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生化夜話 第40回:ECL™試薬プラス画像解析装置への長い道・・・CCD画像解析装置(2)前回はCCDの誕生から富士写真フイルム株式会社(現富士フイルム株式会社。以下、富士フイルム)におけるCCDの選定までのお話をご紹介しました。今回はそのCCDを用いて研究者にとって便利な画像解析装置をいかにつくったのかをご紹介します。 その当時、化学発光の試薬はいくつかありました。富士フイルムのエンジニアたちがCCDでの化学発光の検出に取り組む直接のきっかけになったのは、その中でもECL™でしたが、アルカリホスファターゼ化学発光の光の方が強く安定していたため、装置の開発はCDP-Star™をモデル試薬として進められました。 BASの開発の際に実験は社外の協力を仰いだのと同様に、今回も社外の研究者の協力を得ることができました。学会でたまたま某化学メーカーの研究者と知り合いになり、この件のアドバイザーになってもらうことができたのです。 Non-RIミニプロジェクトというグループを結成し、アドバイザーの助言を受けつつ試作した実験機を用いて、某化学メーカーの研究所からもらったサンプルの検出を試みました。その結果は、ノイズは多いものの、うっすらとサザンブロッティングのバンドが見えました。ノイズは何とかできるとの見込みのもと、開発に正式なGoサインが出ました。 こうして、とりあえず検出には成功し、開発を進めることになったものの、実はここからが一苦労でした。 ノイズ源のモグラたたき前回触れたアマシャムの研究者によるCCDの検討にあるように、弱い光を検出する際のノイズの大きな発生源は熱による暗電流です。このノイズはCCDの冷却温度を下げることで抑えることができました。しかし、熱に起因するノイズを抑えてみると、今まで目立たなかったノイズが見えるようになってしまいました。画像に現れたノイズから高速フーリエ変換でノイズの波長を調べて原因を特定したり、回路の問題で生じる信号の波打ちを回路を変更して抑えたりするなどの対策をとりました。 また、冷却の改善によって露出時間を長くとれるようになりましたが、そうするとそれまで気付いていなかった遮光漏れや内部の思わぬパーツからの光を拾っていることがわかり、これまた1つずつ丁寧に対策を施してゆきました。 また、その当時は青色LEDが市場に出回りはじめた時期で、この装置はもっとも早い時期に青色LEDを光源として採用した例になりましたが、それだけに予想外の苦労もありました。青色LEDのスペクトルを調べると赤外光が混じっていることが見つかり、フィルターに赤外光をカットするコーティングを追加したり、青色LEDが白色LEDの蛍光体を励起してしまうことがわかって、白色光の光源を白色LEDからRGBのカクテル灯に変更したりしました。 こうして、ある問題に対策をしてはまた現れる新たな問題を一つずつ解決し、やがてサザンブロッティングの画像はX線フィルムの画像と並べても見劣りしないようになりました。このあたりの徹底的なつくりこみは、CCDとレンズの設計から製造まですべて社内で完結している総合メーカーの強みでしょうか。この画像解析装置は1997年9月に"L"uminescent Image "A"nalyzer "S"ystem、LAS-1000として発売されました。 さらに、当初のLASの仕様には主な利用者である生化学研究者の使い方に合わない部分もありました。初期型は完全なマニュアル機で、ピント合わせは研究者が自分でレンズのリングを操作して行いました。操作画面は汎用性を重視して設計したため、確かにさまざまなパラメーターを非常に細かく設定できるものになったのですが、実際にはブロッティングの画像をデジタル化するために毎回細かく設定を変える研究者はあまりいませんでした。また、顕微鏡用のカメラとしても使えるようにカメラとコントロールボックスだけでも機能するようにしてありましたが、こうした使い方をする研究者もあまりいませんでした。 そんな事情から発売後半年で設計変更することになりました。蛍光・化学発光検出専用機になり、操作画面は単純化し、ボックスの中にトレーの位置検出とレンズのリングを動かすベルト付きリールとモーターを仕込むことでピント合わせも自動化しました。(残る手動部分はフィルターの切り換えですが、ここはほかの変更よりも大がかりになるため、この時点では見送られました。) この改善を施したLASは使いやすいものになり、生化学の研究者に受け入れられてゆきました。この経験から、高感度で検出できるだけでは研究用のツールとしては不十分で、使い勝手をよくしなければならないことが認識されました。 もっと簡単におとぎ話であればここで、めでたしめでたし、となるところですが、どんどん新しいものが出てくるこの業界ですので、立ち止まるわけにはいきません。LAS-1000での教訓を活かし、さらに高感度で使いやすい新機種を目指して新型機の開発が進められました。 新型機のCCDもLAS-1000と同様にミニラボのCCDで、今度はハニカムCCDでした。ハニカムCCDは受光部を八角形にして千鳥状に並べたCCDで、従来の正方格子状のCCDよりもデッドスペースが減り、CCDの単位面積あたりの受光部の割合を大きくすることができます。これにより化学発光の検出に重要なCCDの感度を高めることができました。 また、LAS-1000では見送られたフィルターの切り換えに加えて、トレーの上げ下げも自動化されました。レンズも大きくなったCCDに合わせて新規設計し、最初から焦点合わせや絞り操作が自動でできるようにモーター化しました。 こうして2002年9月、LAS-3000が発売されました。 なお、アイディアとしては解析用コンピューターと検出装置本体を一体化しようという話もありましたが、コンピューターは高価な上に性能の向上も速いので、この時点では一体化は見送られ、従来通り解析用コンピューターと検出装置本体は分離型になりました。 幻の2000ところで、LAS-1000シリーズの後、LAS-3000シリーズに移行していますが、番号を素直に並べるならば2000があってしかるべきではないでしょうか。 発売されていればLAS-2000と命名されるはずの新機種は、実際に検討されていました。LAS -1000は顕微鏡にもセットできるところが特長の1つでしたが、新機種は冷却部を簡素化して小型・軽量化し、顕微鏡と組み合せる際の使い勝手を追求しました。FISH法や、GFPをはじめとする発光タンパク質の検出を想定して開発計画を練っていましたが、社内の別の部門のカラーCCDカメラで顕微鏡にも使えるものがありました。さらに、LAS-3000で使うことになる新型CCDの開発がはじまっており、LAS-1000シリーズの進化形となる機種の開発に力を注いだ方が研究者に喜ばれるだろうということで、顕微鏡用LASシステムの開発は中止されました。 そしてカラーへその後もLASシリーズは発展を続け、小型化したLAS-3000miniや励起光源の波長を増やしたLAS-3000 multi color、ハイスループット化を目指したLAS-4000シリーズが登場しました。 こうした新機種は地道な改善の結果生まれてきましたが、2012年にちょっと毛色の変わった新型機Image Quant LAS 500(以下LAS 500)が登場しました。ゲルサイズを1つに固定した割り切った設計により、小型化と低価格化を実現しましたが、技術的におもしろいのはマーカーのカラー撮影でしょうか。最後にこのカラー撮影に触れておきたいと思います。 カラー撮影というアイディアそのものは、実はLAS-1000の時代にすでにありました。LAS-1000用CCDの感度を試すために、CCDを夜空に向けて馬頭星雲やアンドロメダを撮影したのですが、その際に三原色のフィルターを入れてカラー撮影をしています。 また、LAS-3000にはカラー撮影可能なRGBカクテルの白色LED光源が組み込まれており、回路設計を変えればカラー撮影可能なことがわかっていました。しかし、この時期になってようやくレインボーマーカーが登場したばかりで、あまり要望がなかったため、カラー撮影機能の搭載は見送られました。 やがて多色マーカーの使用も一般的になり、多彩な機能をもつこれまでのLASシリーズとは少々コンセプトの異なるLAS 500の開発に合わせて、カラー撮影機能が搭載されました。 ちなみに、LAS 500のカラー画像は見たままの色を再現しているのではありません。レインボーマーカーのそのままのカラー写真を撮ると若干黄色の発色が弱いため、黄色の発色を調節しています。そのため、LAS 500でカラー撮影したマーカーは肉眼で見るよりも鮮やかな色になっています。 一発必中の美学戦国時代の関東の覇者北条氏の四代目となる北条氏政が、汁かけご飯を食べる際に一度では汁が足りずかけ足したのを見て、父親である氏康が我が子は汁の量も測れないのかと嘆いた話が伝わっています。これは後世の創作らしいのですが、調度よい量を一回で決めるのと、何度も調節するのでは、やはり前者の方がスマートな印象を与えるのではないでしょうか。 汁かけご飯なら、単に印象の違いだけで実害はなさそうですが、足し算することで困る場合もあります。 LASシリーズにはインクリメントという機能が搭載されていました。撮影を繰り返して、その画像を足し算してゆくことで、複数の露出時間で撮影した画像になるように仮想的に合成する技術です。こうすると、試料が微量で通常の設定では露出不足になる場合でも、いつかは適切な露出になる画像が得られます。 目的のバンドを撮影するという点では便利な機能なのですが、その原理上避けられない問題もあります。 画像データを足してゆきますので、試料由来のノイズがあった場合、インクリメントの回数が増えるほど、同じノイズが加算されることになりますので、場合によってはノイズが目立つことになります。また、宇宙線や暗電流ノイズなどのノイズは、ランダムに生じますので、インクリメントの数を増やすと、どうしても全体に薄くノイズが乗ることになってしまいます。 もちろん、富士フイルムの技術者は相応の画像データが得られるようにインクリメント機能を調整はしたのですが、原理上は適切な露出時間での1回の撮影の方が、データにノイズが入りにくくS/N比の高いデータが得られることはわかっていましたので、それが心に引っ掛かっていました。 しかし、「適切な露出での1回」を実現するのであれば、画像解析を簡単にできるものにするというLASシリーズの趣旨から考えると研究者の手を煩わせることがないよう自動化したい、という思いもありました。 そうした経緯から、2011年当時のシリーズ最新機種LAS-4000にも自動露出(Auto Exposure)機能は搭載されていました。しかし、自動露出で撮影した場合には期待していたものよりも薄い画像になることがあるという情報が研究者から寄せられていました。2011年の梅雨の時期、LAS 500の開発は佳境にはいっており、LAS-4000のアルゴリズムを改善して失敗しにくい自動露出機能をLAS 500で実現しようと、開発チームで目標を定めたのでした。 その決定に基づきLAS-4000のアルゴリズム改良に取り組みましたが、LAS-4000は多種多様な撮影が可能な多機能な装置であり、それに搭載されているアルゴリズムも、さまざまな試薬やサンプルに対応したアルゴリズムになっていました。一方、LAS 500は「化学発光検出を誰でも、簡単に、失敗なく」というLASシリーズの原点に回帰した装置になっており性格が異なっていました。 そもそものところが異なるシステムのアルゴリズムを移植して、ECL™シリーズのベストショットを1回で撮れるよう最適化する作業は難航しました。試行錯誤のうちに夏が過ぎ、秋の訪れが近づいてきた頃には、LAS 500の開発が大詰めを迎えていました。なんとか新製品にふさわしい高い完成度に仕上げたいという思いから、もう一度仕切り直して画像処理の専門家も交えて議論した結果、自動露出アルゴリズム改良計画を大幅に変更して、LAS-4000用をベースとした改良品ではなく、LAS 500向けに刷新することを決断しました。 この時点でLAS 500の開発は終盤を迎えていましたが、幸い画像処理のソフトウェアに関しては富士フイルム社内にそれまでの膨大な蓄積があったため、それを活用して一気呵成にアルゴリズムを開発できました。新開発アルゴリズムは富士フイルムと当社の両方のラボで念入りに試され、そのデータを元に2011年中にチューニングまで完了し、LAS-1000発売から15年後にあたる2012年にLAS 500は世に送り出されたのでした。 参考:ECL™SelectLAS500お客さまの声:横浜市立大学 荒川 憲昭 様へのインタビュー 謝辞本稿の執筆にあたり、山口晃氏(富士フイルム株式会社ライフサイエンス事業部主任技師)、伊神盛志氏(富士フイルム株式会社ライフサイエンス事業部)、蔦森康浩氏(富士フイルム株式会社R&D統括本部主任研究員)に多大なるご協力をいただきました。この場を借りて深く感謝申し上げます。 参考文献
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