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バイオダイレクトメール vol.53 細胞夜話
<第16回:遺伝子導入法小史>

残念でした

正解は「リポフェクション法」でした。

おめでとうございます

正解です。選択肢に挙げられた手法の中でもっとも新しいのは「リポフェクション法」です。


さまざまな遺伝子導入手法の出現時期は、、、

適切な環境下では、真核細胞は外来のDNAを取込むことができ、その一部は核に移行します。遺伝子を一時的に発現させたり、遺伝子を安定して発現する細胞株を構築するために、この現象が利用されました。しかし、DNAのサイズや電荷、あるいは細胞に備わっている酵素や膜といった防御機構により、DNAの自然な取込みは大変効率の悪いものでした。そのため、取込み効率を改善するためにさまざまな手法が考案されました。

DEAE-dextran法

1965年にVaheriとPaganoがポリオウイルスのRNAをアカゲザルの細胞に導入するために使用したのが最初の例です。続いて、1968年に、McCutchanとPaganoがSV40のDNAをアフリカミドリザルの細胞に導入するために使用しました。

こうして、ポリオウイルスやSV40で細胞の形質転換を行った研究がいくつも報告され、DEAE-dextranを用いた方法は標準的な形質転換法としての地位を確立したかに思われました。

リン酸カルシウム法

アデノウイルスによるヒト細胞の形質転換を研究テーマとしたグラハムが、KB細胞とアデノウイルスを材料にし、それまでの先例に倣ってDEAE-dextran法による形質転換を試みました。しかし、サイズの小さな環状のDNAならばともかく、直鎖状の巨大なDNAの導入にはDEAE-dextran法は適しておらず、形質転換には成功しませんでした。DEAE-dextran法をあきらめて試行錯誤した末に、カルシウムイオンとリン酸が有効であることがわかり、今日も標準的な形質転換法として広く使われているリン酸カルシウム法が確立されました。

詳細→細胞夜話第12回:リン酸カルシウム法とHEK 293細胞

マイクロインジェクション法

マイクロインジェクション法を用いて細胞を形質転換する最初の実験は1970年にダイアクマコスによって報告されています。この実験では、HeLa細胞の一種にヒト胎児肺の細胞の染色体を移植しました。その後、アンダーソン等がマイクロインジェクションを利用して1コピーの遺伝子を標的細胞の核に移植する実験を行い、その結果を1980年に報告しました。

マイクロインジェクションには狙った細胞に入れられる、顕微鏡で観察しながら物理的に入れてしまうのでほぼ確実に導入できる、といった利点はあるものの、設備を整えねばならないこと、手作業であるためハイスループットかに向かないこと、コンスタントに良好な結果を得るには作業者の熟練を要することなど独特の事情から、形質転換に日常的に使われる方法とはなり得ていません。

プロトプラスト融合法

プロトプラスト融合法は、DNAがある生物から別の生物へ受け渡される現象を利用した方法で、目的のプラスミドをもつ細菌のプロトプラストを、導入したい細胞のプロトプラストに直接混合します。1980年にシャフナーが大腸菌とサルの細胞を使って、SV40の遺伝子を組込んだプラスミドを受け渡す実験を行いました。

今日の分子生物学の実験で頻繁に使われる手法ではありませんが、雑種細胞の生成や有用遺伝子の導入による育種などには現在でも使われています。

ウイルスベクター法

1979年にマリガン等が、ウサギのグロビン遺伝子のcDNAをSV40に挿入し、それを使ってサルの細胞でウサギのグロビン遺伝子を発現させました。また、同じく1979年にハマーとレーダーもウイルスベクターを用いた実験を報告しています。マウスのグロビン遺伝子をSV40にクローニングし、それをサルの細胞に導入することで、サルの細胞でマウスのグロビン遺伝子を発現させました。

1980年代中頃には、宿主のDNAに外来遺伝子を組込むことができるレトロウイルスを用いたシャトルベクター系が開発され、その後も各種ウイルスの特性を活かした系が確立されています。ウイルスベクターを用いた遺伝子導入法は、遺伝子治療のツールとして期待されており、今日でも改良が続けられています。

エレクトロポレーション法

適切な電気的刺激によって細胞の機能を損なうことなく一時的に細胞膜の透過性を向上させられることにヒントを得て開発され、ノイマン等が1982年に報告した方法です。さまざまな細胞に導入できることから、siRNAの導入などでも広く使われています。

リポフェクション法

細胞毒性、再現性、使いやすさ、導入効率のすべてを満たす導入法を目指してフェルグナー等が開発した手法です。陽イオン性の脂質にリポソームを形成させ、そのリポソームがDNAと相互作用して複合体をつくります。複合体が細胞に取込まれることによって、DNAが細胞導入されます。リポフェクション法の最初の論文は、今回紹介する手法の中ではもっとも新しく1987年に発表されました。

ただし、フラリー等がリポソームで包み込んだSV40 DNAを使って細胞を形質転換する研究を1980年に発表しており、今日広く使われているリポフェクション法だけでなくリポソームを使った遺伝子導入法という観点で見た場合には、エレクトロポレーション法よりわずかにさかのぼることになります(リポフェクション法の最初の論文を発表したフェルグナー等は、リポソームで包み込む方法を「Liposome Fusion」と称してリポフェクション法とは別物としてはいます)。

近年RNAi研究が盛んになり、リポフェクション法はsiRNAを導入する標準的方法として、それまで以上に頻繁に用いられる手法になりました。よりよいノックダウン効果を得られるように改良されたリポフェクション試薬が、いくつも市販されています。


in vivoで機能性RNAを使う研究が盛んになり、多種多様な導入法が検討され、その効果に関する論文が次々に発表されています。さて、10年後に主要な遺伝子導入法とされているのは、いったいどのような手法なのでしょうか。

参考文献

  1. Vaheri A. and Pagano J. S., Infectious Poliovirus RNA: a sensitive method of assay., Virology, 27, 434-436, 1965
  2. McCutchan J. H. and Pagano J. S., Enhancement of the infectivity of simian virus 40 deoxyribonucleic acid with Diethylaminoethyl-Dextran. Journal of the National Cancer Institute, Vol. 41, No. 2, 351-357, 1968
  3. Diacumakos E. G., Holland S. and Pecora P., A microsurgical methodology for human cells in vitro: evolution and applications. Proc. Natl. Acad. Sci. USA, Vol. 65, No. 4, 911-918, 1970
  4. Anderson W. F., Killos L., Sanders-Haigh L., Kretschmer P. J. and Diacumakos E. G., Replication and expression of thymidine kinase and human globin genes microinjected into mouse fibroblasts. Proc. Natl. Acad. Sci. USA, Vol. 77, No. 9, 5399-5403, 1980
  5. Schaffner W., Direct transfer of cloned genes from bacteria to mammalian cells. Proc. Natl. Acad. Sci. USA, Vol. 77, No. 4, 2163-2167, 1980
  6. Fraley R., Subramani S., Berg P. and Papahadjopoulos D., Introduction of liposome-encapsulated SV40 DNA into cells. The Journal of Biological Chemistry, Vol. 255, No. 21, 10431-10435, 1980
  7. Neumann E., Schaefer-Ridder M., Wang Y. and Hofschneider P. H., Gene transfer into mouse lyoma cells by electroporation in high electric fields. The EMBO Journal Vol. 1, No. 7, 841-845, 1982
  8. Cepko C. L., Roberts B. E. and Mulligan R. C., Construction and application of highly transmissible murine retrovirus shuttle vector., Cell, Vol. 37, 1053-1062, 1984
  9. Felgner P. L., Gadek T. R., Holm M., Roman R., Chan H. W., Wenz M., Northrop J. P., Ringold G. M. and Danielsen M., Lipofection: a highly efficient, lipid-mediated DNA-transfection procedure. Proc. Natl. Acad. Sci. USA, Vol. 84, 7413-7417, 1987

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