一定のカットオフで多検体のスクリーニングを行う際、各検体が公平に評価できているか重要です。時間経過に伴うレスポンスの低減、分子量の異なる検体のレスポンス比較、キャプチャー法におけるリガンドキャプチャー量の補正機能などについて確認してみましょう。

今回、解説する低分子スクリーニングの補正機能とは、Biacore™を用いたBinding Level Screenにおける重要事項です。Binding Level Screenとは、低分子化合物のスクリーニングの場合、HTSからの二次スクリーニングが想定されます。また、フラグメントのスクリーニングの場合、Biacore™ でClean Screenを実施し、物性に問題のありそうなサンプルを除外した後に実施されます。いずれの場合も、より良い候補分子を選別するためにランキングを行うことが目的で、再生操作は行わず濃度一点で多数のサンプルを測定していきます。

低分子スクリーニングのワークフロー全体像に関しましてはこちらのCytiva Webinar「イチから始めるBiacore™での低分子測定の戦略」で解説されています。

Binding Level Screenにおいては、1枚のセンサーチップで一度に数百~数千サイクルの測定を行うことがあります。そこで重要となることは、全てのサイクルにおいてレスポンスを公平に評価するための機能で、次のような視点が重要になります。

  • ブランク(0濃度)添加時の微小なレスポンス変位の影響を除く。
  • 異なる分子量の化合物を公平に評価する。
  • (キャプチャー法の場合)リガンドキャプチャー量がわずかに変動する中で公平に評価する。
  • リガンドが徐々にbinding capacityを失っていく可能性がある中で公平に評価する。

上記の課題に対処するため、多検体処理に対応したBiacore™ 8K/8K+、T200(v2以降)、S200においては、一定のカットオフでも多検体スクリーニングを可能とするための各種補正機能(Adjustment)があります。それぞれの補正機能がなにを行っているのか解説します。

Biacore™ Insight Evaluation SoftwareによるBinding Level Screening画面

Blank subtraction

Blank subtractionは、すべてのアナライトのレスポンスからブランクのレスポンスを差し引くことでベースラインの補正を行います。ブランクとは、ランニングバッファーそのものをアナライトとして流すことでその時点でのベースラインを測定するもので、Binding Level Screen全体を通して定期的に設定します。ブランクとして定義されたサイクル(Biacore™ 8K/8K+のみ)、または0濃度サンプルサイクルの場合があります。

  • Biacore™ 8K/8K+の場合、同じチャネル内のブランクを採用します。
  • 複数回に渡って測定したRUNデータを含む解析セッションの場合、Blank subtractionは各RUN内で個別に実行されます。

ブランクの採用方法には以下の選択肢があります。

Nearest:各サンプルに対して、一番近いサイクルのブランクを採用します。

Average nearest:各サンプルに対して、直前のブランクと直後のブランクの平均値を採用します。

Preceding:各サンプルに対して、直前のブランクを採用します。直前のブランクがないサンプルは直後のブランクを採用します。

Following:各サンプルに対して、直後のブランクを採用します。直後のブランクがないサンプルは直前のブランクを採用します。

Molecular weight adjustment

Molecular weight adjustmentは、レスポンスをアナライトの分子量で割ることによって、レスポンスが質量ベースではなくモルベースで表記されるようにします。 レスポンスはRU / 100 Da(100ダルトンあたりのRU)として表されます。分子量情報の無いサンプル、または分子量が0に設定されているサンプルは、補正されたプロットから除外されます。

Capture/ligand adjustment

Capture/ligand adjustmentは、キャプチャー法による測定を行った場合に実行が可能です。アナライトのレスポンスをキャプチャーされたリガンドのレベルで割ることにより、サイクルごとのリガンドキャプチャーレベルの変動を補正します。

Biacore™ Insight Evaluation SoftwareによるBinding Level Screening画面

詳細としては、[Analyte bindingのRelative response]を[Capture levelのRelative response]で割った値です。[Capture levelのRelative response]はReport Pointには表れない数値ですが、レポートポイントの編集を行わない限り、[Analyte BaselineのRelative response]に一致します。

※ Biacore™ Insight Evaluation Softwareでは、割った後の値に1000を掛けています。

Adjustment for controls

Adjustment for controlsは、測定全体を通して一定の間隔でコントロールサンプルを測定することで、各サンプルのレスポンスは、ネガティブおよびポジティブコントロールのレスポンスと比較した相対値とします。

これにより、リガンドが持つbinding capacityのドリフトが補正されます。 Adjustment for controlsにはポジティブコントロールが必須です。 ネガティブコントロールが指定されていない場合、0RUをネガティブコントロールレベルとします。(T200、S200のEvaluation Softwareでは数値指定が可能)。 補正されたレスポンスは、0~100%のスケールでプロットされます。

※ 複数のRUNデータを含む解析セッションの場合、Adjustment for controlsは各RUNデータに個別のコントロールが適用されます。 すべてのRUNデータで同じコントロール化合物が使用されている場合、調整にはRUNデータ間のレスポンスレベルを補正する効果もあります。

詳細は以下の通りです。

  • 補正曲線は、LinearまたはPolynomialから選択ができ、ポジティブおよび(使用されている場合)ネガティブコントロールのレスポンスにフィッティングされます。
  • 補正曲線は、ポジティブコントロールの値が100、ネガティブコントロールの値が0の直線の水平線に変換されます。
  • 各サイクルのレスポンスが補正曲線にしたがって、0~100%のスケールで補正されます。

※下図は極端な例ですが、コントロールが4点未満の場合は、補正曲線にPolynomialを選択するとプロットから大きく外れる場合があり、正確なドリフトを反映しない場合があるのでご注意ください。

Median Fitting:Biacore™ T200/S200 Evaluation Softwareのみ

Median Fittingも、Adjustment for controlsと同様、複数サイクルに渡るドリフトを補正します。ドリフト補正はAdjustment for controlsを用いる場合が多いですが、レスポンスの上限と下限、および、10サイクル毎などのウインドウを設定し、各ウインドウにおける中央値を基準にデータの補正を行います。

Column Calculator:Biacore™ Insight Evaluation Softwareのみ

Capture/ligand adjustmentは、binding レスポンスをCaptureレベルで割ることで、レスポンスの補正ができることを紹介しました。同様に、レポートポイントデータをベースに計算を行って、任意の測定値を作成することができます。

  • Table右上のTable Settingアイコン をクリックしColumnsタブをクリックするとTableに表示したい数値(=Column Calculatorで使用したい数値)が選択できます。
  • Column Calculatorをクリックします。
  • 例えばStability earlyとbinding lateの比を算出したい場合、Columnsから値をクリックしし、キーパッドから[ / ]をクリックすることで、Formulaに測定値の式(G/C)が入力されます。
  • Column nameをつけてCreate columnをクリックすると、新たな値がTableに表示され、その値でプロットを作成することも可能となります。

各種、Adjustment機能をご理解いただき、適切に補正されたデータで正確なスクリーニングを実施してください。

オリジナルのbinding Levelによるプロットデータ。(黄)サンプル(緑)Positive Control(赤)Negative Control

Blank subtraction、Molecular weight adjustment、Adjustment for controlsを実行したbinding Levelによるプロットデータ。(黄)サンプル(緑)Positive Control(赤)Negative Control