「見えた!」を実現する細胞イメージング戦略
DeltaVisionお客さまの声(1/2)
原口 徳子 先生
独立行政法人 情報通信研究機構 未来ICT研究所 上席研究員
大阪大学大学院 理学研究科 生物科学専攻 細胞機能構造学 招へい教授
大阪大学大学院 生命機能研究科 招へい教授
ご略歴(2012 年4月現在)
1985年 学位取得 東京大学医学博士
1985年 カリフォルニア大学 博士研究員
1992年 郵政省通信総合研究所(独立行政法人 情報通信研究機構)主任研究員
2009年 現職
「見えた!」を実現する細胞イメージング戦略
~デコンボリューション技術活用のポイントとは?~
情報通信研究機構未来ICT 研究所上席研究員の原口 徳子先生は、細胞核の構造と機能の解析研究や染色体の高次構造研究で多くの業績を持つだけでなく、細胞生物学分野の研究を発展させるため、細胞イメージング技術に関するセミナーを開催するなど、後進の育成にも尽力されています。そこで今回、原口先生にデコンボリューション技術などイメージングの最近のトピックや各イメージング技術のメリット・デメリット、デコンボリューション技術の活用例を解説いただくとともに、観察対象に適した細胞イメージング技術を選択するために必要なポイントをお話しいただきました。
インタビューの冒頭、原口先生が強調されたのは「ライブセルイメージングに用いられる蛍光顕微鏡は、デコンボリューション技術などさまざまな技術が改良され、従来は難しかった条件でも鮮明な画像が得られるようになってきました。しかし、どんなに優れた技術でも、正確な知識を学び正しい操作を行わなければ、期待された性能を発揮することはできません。」ということ。そこで、高解像度イメージングトピックのひとつであり、近年、論文発表数が増加傾向にあるデコンボリューション技術について詳しく伺いました。
ボケを除くのではなく拡がった光を元の位置に復元させるデコンボリューション技術
「蛍光顕微鏡像は、ほかの光学顕微鏡同様、光がレンズを通過して結像するという原理上の特性から、同心円状の光の分布(ボケ)が避けられません。この光の分布を数学的演算により元の位置に戻し、本来の像に近い画像を得るのがデコンボリューション技術です。」
光の分布の仕方はレンズごとに決まった特性があり、「点像分布関数(PSF:Point spread function)」として表現できます。PSFは大きさの決まった蛍光性サンプル(蛍光ビーズ)を用いて、各レンズ固有の光の分布の仕方を計測することで得られます。デコンボリューション技術では、まずPSFからフーリエ変換*により「光学伝達関数(OTF:Optical transfer function)」を導き、撮影した細胞画像の光の分布を、OTFを用いて逆演算して観察対象の正しい位置情報を復元します(図1、図2)。
* 時間や空間座標が変数の関数を、周波数が変数の関数に変換すること。
図1 デコンボリューション技術の概要
図2 画像処理による分解能の改善(原口先生ご提供データ)
左:処理前 右:処理後
白:染色体、緑:微小管、ピンク:中心体
細胞:ヒトHeLa 細胞
「焦点面だけでなく、非焦点面に分布した光の情報も取り込むデコンボリューション技術は光子の利用効率が高い技術といえるでしょう。メリットとして、微弱な蛍光シグナルであっても鮮明な画像を得られることがあります。一方、共焦点顕微鏡は焦点面以外の拡がった光をハードウエア(ピンホール)で除きます(図3)。このため、非焦点面から拡がった光の影響を受けずに最初からクリアな画像が得られるというメリットがあります。」
図3 サンプルからディテクターまでの光路図
それぞれの技術とメリットをこのように解説される原口先生は、各技術を使ううえでの注意点について次のように指摘します。
「共焦点顕微鏡での撮影には、スキャンスピード、ピンホールの大きさなど非常に多くのパラメータを設定する必要があります。柔軟性がある分、適切な条件設定には撮影者の熟練が求められるので、撮影者によって画像のクオリティに差が生じやすいですね。デコンボリューション技術を用いた顕微鏡では、Z軸方向のステップサイズと露光時間で撮影条件が決められるケースが多いので、撮影者の習熟度に依存せず一定のクオリティの画像が得られやすいことが特徴です。ただし、このクオリティは、XYZ軸全方向で高精度に制御できる顕微鏡ステージもしくはレンズ駆動装置や、収差の少ない高品質なレンズなど、ハードウエアの精度が確保されているシステムが大前提で、演算ソフトウエアだけで得られるものではありません。ソフトウエアも、計算結果が実像を反映しているか検証しながら計算を進める方式(Constrained Iterative algorism)を用いる必要があります。」例えば、タイムラプスイメージングでは、顕微鏡全体の温度を一定に保たなければなりません。ステージやレンズなど一部だけを温度調節してしまうと、不均一な温度変化が起き、金属の伸縮によるステージドリフトに繋がってしまうからです。このように、ハードウエアの精度が、得られる画像に与える影響を理解したうえで、画像データを解釈することが大事なのだとおっしゃいます。
» 顕微鏡を選択する前に観察したい対象を把握することが重要