kakdの及ぼす意味

Biacore™ は結合の強さを示すKDだけでなくkakdも求めることができるのが、特徴です。物理的評価としてすべての検体についてそれらの数値を取得しておくこと自体にも意味がありますが、それらの数値が生体内でどのような意味付けを持つのかという議論は古くからされており、実際に創薬や基礎研究で利用されています。例えば古くは当時GSK (グラクソスミスクライン)の方が提唱された医薬品標的に対するレジテンスタイムをリード最適化に利用するという現在にも通ずるコンセプトが発表されています。
(Robert A. Copeland et. al., Nature Reviews Drug Discovery volume 5, pages730–739 (2006))

また下記のPhilipps-University of Marburgの2つの論文では、kd値と結合ポケット内のアミノ酸や水和の状況の関連性を明らかにしています。
Cramer, J. et al. ACS Chem. Biol. 12 (1), 225–233(2017)
Krimmer, S. G. et al. J. Med.Chem. 9, 833–846 (2016)

さらには、初めてBiacore実験ノートで原稿化いただきました2022年の生化学会の東京大学医科学研究所 長門石 曉先生のセミナー「KD学のススメ」でもOn-Off rate chartを用いてkakdの利用について解説いただきました。

On-off rate chartを使うと

KD=kd/kaですので、KDだけでは1 次元での数値評価であったのが2 次元に展開して表現できるのがOn-off rate chartです。図1(左)で、KD値だけで評価するとほぼ同一の場所にプロットされる3つのサンプルが、On-off rate chartで表現すると、全く異なる位置にプロットされることが分かります。

図1:On-off rate chart

さらに、先ほどのPhilipps-University of Marburgの論文の例だと、図2 のように化合物をその置換基の特徴に応じて3つのサブグループに分けたときにa群(青)が解離速度が遅いことが分かり、ここから標的タンパク質ポケット内とのAsp112との結合との関連性を見つけることができました。

図2

もし同一標的分子に対する多検体の評価をされていたら、このように一度On-Off rate chartをつかっていただくと、ご自身あるいは周囲の方にも一目で速度論的相互作用特性の傾向がつかむことができ、そこから何らかの意味付けの発見や理解につながるかもしれません。