はじめに
弊社Webinarの「必見!Biacore™ 戦略と測定条件のワークフロー」にて典型的な条件や考え方、アプローチについては述べています(抜粋 Figure 3-5)ので本記事は是非それと併せてご覧ください。
本記事のシミュレート結果は抗体の典型的なアプローチに至る考え方を示唆し、個別の研究対象のサンプル特性や背景における測定戦略・ステップをどのようにするか、それぞれの測定条件をさらにどうするのが最も効率的なのか、ということをデザインするために役立ちます。手順としては以下になります。
- 測定予定の全抗体検体のka、kdレンジと最終的に詳細評価したい抗体のka、kdレンジを想定する
- 詳細評価する抗体の測定まで何ステップの測定をどのような条件で行うのが最適なのかを検討する
測定予定の全抗体検体のka、kdレンジと最終的に詳細評価したい抗体のka、kdレンジを想定する
ここでは、抗原は抗体相互作用に典型的なka = 5 x 104 ~ 5 x 106 M-1s-1、kd = 1 x 10-3 ~ 1 x 10-5 s-1 の範囲の値を全抗体の範囲として想定して、シミュレートします(Figure 1, A-E)。この範囲の取り方は標的タンパク質に対するMOAから考えて狙うべき相互作用やBiacore™ 測定の前段階でのELISAなどでのスクリーニングがあるかどうかなどで変わってくると考えられます。
Figure 1
詳細評価する抗体の測定まで何ステップの測定をどのような条件で行うのが最適なのかを検討する。
測定戦略は実際に得たいデータ品質が必要十分に得られるかどうかの他にも、低コスト・効率的に実施できるかという運用面の要素も重要です。従って抗体A-Eに対してシミュレートする条件は抗原濃度・添加回数・時間/解離時間になります。運用面において抗原濃度はコストに影響しますし、添加/解離時間は測定効率(時間)に影響します。
抗体A-Eに対して抗原濃度を変え、添加時間と解離時間を変えたセンサーグラムをシミュレートした結果がFigure 2です(各条件は左側に記載)。特に注目する点は、赤の楕円で示されるようにノーマライズしたセンサーグラムで、三種類の解離速度(kd)を見分けることができているかということと、水平線で記されるRmaxに対して十分な高さまでレスポンスが到達しているかという点と、およびレスポンスが有意に観察できているかということの3点となります。どれもデータの品質に関わる観点ですが、特に一点目はkd、KDの数値データの信頼性や分解能に関わるものです。
Figure 2
このシミュレーション結果から下記ようなワークフローが”一例として”想定されます。
最初のステップで、なるべく抗原消費量を節約して、結合速度が速く、解離速度が遅い抗体のみ残したいのであれば、1番目の条件でも良いでしょう。ですが、結合速度が遅くともとにかく解離速度の遅い抗体(AとD)も残したいのであれば、2番目の条件が必要になります。しかしながら抗原の消費量は多くなります。このステップではフィッティングを用いた ka、kd の評価でなくても適切な位置でのレポートポイントを用いた評価でも良いかもしれません。
次の2番目のステップとしては、例えばRe-engeeniering をするための抗体を選出するとして、ある程度解離が遅いもの、という基準としたとします。その場合、kd = 10-4 s-1 をカットオフにするか10-5 s-1 をカットオフにするかで上から3番目の条件にするか4番目の条件にするかが変わってきます。
最後にここでは示されていませんが、最終的に選出されたごく少数の抗体を正確に数値化する場合には(それが解離速度の遅いものを狙っている場合)解離時間を1時間以上必要な場合も良くあります。その場合もしあまりにも多くの検体数になってしまった場合、測定時間が長くなってしまいますので、上記の2番目のステップでどのような基準を作って、それを確実に実行できる条件を見つけることが必要になってきます。
このようにシミュレーションを用いることで測定ステップ・条件をそれぞれの研究テーマの目的や背景(抗原の所有量、検体数など)に対して最適化された細かい設定を検討することが可能です。
Biacore™ にはこのようなシミュレートができるWeb ツール Biacore™ Simul8(マニュアル)がありますので、是非ご利用のうえ、ご研究によりマッチしたワークフローをデザインしてみてください。
抜粋資料
Figure 3 抜粋1
Figure 4 抜粋2
Figure 5 抜粋3