Insight evaluation softwareではほとんどの方が1:1 dissociation modelをご利用いただけます。このモデル式により、Dual injectionと組み合わせてランニング緩衝液と異なる溶液条件での解離速度を解析したい場合や、アナライトの濃度が不明の時に解離速度だけでも解析したい場合にもkd算出が可能となり、比較検討ができるようになります。

どうすれば利用できますか?

1:1 dissociation modelはセンサーグラムの解離相を指数関数的な減衰の方程式にフィッティングさせます。このフィッティングはアナライトの濃度に依存しない点が特徴です。Insight Evaluation Software(以降Insight)のExtended Screening and Characterization extensionのライセンスをお持ちの方がご利用いただけます。

どんなことができる解析なのでしょうか?

1:1 binding modelによるkinetics解析をしたい場合、一般的なサンプルの添加時はランニング緩衝液組成とできる限り一致させて添加することが求められます。一方で1:1 dissociation modelでの解析は、(A) Dual injectionと組み合わせてランニング緩衝液と異なる溶液条件での解離速度を解析したいとき、(B) アナライトの濃度が不明の時に解離速度だけでも解析したいときということになります。これはDual injectionを用いた測定方法ととてもよく関連するため、まずはDual injectionについて解説いたします。

Dual injection

Dual injection

Dual injectionはランニング緩衝液を挟まずにSolution AとSolution Bを連続して添加するCommandです。よく似たCommandにABA injectionがありますが、こちらはSolution A→B→Aと添加する方法です。(参考:こんな機能あったんだ「Dual injection」と「A-B-A injection」

1:1 dissociation modelの代表的な利用例

以下の3つなどが代表的です。

1)エンドソームのpH依存性を検証

RAGE(Receptor for Advanced Glycation End Products)とADCsの相互作用を評価した事例

Figure 2はRAGE(Receptor for Advanced Glycation End Products)とADCsの相互作用を評価した事例です。Dual injectionを用いてエンドソーム内におけるpH依存性を評価しています。他にも抗体とFcRnとの結合機構などにもご利用いただけます。

※ Figure 2の元となった資料中ではpH7.4と6.0で添加された溶液による解離量のみで評価されており、1:1 dissociation modelでの解析は実施しておりませんが適用可能です。

2)Off rate screening (ORS)に利用

アナライトの濃度が不明の時に解離速度だけでも算出したい場合に利用されます。

このpaperではパラレル合成により合成された製品の精製が医薬品科学におけるボトルネックであると捉え、運用コストが高いHPLCを用いることなく、粗反応混合物中の化合物の解離速度定数を評価する方法を提案しています。

J. Med. Chem. 2014, 57, 2845−2850 Off-Rate Screening (ORS) By Surface Plasmon Resonance. An Efficient Method to Kinetically Sample Hit to Lead Chemical Space from Unpurified Reaction Products

低分子だけでなく抗体のスクリーニングなどにも応用可能です。こちらも同様に、アナライト(抗原)の濃度が不明な場合に用いることができます。こちらのWebinar「必見!Biacore™戦略と測定条件のワークフロー」でもOff-rate rankingという名前でご紹介しております。ご参考になれば幸いです。

最後に、3)として特殊なご研究用途での阻害法の例をご案内いたします。

Figure 4ではDual injectionを使用しており、DNA結合タンパク質のDNAリガンドからの解離が、ヌクレオチドの濃度が高くなるにつれて増加する様子を示しており、Solution Bのデータを1:1 dissociation modelで解析しています。

DNA結合タンパク質のDNAリガンドからの解離が、ヌクレオチドの濃度が高くなるにつれて増加する様子

T200/S200 evalやX100 eval、BIAevalではできなかったのでしょうか?

Insightと完全に同じことはできませんでした

上記の解析ソフトの場合は、プログラム上、CommandがSampleとして登録された添加プログラムしかkinetics解析を実施することができませんでした(=したがってCommandがDual injectionとして登録された添加方法ではkinetics解析することはできない)。

また、そもそも1:1 dissociation modelは標準搭載されておりませんでしたのでご自身でモデル式を追加しなくてはいけませんでした。

詳細なモデル式はどうなりますか?

積分式は以下の通りです。カーブフィッティングで使用する式は、微分方程式を使用します。センサーグラムは積分によって得られますが、解析には積分式は使用しません。

R = R0e-kd(t-t0) + Drift × (t-t0) + Offset

注意点や1:1 binding modelの解析と異なるところはあるのでしょうか?

  • このモデル式にはバルク(RI)が含まれていないことがお分かりいただけると思います。すなわち、RIの初期応答の変化を扱うことができません。もしバルクが見られる場合はセンサーグラムのデータ範囲を削除してフィッティングを行ってください。
  • このモデル式では、マストランスポートリミテーションの影響は考慮されていません。
  • 理想的な環境下で1:1 binding modelで解析した時の結果と1:1 dissociation modelで解析したkdの結果は比較的近くなります。