Discovery MakerのDorraya El-Ashryを紹介します:乳がん撲滅を使命とする科学者です。ドレイヤは30年間の研究経験を活かして、この致命的な病気との闘いを指揮しています。乳がんに気をつけて。
細胞1つずつから、がんを撲滅しようとしている女性
Meet scientist Dorraya El-Ashry博士
『夜と霧』の著者であるヴィクトール・フランクルは、幸運への鍵は「目的」であると信じていました。自分がなぜここにいるのか、自分が何をすることになっているのかを理解できれば、どんな難題にも打ち勝つことができます。Dorraya El-Ashryは人生を決定づけるような目的を持った人物の1人です。彼女の目的は非常にシンプルです。それは、乳がんを撲滅すること。乳がんは現在、世界でもっとも一般的な形のがんです。
ドレイヤは米国の乳がん研究財団(Breast Cancer Research Foundation、BCRF)の最高科学責任者です。同財団は、乳がん研究において民間では世界最大の資金提供機関です。彼女の仕事は、全世界の研究プログラムを監督し、研究の全領域にわたって乳がんを調査することです。私たちは乳がん治療の大きな転換点にあり、また、転移性乳がんは最終的には治癒可能であると彼女は信じています。
科学者である父に触発されたドレイヤは、ヴァンダービルト大学で分子生物学を学び、その後、コロラド大学アンシュッツ医療キャンパスにおいて病理学の博士号を取得しました。実験病理学者として、乳がんの転移メカニズムを研究するラボを30年にわたって率いた彼女は、一般に受け入れられている考え方に挑戦するような発見をしました。
私たちは最近、ドレイヤとの対話を楽しむことができました。彼女はラボから乳がん研究財団へと移った動機について教えてくれました。また、科学者にとって忍耐力がなぜそれほど重要な資質であるのか、そして彼女がこの道をたどることになった極めて個人的な理由についても話してくれました。
あなたが科学を志す動機は子どもの頃からあったそうですね。何が起こったのか、そしてそれがどのようにあなたの道のりを決めたのかを教えてくださいますか?
私は科学の家で育ちました。父は環境科学者で、2人の娘とともに、科学と数学は私の家では重要なものでした。私は科学が大好きでした。小学4年生の時に、時の大統領ががんとの戦いを宣言して、私は「それこそが私のすることだ」と思ったのです。
学校に通っている間、私は生物学が好きだと思っていました。生物学は生き物についての学問であり、最終的には人間の病気に関する学問、病理学にたどり着き、私は病理学について大学院で学びました。学校に通っているとき、私はがんの治療法を見つけたいと思うようになりました。大学にいる間に、乳がんの研究をするだろうと思っていたのです。
ヴァンダービルト大学でのラボの仲間でもあった友人の母親は、5年の目安が過ぎてすぐに乳がんで亡くなってしまいました。当時は、5年間経てばもう大丈夫と思われていたのです。そのことで彼女は押しつぶされてしまったのです。
もう1人の友人の母親は、何年もの間、乳がんを患っていましたが、1年か2年おきには転移を繰り返していたようです。これは、私たちが「補助療法(アジュバント療法)」と呼ぶ治療が行われる前の時代のことでした。これは乳がんの術後療法で、転移を防ぐために原発腫瘍を摘出した後、原発腫瘍から脱離していた可能性のあるがん細胞を発症前に治療するというものです。
彼女はこの治療法があればきっとその恩恵を受けていたでしょう。しかし、転移性乳がんを抱えながらも、彼女は数年間は生き延びました。4年間の大学生活の中で、私の友人が受けた大打撃と、私たちが経験したこと。私は友人がひたすら泣く横でいくつもの夜を過ごしました。
研究者としてのあなたの仕事を紹介していただけますか?
私は30年以上、ラボの研究者でした。私がしてきた仕事はすべて、乳がんの研究でした。私たちは当初、トリプルネガティブ乳がんに焦点を当て、乳がん細胞においてエストロゲン受容体(ER)が実際にどのようにしてダウンレギュレートされているのか、そのメカニズムを見つけようとしました。
このアイデアは、これらの乳がん細胞の生物学的性質を変更して、もっと予後のよいER陽性乳がん細胞のようにできれば、抗エストロゲン療法に再び反応するのではないか、というものでした。そして実際に、可逆的なメカニズムがあることを見いだしました。この研究はその後の乳がんの臨床管理に影響を与えました。
しかし、この研究は私たちをまったく新しい領域、すなわち腫瘍の微小環境に導きました。長年にわたる数多くのがん研究は、がん細胞に焦点を合わせてきました。しかし現在私たちにわかっているのは、がん細胞を取り囲んで、がん細胞と相互作用している正常細胞が、がん細胞の挙動を促す極めて重要な役割を果たしているということです。
私たちは、がん関連線維芽細胞と呼ばれる特定の種類の細胞が、がん細胞と一緒に腫瘍中に留まっていること、そして転移プロセスの一部としてがん細胞を助けていることを発見しました。この研究は現在進行中であり、転移性乳がんを予防するための新しいリキッドバイオプシーや新しい標的治療法につながる可能性があります。
あなたが現在進めている仕事は、純粋なラボでの研究とはかなり違っています。現在の役割はどのようなものか、説明していただけますか?
私は、乳がん研究財団(BCRF)の最高科学責任者として、研究プログラムのビジョンと戦略を主導しています。私は科学諮問委員会と協力して、BCRFの投資が乳がん研究において必要とされる影響力を発揮していることを確認しています。しかし、それと同じぐらい重要なことですが、私のチームはBCRFのすべてのチームと協力して、メッセージ、影響力、そして緊急性を引き出すように取り組んでいます。
そういった変化のきっかけとなったのはどんことですか?
私はこのような変化を起こすつもりはありませんでした。実際、最初に声をかけられたときは「いいえ」と答えました。私たちはラボを移転してセットアップしたばかりであり、また、2つの新しい助成金を手にしたばかりでした。しかし同時に、私はBCRFについてすべてを知っていました。ですから、2回目に声をかけられたとき、私は見てみるよう勧められたのです。
それは大きなキャリアの変更でした。しかし、乳がん研究とその資金調達の軌道に大きな影響を与える、より良い方法とはどのようなものでしょうか?私は、乳がん研究は完全に新しい方法で前進させ、すべての重要な研究分野に影響を与えられるだろうと思っています。
現在のアメリカにおける乳がん問題の規模はどれほどでしょうか?
アメリカには転移性乳がんを患っている女性が168,000人いること、そして彼女たちは事実上全員が転移性乳がんによって死亡することがわかっています。アメリカでは年間42,000人以上、1日あたり約110人が乳がんで亡くなっています。
私たちの最大の課題は、転移性乳がんの患者さんの寿命を延ばすだけでなく、実際に転移性乳がんを治療するための新しい治療法と戦略を考案することです。研究によって、乳がんによる死亡率はこの30年間で40%減少しましたが、減少率は鈍化しています。
私たちは乳がん研究の資金調達に関してとても重要な位置にあります。今、この恐ろしいパンデミックを経験していますが、乳がんも依然として存在してます。実際、最近の報告では、パンデミックによる検診の遅れや中止の結果として、乳がんによる死亡の可能性が高まっていることが示唆されました。私たちは集中力を失わず、勢いを損なわないようにする必要があります。
重要な科学的ブレークスルーを達成するには決断が必要です。科学において忍耐力が果たす役割についてお話しいただけますか?
科学者として成功するために備えうる最大の特性の一つは忍耐力だと思います。忍耐力と辛抱強さです。科学は一直線に進むものではありません。ブレークスルーは、小さな「アハ」の瞬間の上に構築されるものです。
データが導いてくれるところへとついて行く必要があります。私の好きな言葉の一つに、「失敗した実験などというものはない。予期せぬデータを乏しい想像力で解釈しているだけだ」というものがあります。期待どおりの結果が得られなかったとしても、実験に問題があったとは限りません。データを追跡する必要があるということです。
あなたは以前、データに忠実であれという規律について言及されました。このことを理解できるよう、また、あなたにとってそれがなぜそれほど重要なのかがわかるように教えてくださいますか?
私のキャリアの初期の例のように、データを追跡していると、一般的なパラダイムに異議を唱えるような発見が現れるかもしれません。それ自体が困難なものかもしれません。論文を出版したり、初めての助成金をもらったり、アイデアを受け入れてもらったりすることが難しくなるためです。難しいことはわかりますが、それを守ることが重要です。私は大学院生たちにいつもそう言っています。
自分のデータが導くところへとたどっていくためには、すべての科学者が備えている創造性という特性も使う必要があると思います。予期せぬ結果に直面したとき、あなたはこう言うでしょう。「これは本当のところ、何を意味しているんだろう?次はどうしたらいいだろうか?」
これは、科学に関してもう1つの重要な考え方につながっています。それは、実験的な質問を作成し、それの答えが「はい」であっても「いいえ」であっても、自分を前進させるような答えが得られるようにすることです。
科学者はどのような資質を共通して持っていると思いますか?
科学者は、非常に基本的なレベルにおいて人道主義者でもあると思います。彼らは「なぜ?」という質問に答えたいために、創造的かつ科学的な見地から世界を見ています。私にとって、すべての知的好奇心と「なぜ?」と問う意欲の根底にあるのは、命を救うことへの深い献身です。
次のレベルの乳がん治療の鍵を開けるのは、どのような種類の科学的ブレークスルーでしょうか?
転移の経路と標的を特定することだと思います。私たちは進歩しています。この5年間に、転移性乳がんに対して9種類の新薬が承認されました。これは素晴らしい偉業です。薬は2つまたは3つのカテゴリーに分類されます。そのうちのいくつかは、細胞の成長および増殖を駆動する装置である細胞周期に作用するタンパク質を標的としています。これらの薬はCDK4/6阻害薬と呼ばれます。
他のグループの薬としては、HER2陽性乳がんの患者さんを対象としたものがあります。この薬は現在、肝臓および肺への転移を治療する能力だけでなく、こうした転移の発生を予防する能力も実証されつつあります。
昨年ニュースとなったのは、血液脳関門を通過できる新しいHER2標的薬です。これは、脳転移に対する明確なベネフィットを示した初めての薬剤です。
20年後、どのような場所にいることを望みますか?
15年前にこの質問を受けたとき、私は、乳がんが管理可能で治療できる病気にすることができる場所にいるでしょう、と答えました。そして私たちは、その場所のすぐ近くにいます。
私たちは、その旅、その戦いを、もっと許容できるものとするために懸命に努力しています。これは2つのことに帰着します。1つは、患者さんが乳がんから受ける副作用、毒性、神経障害など、苦しまざるを得ないすべての物事に対処することです。患者さんは治療が終わると、乳がんが再発する3人のうちの1人になってしまうのではないかと心配します。さらに最近の報告では、若い女性においてステージ4の乳がんが増加していることが示唆されています。
ちょうど昨年、それぞれBCRFに近い関係にあった2人の若い女性が、転移性乳がんで亡くなりました。それは強烈なパンチでした。ですから、20年後には、転移性乳がんが治療できること、乳がんで亡くなる女性がいないこと、そして、そもそも乳がんの発生の予防に向けて順調に進んでいるであろうことを期待しています。
ドレイヤは現在、彼女の知識がより大きな影響を与えることのできる立場にいます。もっとも有望な乳がん研究に資金を割り当てるという形で。忍耐力が、ドレイヤを発見に向けた長い旅を進ませてきました。そして、これから先にもっと重要なマイルストーンが存在することは間違いありません。医科学の最先端における仕事は複雑ですが、それは非常にシンプルで奥深いことに翻訳できます。つまり、「健康で長生きするために」ということです。