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生化夜話 第31回:主語と目的語が逆でした - protein A

外して、くっつけて・・・

Staphylococcus aureus(黄色ブドウ球菌、以下S. aureus)は、多くの人の皮膚や鼻腔に住み着いている常在細菌のくせに、ひどい場合には命に関わる感染症を引き起こす厄介者です。スコットランド人医師による発見から50年余が経過した1930年代、S. aureusの株を化学的に分類することを目的とした研究が行われました。この研究では抽出した糖をもとに分類を行いました。しかし、抽出した糖には抗原性がなく、免疫学的な手法と結びつけるのは困難でした。そこで、ニューヨーク大学のヴァーウィーはもっとおだやかな条件で、タンパク質の抽出を試みました。タンパク質を含むいくつかの画分が得られ、このうちの1つはprotein Aを含んでおり(もちろん当時はprotein Aなどという名前はありません)、この1940年の研究がProtein A抽出の最初の例となりました。

S. aureusの細胞表面”抗原”の研究が本格的に行われるようになるのは、1950年代末でした。コペンハーゲンの大学院生イェンセンが、S. aureusの抗原を研究し、その結果を1959年の学位論文にまとめました。この論文が、後に続くS. aureusの抗原研究の出発点になりました。イェンセンは、分離した抗原をantigen Aと命名しました。なお、イェンセン自身は、antigen Aはタンパク質ではなく多糖だと思っていたようです。この時の研究で、antigen Aが免疫していないヒトの血清でも沈殿することが観察されていますが、S. aureusは昔から接触する頻度が高い病原菌なので自然抗体(感染する前から体内に用意されている抗体)をもっているのだろうとイェンセンは解釈しています。異物を認識した抗体"が"抗原"を"認識して結合するという抗原抗体反応の"常識"に基づいて考えるなら、イェンセンの自然抗体という考えも合理的なように思えます。

イェンセンのantigen Aはさまざまな成分の混合物だったので、ルンド大学のレーフクヴィストとシェークイストが、その分離に取り組みました。Sephadex™でゲルろ過を行い、さらに電気泳動で分離しました。その画分の1つがヒト血清で沈殿したので、これがイェンセンのantigen Aだろうと推測しました。また、この画分をトリプシン処理すると沈殿を生じなくなることから、イェンセンが多糖だと思っていたantigen Aはタンパク質ではないかとの結論に達しました。この結果を1963年に報告した後、レーフクヴィストはさらに生物学的・血清学的手法で、このタンパク質の抗原性を確かめる研究を行いました。1966年に、これがantigen Aの主要な抗原であることを示し、イェンセンの自然抗体があるという説を支持しています。

レーフクヴィストたちとほぼ同時期の1964年、ベルゲン大学のグローヴたちもantigen Aの精製に取り組んだ結果を報告しました。彼らの研究でも、antigen Aはタンパク質であることが確認され、それは1940年にヴァーウィーが抽出したタンパク質画分の1つであることもわかりました。グローヴたちは、antigen Aに含まれているタンパク質なのでprotein Aと呼ぶことを提案しました。こうして、このタンパク質に名前が与えられ、定着していったのでした。

今日の常識は明日の・・・

ここまで、抗体"が"抗原"を"認識して結合するという抗原抗体反応の"常識"に則った研究結果が報告されてきましたが、そうした結果に疑問を抱く研究者がいました。

もちろん、protein AがImmunoglobulin G(免疫グロブリンG 、以下IgG)と結合するという事実には間違いはありませんが、その結合様式は調べられていなかったのです(少なくとも筆者が論文を読んだ範囲では)。そこで、ウメオ大学のフォースグレンとシェークイスト(ルンド大学からウメオ大学に移っていたようです)は、protein AとIgGがどのように結合するのか調べました。すると、IgGとprotein Aの結合は特異的ではないことがわかりました。IgGをパパインで分解した産物を用いて、protein Aと結合するのはどの部分なのか調べてみると、抗原を認識する部位を含むFabではなく、抗原の認識とは関係ないはずのFcとprotein Aが結合していることも示されました。

さらに、彼らの実験ではヒトのIgGのうち45%がprotein Aと結合したことから、S. aureusのprotein Aを認識する自然抗体だけがこれほど大量に存在するとは考えにくいとして、今まで研究されてきたprotein AとIgGの結合は、本物の抗原抗体反応ではないと結論づけました。

生体分子の相互作用は、結合様式を考慮せずに結合の量だけ見ていると、このように事実とはまったく異なる解釈をするおそれがあるので要注意です。

さて、フォースグレンとシェークイストの報告を皮切りに、protein A"が"抗体"に"結合するという観点での研究が行われ、その性質の理解が進みました。

protein Aがきわめて高い効率でIgGと結合することがわかると、それを活用できないかと、考える研究者も当然出てきました。ハロゲン化シアン (CNBr)を用いたリガンドとSepharose™のカップリングは1960年代半頃には確立されており、それを応用したアフィニティークロマトグラフィーも、1968年に発表されていました。したがって、リガンドとしてprotein Aを使えば、簡単に抗体を精製できる、そうしたアイディアが形になるのに長い時間はかかりませんでした。

ウプサラ大学のイェルムとシェークイスト(今度はウメオからウプサラに移ったようです)は、Sepharose™ 4Bとprotein Aを、アクセンとポラートが開発した通りにCNBrでカップリングし、世界で最初のprotein A-Sepharose™担体を製作しました。ちなみに、この研究は、まずIgG-Sepharose™を自作し、それを用いてprotein Aを精製、そのprotein Aで今度はprotein A-Sepharose™をつくり、IgGを精製するという、ニワトリと卵の話を思わせる流れでした。後に、protein A-Sepharose™はファルマシアが製品化し、1970年代の終わりごろに書かれたレビュー記事によると、その頃にはIgG精製の定番になっていたそうです。

もっと好き嫌いなく - protein G

protein AはIgGの精製に幅広く使われましたが、その内にprotein Aの限界もまた明らかになってきました。IgGなら何でも結合するわけではなく、生物種やIgGのサブクラスによっては結合しません。例えばヒトのIgG3、ヤギやラットのIgGをprotein A-Sepharose™で精製するのは困難でした。

しかし、幸いなことにレンサ球菌(Streptococcus)の細胞表面タンパク質もprotein A同様に抗体に結合することが1970年代に発見されており、その中でもG群レンサ球菌のタンパク質はprotein Aよりも幅広い抗体に結合することがわかりました。このタンパク質はG群レンサ球菌にちなんでprotein Gと命名され、protein A同様に抗体のアフィニティークロマトグラフィーでよく用いられるようになりました。

なお、今日ではprotein A-Sepharose™、protein G-Sepharose™ともども、自然落下精製用プレパックカラムや磁気ビーズタイプも市販され、さらに簡単に使えるようになっています。

参考文献

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  • Björck L. and Kronvall G., Purification and some properties of Streptococcal protein G, a novel IgG-binding reagent, vol. 133, no. 2, 969-974 (1984)

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