「見えた!」を実現する細胞イメージング戦略
DeltaVisionお客さまの声(2/2)
顕微鏡を選択する前に観察したい対象を把握することが重要
「デコンボリューション技術が登場してから時を経て、最近は認知度も高まってきたようです。デコンボリューション技術と共焦点顕微鏡はともに改良が進み、用途に応じて両方の顕微鏡を使える時代になったと思います。」と話される原口先生は、実験系を構築する際に、どの顕微鏡を選択すればよいか相談を受けることも多いそうです。「研究の目的によってデコンボリューション技術が適している場合もあれば、共焦点顕微鏡が適しているケースもあります。顕微鏡を選択する前に、何を観察したいかというターゲットを把握することが大切です。」
例えば、複数の目的分子を蛍光抗体染色法で多重染色する場合や、光毒性を抑えてライブセルイメージングをしたい場合、低励起エネルギーで細胞を傷めず、幅広い励起波長に対応できる半導体光源とデコンボリューション技術を併せて用いることがあります。この方法は汎用性に富む反面、対象の厚みが細胞一層程度(約30μm)までに限られます。これ以上の厚みがあると、非焦点面からの光が多くなり過ぎて、元の位置に回復させにくくなってしまうからです。
共焦点顕微鏡では焦点面以外からの光はピンホールを通過せずにシャットアウトされるため、組織切片のような厚みのあるサンプルに適しています。しかし、焦点面からの光しか取り込まないため、微弱なシグナルをうまく捉えられないことがあります。レーザーパワーを上げればシグナル強度を上げることができますが、細胞を痛めやすい難点が指摘されています。
このような基本的なメカニズムを踏まえたうえで、原口先生はディテクターの特性を理解することも重要だと指摘されます。「共焦点顕微鏡で用いられている光電子増倍管(PMT:Photo multiplier tube)はスペック上の検出レンジは広く見えますが、これはゲインの幅を変えることによって得られているもので、特定のゲイン幅では検出できる光の強弱は限られてしまいます。生きている細胞内では、ある場所で1の強度のものが別の場所では50倍になることもあり、PMTの特定の検出レンジに収まらないケースがよく見られます。このような場合、デコンボリューションで用いられるCCD(charge-coupled device)カメラなら、検出できるシグナル強弱の幅が広いため、観察対象のシグナルの強弱を反映した階調数の高い画像が得られます。例えば、分裂期のチューブリンタンパク質の重合や紡錘体形成などのダイナミックな分子量の変動を捉えることができます。」
加えて、レンズの特性を理解し、各実験に合わせた最適なものを選択することが理想とのこと。「レンズの特性の一つとして、透過する蛍光がレンズを通過するときに波長の違いによってズレが生じる色収差があります。色収差は、XY軸の平面方向とZ軸方向に生じます(図4左)。共焦点顕微鏡用に色収差が小さく対称性もよいレンズが開発されており、有効な選択肢の一つです。デコンボリューションと併せて使う場合、3次元の光の分布の対称性も高くないといけません。なぜなら、デコンボリューションでは拡がった光の情報を元に本来の位置を求めるため、光の分布が、XY軸の平面方向とZ軸方向に対称的に広がっている必要があるからです(図4右)。色収差は、水浸対物レンズと油浸対物レンズでも変わってきます。色収差をなるべく小さく抑え、深い部分まで見たい場合、水浸対物レンズを使うといいですね。ただし、浅い部分を高い解像度で見たい場合は、油浸対物レンズを選択する必要があります。」
図4 レンズの特性
ナノ世界のダイナミックな挙動をピンポイントで高分解能に解析できるLive CLEM法
では、原口先生ご自身はデコンボリューション技術をどう活用されているのでしょうか? 現在取り組まれている撮影方法を紹介していただきました。「私の研究室ではLive CLEM(Correlative Light Electron Microscopy)法という手法を用いています。Live CLEM 法では、まず、生きた細胞の3次元画像を撮影し、デコンボリューション処理をした画像で観察したい部分(ROI:region of interest)を確認しておきます。この高解像度の3次元画像は、Z軸ステップが80 nmという非常に狭い視野の電子顕微鏡で、ピンポイントにROIを探し出すために必要不可欠です。共焦点顕微鏡画像でも不可能ではありませんが、正確な3次元画像を撮影するには熟練を要します。そこで、顕微鏡の熟練者でなくとも活用できるようにするため、デコンボリューション技術が非常に役立っています。デコンボリューション技術で得られる鮮明な画像と電子顕微鏡画像のタイアップがうまく活かされている使い方です。」
複数の手法を組み合わせて結論を出すことが大切
細胞イメージング技術は有効な研究解析方法ですが、「これで全てが分かる」という魔法の手法ではありません。細胞生物学研究を進めていくうえで、データにどう向き合うか、原口先生に研究者のあるべき姿について伺いました。
「デコンボリューションは優れた技術ですが、これだけを信頼するのは間違いであり、同様に、共焦点顕微鏡の画像だから正確だ、と考えることも正しくありません。顕微鏡はレンズを用いる以上必ず収差があり、レンズの性能や測定時の温度環境によっても得られる画像が変化します。画像はこうした誤差を含めて写し出されていることを理解した上で、顕微鏡を使うべきだと思います。私が開催しているイメージングのワークショップでは、最初にPSFの測定をしてもらいます。測定を行った学生は、1色に染まったビーズを見ているはずなのにリング状の像が見えるという経験を通じ、今まで顕微鏡で何を見ていたのだろうか、正しい結論を出していたのだろうかと不安を抱くようです。実は、このように不安になることが非常に大切なのです。不安があれば、レンズの性能には限界があり、デコンボリューション技術や共焦点顕微鏡にも限界があることを念頭に置いて、結論を出すようになるでしょう。もちろん顕微鏡画像だけで判断するのではなく、遺伝的、生化学的手法なども用いて最終的に結論付ける必要があるのは当然です。さまざまなデータを相互に関連付け、総合的に判断して正しい結論を導き出すことが科学者としての努めだと考えます。」
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