はじめに

Biacore™ 1 seriesやBiacore™ 8 seriesを品質管理目的で使用したい!と考えた時、何を準備しなければならないのでしょうか?

装置本体、それに直結するPCがあれば十分でしょうか?いいえ、それだけでは不十分です。

セキュリティ上のリスクから、Network databaseの運用を強くお勧めいたします。今回は馴染みのない概念のSQL ServerとDatabaseについて解説していきます。

本記事をご覧いただく事で、以下について学んでいただけます。

  • なぜSQL Server™が必要なのか、そもそもSQL Server™とは何か
  • Biacore™ Insight Softwareを利用して得られたデータがどこに溜め込まれるのか

SQL Server™?Database?

なぜそんな概念が出てきたか

これまで基本的にはBiacore™本体とそれに直結するPCの2つだけあれば完結するスタンドアローンの世界でした(Figure 1)。

Dual injection

Figure 1:スタンドアローンの世界

しかし得られたデータの承認プロセスを進めたいときはイチイチ承認者がPCの前に行かなければならなかったり、監査の時に必要なファイルをパッと検索するのが面倒でした。そこで共有化と検索性を向上させることを目的として、得られたデータの保存方法をdatabaseの形として運用することになりました。

ここで言うdatabaseはExcelのような表の形式でデータを管理するリレーショナルデータベースのことを指しています。Biacore™ Insight Software(以降Insightと略します)はMicrosoft™が開発、リリースしているSQL Server™というデータベース製品を利用して各種データの保管運用を行っています。SQL Server™は不定期にアップデートされており、2023年6月現在の最新バージョンは「SQL Server™ 2022」です。

専門の方に言うと怒られてしまいそうですけど、生化学が専門の我々にとっては、databaseとはBiacore™で得られたデータを格納するための色々な仕切りの付いた箱で、SQL Server™はBiacore™で得られたデータを自動でタグ付けして箱の仕切りの適切な場所に保管してくれるシステムそのものを指している、くらいの感覚で良いのではないでしょうか。

SQL Server™の種類とLocal database

さてMicrosoft™がリリースしているSQL Server™は7つくらいのエディションがあるのですが、そのうち3つのエディションでInsightがワークします(Table 1)。

Expressは無償版であり、Biacore™本体と直結するPCにプリインストールして納品されます。ExpressのdatabaseのことをLocal databaseと呼んでいます。弊社の技術サービスが行うメンテナンスのデータなどを、このLocal databaseに格納するわけです。

Table 1:Insightが動作するSQL Server™ editions

Enterprise Standard Express
Maximum database size 524 PB 524 PB 10 GB
Computing capacity OS maximum 4 sockets or 24 cores 1 sockets or 4 cores
Maximum memory OS maximum 128 GB 1 GB
Database mirroring Yes Yes No
Smart encrypted backups Yes Yes No
Auditing (tracking and logging events handled by the Database Engine) Yes Yes No
Built-in backup scheduler Yes Yes No
Available free of charge No No Yes

基本的にExpressのLocal databaseにはデータを溜め込まない方が良い

GxP extensionを利用する場合はほぼ半強制的に、またGxP extensionを利用していない場合であったとしても基本的に、Local databaseにデータを保存しない方が良いです。その理由として、保存容量の上限、セキュリティの問題、の2点が挙げられます。

保存容量の上限とは、Table 1からも分かりますように、Expressのdatabase sizeは10 GB分までしかないということです。Methodにもよって相当バラつきはありますが、いわゆる測定データ、すなわちRun file(.BIDrun)は20 MB程度の大きさであり、解析後データ、すなわちEvaluation file(.BIDeval)も同じくらいの大きさと仮定すると、200-300測定分くらいが保存できる限界ということになります(現実には試し運転的な簡単な測定データもあるでしょうし、全ての測定データを解析しないでしょうし、逆に解析も1回だけとは限りませんから必ずしもこうなるわけではありませんが…)。

保存容量の上限に達してしまった場合はRun fileとEvaluation fileをどこかにエクスポートして、一度Local databaseの中身を空にして、再度データを取得する…ということになります。しかもエクスポートされたデータを再度見たくなった場合はまたLocal databaseにインポートし直す作業があるわけで、これは現実的ではありません。考えただけでもData integrityも失われてしまいそうですし、紛失や複製などのセキュリティ上のリスクがありそうです。

したがって現在無償版のLocal databaseをご利用の方は、GxP extensionの有無にかかわらず、早目に次の章でご案内するNetwork databaseのご利用をご検討いただくことをお勧めいたします。

ネットワークの構築とNetwork database

Table 1に示すように、EnterpriseやStandardでしたら容量の制限は事実上気にしなくて良くなります。これらのSQL Server™ editionは有償となり、弊社からは販売しておりません。また弊社がサポートする範囲はExpressのLocal databaseまでとなります。

EnterpriseやStandardのeditionのdatabaseはFigure 2に示すようにネットワークを構築することが可能なため、network databaseと呼ばれます。

Dual injection

Figure 2:EnterpriseやStandardを用いたネットワークの構築

この場合、全てのRun fileやEvaluation fileは中央のSQL Server™に一元管理されることになります。Figure 2に示すように複数台のBiacore™を所有する場合にも対応します。因みにこの図におけるC3やC4のコンピュータにはそれぞれExpressがインストールされており、それぞれがLocal databaseを所有しています。C5~C7などはLocal databaseを持たず、中央のSQL Serverにあるデータを参照・解析します。

セントラルのSQL Server™の用意

前述の通り、SQL Server™は「システム」を指しますので、以下に示す仕様が実現できる状態であればどのようにご用意いただいても構いません。代表的には以下の3 通りの方法がありますが、これに限定されるものではありませんし、またこれは弊社からサポートすることができません。自社のIT部門の方にご相談いただくか、自社が懇意にしているITベンダー様に構築を外注していただければと思います。もしそうしたITベンダー様がいらっしゃらない場合は弊社までご相談いただけるとご紹介可能です。

  • 既にご利用の社内サーバーにSQL Server™を同居させる
  • クラウド上にSQL Server™を構築する
  • SQL Server™専用の外付け物理サーバを用意してそこにインストールする

要求仕様

  • SQL Server™ EnterpriseあるいはStandard, 2017 or 2019

まとめ

GxP extensionのお話というよりは、SQL Server™とdatabaseのお話になりましたが今回はここまでです。本記事では、

  • なぜSQL Server™が必要なのか、そもそもSQL Server™とは何か
  • Biacore™ Insight Softwareを利用して得られたデータがどこに溜め込まれるのか
    • 共有化と検索性を向上させることを目的として、DatabaseにRun fileやEvaluation fileを溜め込むのにdatabaseが必要だったから、そのシステムであるSQL Server™が必要になった。
    • SQL Server™は色々なエディションがあるが、Express(無償版)は装置に直結したPCにプリインストールされており、その中のLocal databaseは容量の制限もあるので基本的にはCytivaがメンテナンスのデータを入れるための箱として使う。
    • EnterpriseやStandardは有償であるが、ネットワーク構築が可能になるし、保存容量の制限も気にしなくて良くなる。特にGxP extensionを運用する上ではnetwork databaseを強く推奨する。

について解説いたしました。