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生化夜話 第22回:イムノアッセイでイヌのアッセイ - RIAとEIA/ELISA

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イムノアッセイにもいろいろありますが、その中でも広く使われている古株となるとラジオイムノアッセイ(以下RIA)でしょうか。一定量の抗体に対して、放射性同位元素で標識した既知量の抗原と、調べたい抗原を含む試料を加え、抗体に結合していない標識抗原の量を測るという方法です(同じ抗体を奪いあうので、試料の中に抗原が多ければ多いほど、抗体に結合しない標識抗原が増えます)。

そのRIAは糖尿病の研究から偶然見つかった方法でした。

RIA

抗体なんです

糖尿病の主な原因については、これまでの多数の研究により、インスリンを分泌しているβ細胞の死滅、インスリン分泌低下、インスリン感受性低下など、はっきりしてきましたが、もちろん、これ以外の説も昔はありました。

ピッツバーグ大学のアーサー・ミルスキーは、インスリン分泌の問題ではなく、インスリン分解酵素によってインスリンが異常な速度で分解されているのが、糖尿病の原因だと主張していました。ニューヨークの退役軍人病院に勤務するロサリン・ヤローとソロモン・バーソンは、ミルスキーのインスリン分解酵素説を検証するために、糖尿病患者と健常者に131I標識したインスリンを投与し、その代謝を測定しました。

得られた結果は、糖尿病であるかどうかには関係なく、過去に(おそらく動物由来の)インスリンを投与された経験がある人は、131I-インスリンの代謝が遅くなる、というものでした。抗インスリン抗体ができていて、その抗体が131I-インスリンに結合したのが原因だと思われます。

ヤローとバーソンの結果は1956年に雑誌に掲載されましたが、読んでみると131I-インスリンと結合したタンパク質が、いかに抗体っぽいか説明するのに、かなりの文量を費やしています。

その当時の教科書によると、抗体は親から受け取った抗原が刺激になって準備されるものと定義されていたそうで、投与されたインスリンに対する抗体が新たにできるなどという「非常識」な話は受け入れられず、抗原抗体反応が代謝の遅れの原因と断定していた当初の投稿論文はリジェクトされてしまったのでした。そこで、いかに抗体っぽいか頑張って説明している割に、抗原抗体反応という結論は出さないということになっているのでした。

この1956年の論文でも、標識インスリンの結合量と全インスリン量の関係というRIAの基本原理は出ていましたが、彼らは材料と方法をさらに改良して、改めてヒト血清インスリンの免疫測定の論文を1960年に出しました。その論文が掲載されると、各地の研究者から多数の問合せがあったため、その年の秋からRIAの方法を伝授するセミナーを何回も開催しました。その甲斐あって、1960年代後半からは、RIAを活用した多数の論文が有名雑誌に掲載されるようになりました。

その後のRIA

RIAは内分泌学の発展に大きく寄与し、その功績によりヤローは1977年にノーベル生理学・医学賞を受賞しました(バーソンは1972年に死去)。ヤローのノーベル賞のレクチャーは、いくつかの雑誌に掲載されましたが、そこでヤローはわざわざ1955年に受け取った論文のリジェクトの通知を掲載しています。よほど悔しかったのでしょう。

また、RIAのさまざまな改良も行われました。改良は主に抗体に結合した標識抗原と、結合していない抗原の分離法に関連したものでした。その中の一つに、ウプサラ大学のイェルケル・ポラートと同大学病院のレイフ・ヴィデによる放射性免疫吸着法がありました。最終的にはアフィニティークロマトグラフィーへとつながってゆくクロマトグラフィー担体の活性化処理を利用して、Sephadex™に抗体を結合させ、それをRIAに用いるというもので、遠心分離だけで抗体に結合している抗原を分離できるのが便利でした。熟練したスタッフなら1日に50から100サンプル処理でき、抗体を結合させたSephadex™は長期間保存できるので、ルーチンワークに適していました。

また、当初は半減期が8.04日と短い131Iが使われていましたが、後に英国のアマシャムをはじめとするメーカーから半減期が59.6日と長い125Iが供給されるようになり、放射性標識化合物を使う実験につきものである試薬の寿命の問題も緩和されました。

ただ、それでも放射性同位元素を使う以上、放射性廃棄物が出ることや、施設の整備、比較的高価な測定装置といった問題からは逃れられず、RIAを大規模に応用できた組織は限られていましたし、今日市販されているような一般向けのイムノアッセイ診断薬のようなものにもつながりませんでした(RIAの妊娠診断キットはあまりご家庭向きではないかと)。

EIA/ELISA

蛍光色素から酵素へ

1950年代の終わり頃、組織での抗原の局在を調べるために、蛍光標識した抗体を使う方法が開発されました。しかし、標識による蛍光がサンプル由来の自家蛍光と区別しにくかったり、色素の溶解性が悪かったりと、あまり使い勝手はよくありませんでした(こうした問題を何とかするために、サイトメトリー分野ではシアニン系の色素CyDye™が開発されるわけですが、それはまたの機会に)。そこで、蛍光標識の代わりに酵素反応を使う試みが行われ、その結果が1960年代後半に報告されるようになりました。

ミシガン大学のポール・ナカネとバリー・ピアスは、抗体にコムギ胚芽由来の酸性ホスファターゼや西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)を結合させても、抗原認識や酵素活性に悪影響がないことを示しました。

また、フランスのがん研究所にいたストラティス・アヴラメアスは抗体にHRPや大腸菌のアルカリホスファターゼ(BAP)を結合させ、細胞の調製や免疫電気泳動の際の抗原の検出に使えることを示しました。感度は蛍光色素を結合させた抗体と同等以上と、アヴラメアスは評価しています。

転んでもただでは起きぬ - EIA(Enzyme Immuno Assay)

1960年代、オランダの製薬会社オルガノンは免疫化学を応用した妊娠診断薬を販売していました。その時点ではビジネスはうまくいっていたのですが、オルガノンの経営陣はまだまだ不満でした。彼らは将来を考え、ちょっと浸して色を見る、くらいに簡単なものを欲しがっていました。

そこで、研究員の1人、アントン・スールスは、発色する酵素と抗原抗体反応を組合せるアイディアを提案し、同僚のバウケ・ファン・ウェーメンと研究を始めました。こういう経緯で始まった研究なので、当然目指すところは妊娠診断です。今日でも妊娠診断に使われているヒト絨毛性ゴナドトロピン(hCG)をHRP標識し、セルロースに抗体を結合させた免疫吸着剤と反応させ、その結果を1971年に発表しました。これは、ポラートたちの放射性免疫吸着法の放射性標識を酵素に置き換えた組合せです。

その後、今日のイムノアッセイでよく使われる、酵素を抗体に結合させた方法も試しており、その結果を1974年に報告しています。標識作業のプロトコールを統一できることを利点に挙げていますが、しかし、彼らはHRP-hCGの方が使いやすいとしています。ハイブリドーマを使ってモノクローナル抗体を大量に作れるようになる前の話なので、標識作業の度にアフィニティークロマトグラフィーで抗体を集めるのが大変だったのです。

こうして1970年代前半には、実験データは出せたのですが、経営陣が望むような簡単に使える妊娠診断薬にすることはできませんでした。一本のストラップにまとめるには、試薬が複雑すぎたのです。そこで、彼らはB型肝炎のような感染症の診断用途でよく使われていたRIAの代替を目指すことに方針転換しました。ちなみに、1970年代前半の論文にはEIAという言葉は出てきません。RIAの代替を目指すと決めてからRIAと1字違いのEIAを使うようになったのかもしれません。

ファン・ウェーメンによると、ちょうどこの頃、スウェーデンにも彼らと同じことをしているグループがいたことに気がつきました。

名前から入った - ELISA(Enzyme-Linked ImmunoSorbent Assay)

1969年、ストックホルム大学のピーター・パールマンの研究室に加わった大学院生エヴァ・エングヴァールは、RIAに代わる放射性同位体を使わない定量的検出系の構築をテーマとして与えられました。

基本方針は、ポラートたちの放射性免疫吸着法の酵素版で、酵素の結合にはアヴラメアスの方法を使うことにしていました。すでに実績のある方法の組合せが奏功したのか、1970年の初めには実験に成功してしまいました。この時点でエングヴァールとパールマンは、彼らの新しい手法につける名前を考え、ELISA(Enzyme-Linked ImmunoSorbent Assay)としました。

スールスたちが最初の結果を発表したのと同じ1971年、エングヴァールたちの結果も雑誌に掲載されました。抗原はウサギのIgGで、アヴラメアスの方法で仔ウシ小腸粘膜由来のアルカリホスファターゼを結合し、ファルマシアからもらった免疫吸着剤(ヒツジの抗ウサギIgG抗体をセルロースに結合させたもの)と反応させました。また、放射性免疫吸着法の酵素版というスタンスだったので、アマシャムの125Iで標識したウサギIgGを使った場合との比較もしました。

母国語で書いてしまったばかりに

教科書や辞書にあるEIA/ELISAの歴史では、前述のオランダ・スウェーデンの2グループが、それぞれ独立にほぼ同時期に開発した、ということになっていることが多いようですが、実はもう1グループ、同じ1971年に酵素標識した抗原と抗体の定量系を報告していました。1960年代の終わりに酵素で抗体を標識する方法を考案したアヴラメアスが、1971年に結果を報告しているのです。

残念なことに、アヴラメアスはフランス語で書いた論文をフランスの雑誌に投稿してしまいました。その結果どうなったかというと、おそらくご想像の通りです。

簡潔に

ところで、今日市販されている、EIA/ELISAキットの多くは96穴プレートのようなマイクロプレートの形状になっています。一方、前述のように、開発当初はセルロースやSepharose™などの担体を利用していました。現在のような形になるには、イギリスのグループの協力がありました。

ロンドンにある動物学研究所のアリスター・ヴォラーとデニス・ビッドウェルが所属する研究室では、さまざまな寄生虫病に対する免疫診断の開発に取り組んでいました。当初は、検出系に蛍光色素を使う方法が有望だろうと考えていました。しかし、世界各地での実地試験の結果、検査に要する時間、担当者に要求される技術、試薬の保存、必要な機材を考えると、現実的ではないことが明らかになりました。彼らは、設備が整った大病院や研究所だけでなく、発展途上国のかなり荒っぽい環境でも、そして誰でも簡単に使えるものを作りたかったのです。その点では、試薬の寿命が短い上に設備もいろいろ必要なRIAも、もちろん適しません。

では、その他の方法は、と候補を探している時に、たまたまメンバーの1人がストックホルムでエングヴァールに出会い、ELISAという新しい方法があることを知りました。

無事に論文を発表できたエングヴァールたちですが、その後のある日、セルロースではなくプラスチックチューブに抗体を吸着させる方式のRIAがあると知りました。このやり方なら簡単・確実・安上がりと判断した彼らは、その後のELISAをプラスチックチューブ方式に切り替えました。イギリスのグループが接触した時点では、このプラスチックチューブ方式に移行した後のことでした。

スウェーデンとイギリスのグループは協力し、さほど時間もかからずに96穴プレート方式のELISAを完成させました。ELISAのキットや試薬と、ポータブルな分光光度計だけをもって、南米のコロンビアやアフリカのタンザニアに出かけていって、マラリアが流行している地域とそうでない地域で血清サンプルを採取して分析するという実地試験を行いました。なお、エングヴァールたちが実地試験を行った1975年当時、タンザニアではすでにHIVの流行が始まっていましたが、彼らはまったく気付かず、特別な防護措置もなく採血を行っていました(幸い誰も感染はしていなかったそうです)。

このプレート形式は使い勝手がよく、オランダのグループもEIAをこの方式に対応させたため、EIA/ELISAは1980年代前半には、発表される論文の数でRIAを追い抜くほどの勢いで広まってゆきました。

過去の二つの顔

単純な事実の記載や、数学などを除けば、どんなに客観的に見ているつもりでも、人は、それぞれの立場やバックグラウンドからなかなか自由にはなれません。歴史的事実の記述にしても、何を取り上げ、何を等閑に付すかという取捨選択に、各人の価値観・世界観による評価がはいらないわけにはいきません。

後年、ファン・ウェーメンとエングヴァールが、その当時のことや、EIA/ELISAの普及に関する懐旧を書いていますが、同じものを見ていても、それぞれのバックグラウンドや個性によって着目点が異なり興味深いです。

ファン・ウェーメンは、製薬企業の研究者だからか、EIA/ELISAの普及の理由として、96穴プレート形式にしたことによる、実験の自動化がいかに大きな役割を果たしたのか強調しています。すでにRIAに慣れ親しんでいた研究者にとっては、EIA/ELISAはちょっと簡単かもしれないけれど感度の劣る方法でしかなかったが、自動化がすべてを変えてしまった、とまで言い切っています。診断・検査用途を重視するのであれば、おそらく彼の主張の通りでしょう。

しかし、エングヴァールは別の視点を提供しています。簡単に使えることと、さまざまなサンプルに対して幅広く対応できる柔軟性が、寄生虫病研究、獣医学、農学など幅広い用途を切り開くことにつながったとしています。ポインセチアのウイルス病やイルカの細菌感染など、さまざまな相談を受け、アフリカや南米に実地試験にも行ったエングヴァールならではの視点ではないでしょうか。

余談ですが、エングヴァール自身も自分が開発したELISAの恩恵を受けています。彼女は空き時間に動物のブリーダーをやっており、イヌの繁殖のために排卵時期のチェックに行ったところ、その検査に使われたのがELISAのキットでした。大した設備のない簡素な施設だったそうですが、そんなところでもちゃんと結果が出て、イヌの繁殖もうまくいったそうです。自分が開発した技術が回りまわって自分の役に立つとは、開発者冥利に尽きるといったところでしょうか。

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