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ラテラルフローイムノアッセイ:最適な「メンブレン」の選び方

By Dr. Klaus Hochleitner / Global Lead Technology Product Specialist Diagnostics

ラテラルフロー迅速診断テスト開発の最初のステップの1つは、サンプルに最適な部材を選ぶこと、特にニトロセルロース(NC)メンブレンの選択が重要です。NCメンブレンは標的分子が結合することによりその診断結果が示されるラテラルフロー迅速診断テストの心臓部といえます。

ラテラルフローイムノアッセイが成功するか――それはメンブレン上の一連の反応に左右されます。イムノアッセイ開発用の部材を選択する場合、「メンブレン特性」と「試薬特性」の相互作用がテスト開発の結果に影響するため、この2つを同時に考慮する必要があります。

感度・特異性・試験時間といったテスト目標を達成するために、メンブレンを選択する際は、さまざまな材料と特性が試薬やサンプルといかに相互作用するかを考慮しなければなりません。サンプルとメンブレン間の相互作用に影響を与える要因は、次のものが挙げられます。

  • サンプル溶液の「粘度」
  • 試験試薬とメンブレン、界面活性剤の適合性
  • 結合試薬(抗体など)の速度論的特性

「メンブレン特性」とキャピラリーフロータイム

キャピラリーフロータイムとは、定義された幅(1 cmなど)のメンブレンストリップを使用して、液体(通常は水)がメンブレンの表面に平行なある一定の距離(通常4 cm)を移動するのに要する時間です。詳細については、図1を参照してください。その時間が短いほど、メンブレンは「速い」といえます。

図1. メンブレンのキャピラリーフロータイム測定の基本セット
メンブレンストリップの幅は1 cm、ストリップの長さは4.5 cm。ストリップ長4 cmの場所に矢印のマークを付けて、液体(水)がマークに到達するのに必要な時間を測定し記録します。水量は100μLです。

メンブレンのゼロ点(スタートポイント)からの距離が長くなると、メンブレンの任意の点での移動液の滞留時間も長くなります。メンブレンのゼロ点から離してキャプチャー試薬(抗体など)を固定化すれば、キャプチャー試薬が標的分子と結合する時間が長くなります(図2)。テストのパフォーマンスを改善するために、この特性を利用できる場合もあります。

サンプル溶液の「粘度」

図2のメンブレンのキャピラリーフロータイム(水を用いた時間)と血清を流したときの時間を比較すると、サンプル液の「粘度」が試験時間にどのように影響するかがわかります。粘度が高くなると、キャピラリーフロータイムが長くなり、その結果試験時間が長くなります。試験時間を短くする一般的な方法は、「フローが速いメンブレンを選択する」ことです。これには、キャプチャー試薬の結合速度論的特性とのバランスを取る必要があります。仕様上のキャピラリーフロータイムからメンブレンが「速い」か「遅い」かを把握することができますが、実際には実サンプルをテストして、テスト要件を満たすことができるかどうかを判断する必要があります。

図2. AE99メンブレン(水でのキャピラリーフロータイムの仕様:120〜160秒)でのヒト血清のキャピラリーフロータイム
図1で概説した方法を使用して、メンブレンのゼロ点からさまざまな距離で測定された「ヒト血清のキャピラリーフロータイム」を示す。血清のフロータイムレートは、メンブレンストリップのゼロ点からの距離が増加するにつれて減少するため、レートはメンブレン仕様として有用ではありません。

メンブレン仕様とテストのアライメント調整

キャピラリーフロータイムの仕様は、一般にレンジ幅で与えられます。ほとんどのメンブレンの数値は仕様範囲の中央値付近を示しますが、一部のメンブレンは範囲のどちらかの境界の値を示す場合があります。そのようなケースも考慮して、サンプルとテスト試薬が特定のメンブレングレードと互換性があるかどうかを評価することは非常に重要です。想定される問題を図3に示します。

図3.テスト要件とメンブレンのキャピラリーフロータイムに関して考えられる問題

メンブレンの界面活性剤とタンパク質結合:気をつけるべき注意点

市販のニトロセルロースメンブレンには、通常陰イオン性の界面活性剤が含まれています。界面活性剤の厳密な特性はすべてのメンブレンメーカー固有のものですが、添加する目的は常に同じです。まず、界面活性剤はメンブレンを親水化し、次にタンパク質がメンブレンに結合するのを助けます(図4)。

Goodニュース:
界面活性剤は、メンブレンに分注された緩衝液中のタンパク質を部分的に変性させ、ニトロセルロースへの結合をサポートします。

Badニュース:
界面活性剤はタンパク質を変性させてしまいます。これにより、一部のモノクローナル抗体の抗原結合部位が完全に破壊される可能性があり、破壊された抗体はラテラルフローテストで使用できなくなります。

これまでの調査から、モノクローナル抗体の約2〜3%がこの問題の影響を受けており、それ以外にも部分的に障害を受けている場合もあります。このようなケースでは、異なる界面活性剤のメンブレンを評価することも選択肢となります。

Whatman™は、4つのメンブレンファミリー(FFHP、FFHP Plus、FFHP Plus Thick、Immunopore™)を開発しています。各メンブレンファミリーは、指定濃度で特定の界面活性剤が含有されています。これは、ファミリー内のすべてのフロータイムのメンブレングレードで同一です。

Whatman™の各メンブレンの特性は、最後に「表1」として一覧にまとめていますのでご参照ください。

図4. ニトロセルロースメンブレンへのタンパク質結合プロセスの概念図

キャプチャー試薬の結合速度論的特性と、メンブレン適合性

特定のキャプチャー試薬、たとえばある「モノクローナル抗体」がラテラルフロー迅速診断テストに必要な「感度」と「特異性」を提供できるかどうかは、使用するメンブレンとメンブレンに含有する界面活性剤だけではなく、キャプチャー試薬の結合速度論的特性も重要になってきます。

抗体のアフィニティは、結合速度(オンレート:抗原結合部位で標的と会合する速度)、および解離速度(オフレート:結合した抗原が結合部位から放出される速度)によって決まります。特定のターゲットに対して同一のアフィニティを持つ抗体でも、図5で説明されるように結合速度と解離速度が大きく異なる場合があります。

図5.特定の抗原に対して同じ親和性を持つ異なるモノクローナル抗体の結合速度論的特性
Biacore™装置で表面プラズモン共鳴を使用して取得したデータ。結合速度と解離速度が遅い抗体(左:緑色)も、結合速度と解離が速い抗体(右:青色)と同じアフィニティ(中央)を示しています。

ラテラルフローテストでの抗原の滞留時間は通常非常に短く、常に1分未満、たった数秒という場合もあります。したがって、ラテラルフロー迅速診断テスト向けには、高い結合速度の抗体が必要です。

ラテラルフロー迅速診断テストの開発者は、ターゲット抗原の検出に利用可能なすべてのキャプチャタンパク質をテストキットで評価するか、抗体選択の前に表面プラズモン共鳴によって評価する必要があります。後者のアプローチによって、開発者は、明らかに好ましくない結合特性または解離特性を持つモノクローナル抗体を除外することができます。

もし代替手段がなく、特定のキャプチャー試薬と検出試薬のペアを使用して実際にテスト開発する必要がある場合には、開発前に計画した感度の目標とテスト時間の目標との間で矛盾が生じる可能性があります。結合速度が遅いキャプチャー試薬は、流速の速いメンブレンでは低感度になる可能性がありますが、その時に使用したメンブレンのみが「正しい」テスト時間を開発者に提供しています。この場合、異なる界面活性剤を用いたメンブレンおよび/または異なる界面活性剤濃度のメンブレンを探す参考にはなりますが、最終的には、開発当初の目標をこの試薬セットで達成可能な目標に調整するか、または新しい試薬を開発する必要があるかもしれません。

メンブレンの「選択」:適切なバランスを見つける

ラテラルフローアッセイ用のメンブレンは、さまざまなキャピラリーフロータイムのメンブレンが提供され、親水化剤としてさまざまな界面活性剤が異なる含有量で使用されています。フロータイムはサンプル液の粘度に影響されるので、フロータイムが遅いほど、サンプル液溶液はメンブレンを流れきるのに時間がかかり、テストが完了するまでに時間を要します。一方、フロータイムが遅い場合、テストライン上のキャプチャー試薬と検出されるターゲットとの相互作用時間が長くなり、テストの感度と特異性を高めることができます。

ラテラルフローアッセイにおいて、「メンブレンの特性」と「試薬の特性」は互いに独立しているわけではなく、それらの相互作用によってテスト開発の成否が決まります。たとえば、測定時間を最重要視し流速の速いメンブレンを用いて、特定のテスト開発で使用される試薬で低粘度サンプルを測定する場合や、高感度化を最優先項目とし、高粘度サンプルで流速の遅いメンブレンを使用するケースなどが挙げられます。また、メンブレン上の界面活性剤はサンプルの結合能力に影響を与える可能性があります。

Whatman™のラテラルフローメンブレンの基本特性の概要と、「どのタイプのサンプル溶液にどのWhatman™メンブレンを使用したらよいか」を一覧として表1にまとめました。

テストの要件に応じて、メンブレンの組成またはメンブレンのキャピラリーフロータイムを変更した「カスタマイズ」されたメンブレンが必要になる場合もあります。カスタマイズの詳細は、ケースバイケースで対応いたしますので下記までお問合せください。

Whatman™ラテラルフロー用メンブレンの基本特性

表1. Whatman™のメンブレン特性の概要
※クリックしていただくとPDFでご覧いただけます。

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