフローの構築に本当の意味で貢献するに違いありません。より安定性の高いプロセスは生産性と収益に貢献します。 細胞培養システムであるWAVE Bioreactor™に採用されているシングルユース技術は、PATを実施するためのひとつの手法です。細胞は、リアクターの振盪運動により酸素と栄養の移動が維持された密閉バッグの中で成長します。時間が経過するにつれ、バイオリアクター内で成長する細胞系や細胞に関する知識が蓄積されてきました。このシステムには、培養を行うための制御装置がほとんどありません。それでも、これまでに蓄積されたプロセスの知識によって、稼働中の故障率は低く抑えられ、安定したプロセスを実現しています。この単純な構造こそ、多くのメーカーが現在このシステムをGMPシードトレイン培養に使用している理由なのかもしれません。
「回収」(細胞分離)のデザインにおいても、例えば沈殿したモノクローナル抗体や高レベルの凝集体など、のちの精製時に問題をきたす可能性のある望ましくない化合物が不安定な濃度で放出されるのを回避する必要があります。実際に、遠心機メーカーは、剪断力が生じにくいモデルを市場に投入したことによって、モノクローナル抗体プロセシングに遠心機が使用されるケースが著しく増加したと言及しています。 上流の細胞培養において生産価が高いと、宿主細胞由来タンパク質などの不純物の濃度が高くなることがあります。この現象に対応するため、カラム前の回収工程を追加する必要となることがあります。 「キャプチャー」の主な目的は、下流の精製に向けて安定な環境を作ることにより、プロセス全体の安定性と経済性を確保することです。「最終精製」(低濃度の残留不純物の除去)は、2つのクロマトグラフィー工程で行うのが一般的で、このとき両工程間をある程度重複させて冗長性をもたせます。このプロセスの主な役割は、高い生成物回収率を維持し、凝集体の形成など新たな問題の発生を回避することです。図5は、キャプチャー/最終精製の発見的な側面に焦点を当て、より詳しく説明しています。
最後に、最終的なフィリングの前に、一般的に限外ろ過やダイアフィルトレーションで精製したバルクの薬剤を「製剤化」バッファーに移し、濃度調整を行います。この工程は今後も行われると考えられます。 次のステップの概要実験データの生成発見的デザインを使用しても、プロセス理解に対する高まる需要から生じる実験的な負担は軽くありません。そのため、一連の「実験的な操作」が求められます。 実験計画法(DoE:Design of Experiments)や同様の手法は現在では多くのプロセス開発研究室にとって既に標準的なものとなり、モノクローナル抗体プロジェクトの実施数が増えるにつれ、この手法が使用される機会はますます増えています。また、ロボット支援の高スループットなシステムを用いた最適条件、特性分析スクリーニングにより、非常に多くの実験を平行して行うことが可能となっています(進捗の非常に遅い連続的な実験とは対照的です)。必要性の高さからこの実験法が一般的になってゆくと考えられます。 そのため、PATをより完全に実施するには、最初の発見的デザインに続けて高速で高スループットの手法を使用してプロセス開発を行うことが求められます。 コントロールの機会知識ベースが充実するにつれて、製造したモノクローナル抗体の重要な品質特性に最も強い影響力を及ぼすプロセスパラメーターについて詳細に理解できるようになるでしょう。その結果、プロセスコントロールの役割が強調されます。通常、プロセスコントロールは、自動化、センサー、モデル化に焦点をあてて行われます。コントロールの機会も実現しやすい短期的な利益(しばしば現在の技術に基づく)をもたらすため、PATの実施を開始する簡単な方法となります。 まとめFDAが提唱するPATに基づくソリューションは、モノクローナル抗体製造などのプロセス技術プラットフォームの不可欠な要素であり、具体的な経済的利益をもたらすことが期待されます。ほとんどの場合、社内外の経験は豊富にあるので、発見的手法を通じて、安定性が高くばらつきの少ない設計によって品質が保証されたモノクローナル抗体プロセスを構築するための近道が見つかります。 実験的データの収集を継続して全体的な知識ベースを臨界サイズまで拡大できたとき、はじめてFDAが思い描く「プロセス理解」の状態に到達します。コントロール戦略の改善が、完全な形でのPATの実施につながります。次号以降のDownstreamでは、これら後者の側面について説明する予定です。 参考文献
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