第11回日本蛋白質科学会年会 ランチョンセミナー
相互作用解析で明らかにされる構造活性相関
~低分子化合物を識別する抗体の抗原認識機構を解析する~
熊本大学大学院生命科学研究部(薬学系)・環境社会医学部門
環境分析科学講座・生命分析化学分野
森岡 弘志 教授
前半は低分子化合物、特にタンパク質の糖化に関わるGA-prydineに対する組換え小型抗体scFvの精製法Tips、および相互作用解析の結果を伺いました。後半は同じく低分子化合物であるダイオキシン類、およびDNAに紫外線照射した際に発生するチミンダイマーと、その抗体との相互作用解析結果とそこから見えてくる事象を伺いました。本報では前半部分を中心にご報告いたします。
はじめに
メイラード反応というアミノ基とカルボニル基の反応によって生成されるadvanced glycation endproduct (AGE)が細胞の表面、血中ヘモグロビン、細胞外マトリクスなどに現れることで動脈硬化や老化につながることが知られています。このAGEを標識して、これらの病態との関連を明らかにすべく抗AGE抗体を作る研究をしています。抗体の中でも、抗原と結合する可変領域部分を大腸菌のシステムで精製した組換え小型抗体scFvを用いて相互作用解析を行った結果を中心にお話しします。抗体との結合様式を詳しく調べることでより強く特異的に結合する抗体を作ることを目標としています。
抗体の精製手法
相互作用解析には精製度が高く、構造的にも均一な抗体が必要となります。大腸菌で発現させた抗体は溶解した状態ではとれないので、カラムの上(On-columnリフォールディング)、あるいは透析を用いた方法のどちらかを用いてリフォールディングをかけます。On-columnリフォールディング法の方が低コストかつ短時間で行うことができます。ただしまれにリフォールディングできないサンプルもあるため、そのときには透析を用います。
On-columnリフォールディング法
実験の流れを図1に示しました。組換え抗体は大腸菌内で封入体として発現されます。封入体を6 Mの塩酸グアニジン溶液にて可溶化させた後、His-tag融合タンパク質精製カラムHisTrap™を用いて精製します。このカラムの上で、そのままリフォールディングをかけます。グアニジン濃度を6Mから0Mにステップワイズあるいはグラジエントで濃度変化をかけることで巻き戻します。溶出させたのち濃縮をかけ、ゲルろ過で精製することでかなりきれいな抗体になります。巻き戻しがうまくいかなかった抗体は濃縮の過程で沈殿し取り除くことができます。きれいな抗体だけが最後まで残ります。
図1 On-columnリフォールディング法プロトコール
透析法
透析法の流れを図2に示しました。6Mグアニジンで可溶化するところまではOn-column法と同じですが、6Mから0Mまで濃度を落とす際に透析を用います。その過程で沈殿なども生じますが可溶化しているものだけを回収し、最終的にゲルろ過とバッファー交換を行い精製します。図3に条件を示しました。こちらは東京大学の熊谷先生や津本先生が苦心され編み出された条件を使用させていただいています。
図2 透析リフォールディング法プロトコール
図3 透析用バッファー組成
抗体抗原反応の速度的な解析
2種類の手法を用いて作成したGA-prydineに対する抗体についてお話しします。一つはマウスに免疫してそこからファージディスプレイの方法でセレクションをかけてとってきたAGE#73 scFv、もう一つはハイブリドーマ法を用いてとってきたGA5 scFvです。GA- prydine は低分子でプレートへの結合が難しいため、GA-BSAやGA-OVAなどコンジュゲート体に対する結合活性をELISAで確認したところAGE#73 scFvの方が活性が高いことが分かりました。
さらに、Biacore™のセンサーグラムから、この反応はTwo-state reactionだということが示唆されます。まず1:1で結合し、その後に形が変わるというような反応です。Biacore™のプログラムからそれぞれの反応を分離して結合定数を求めることができます(図4)。すると、両者にはそれぞれ10倍以上の親和性の差があり、その違いは一段階目の解離速度の差に起因していることが分かりました。ですから、より強く結合する抗体を作るために、一段階目の反応を意識して研究を進めることになります。
図4 速度論的解析
抗原抗体反応の熱力学的解析
熱力学的なパラメーターとしてエンタルピー変化(ΔH)、エントロピー変化(-TΔS)、自由エネルギー変化(ΔG)という3つの項目が出てきます。ΔH がマイナスの場合発熱を伴う特異性の高い反応を示します。-TΔSは自由度を表すパラメーターで、疎水的相互作用とか、あるいは構造変化の指標になります。特に疎水性結合の場合は、水和水の影響で大きくマイナスになります。ΔGは反応の方向なので、反応が進む方向であれば、負の値を示します。ということで、熱力学的なパラメーターから反応の性質がある程度推測できます。
Biacore™ T100を用いて、13~29℃の間で温度を変えながらvan’t hoffの非線形の解析式にあてはめてこれらの値を予測します。温度の設定も難しいところで、温度によって状況が変わってきます。結果的に、一段階目はΔH < 0 , -TΔS < 0で疎水性相互作用による特性の高い結合であり、一般的な結合を示している。二段階目は抗体の構造変化を伴い、抗原を結合部位により強固に保持する反応であることが分かりました。このデータを用いてさらに強い抗体が作れると考えています。
図5 熱力学的解析
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