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DIGE定期便 第4号
~2D-DIGE法によるアイソフォームタンパク質の量変動解析~

DIGEイメージ画像

この「DIGE定期便」では、毎回Ettan™ DIGEに関するアプリケーションやちょっとしたテクニックなどをご紹介しています。

第4回は、2D-DIGE法を用いたアルツハイマー病関連タンパク質のタンパク質ディファレンシャル解析結果をご紹介します。2D-DIGE法の結果からは、SDS-PAGEでは判別できなかったタンパク質アイソフォームの発現量の違いを確認することができました。このタンパク質の疾病への関与は報告されておらず、新たな知見が得られました。

また、泳動結果の比較を参考に、2つの解析手法の特徴について簡単にまとめました。

●まずEttan™ DIGEについて詳しく知りたい方のために
→Ettan™ DIGEの技術概要についてはコチラ


1. タンパク質ディファレンシャル解析の目的と流れ

apolipoprotein E (apoE)について

アルツハイマー病(AD)の開始と進行に関わる多型因子として知られており、65歳以下のAD発症では90%、65歳以上の発症でも60%の患者に関連が認められています。

apoEには3つのアイソフォーム(apoE2, apoE3, apoE4)が存在し、これらは112番目と158番目のアミノ酸残基がArg、もしくはCysであるかで判別されています。

アルツハイマー病(AD)に関連が深いタンパク質として、Presenilin 1/2、amyloid precursor protein(APP)、tau、apolipoprotein E(apoE)などが知られていますが、本報告では apoEのアイソフォームの一つであるapoE4 に注目しました。ADと関連するapoE4の働きをより明らかにするため、プロテオミクスの手法を用いた解析を試みました。

2. タンパク質ディファレンシャル解析の目的と流れ

プロテオミクス解析のフローを図1に示しました。
解析フロー図、詳細はテキスト参照

図1 apoE 遺伝子型によるタンパク質発現差異解析フロー

図中の各フローの解説

【A】
AD患者に特有な多型をもつAPOE3 (33D) 、APOE4 (44D) のTargeted Miceを作製し、その海馬抽出タンパク質をサンプルとしました。

【B】
上記の2サンプルについて、2-D DIGE法によるタンパク質ディファレンシャル解析を行いました。

【C】
健常サンプル(= APOE3 (33N) )とADサンプル(= APOE3 (33D) )のディファレンシャル解析を行い、AD特異的に発現量が変化しているタンパク質スポットを特定しました。

【D】
【B】、【C】の相関結果から、apoE4と密接に関連するタンパク質スポットを特定し、MALDI MS/MS によってタンパク質を同定しました。

【E】/【F】
同定タンパク質よりミトコンドリアに発現しているものをピックアップし、ADにおいてapoE4 と深く関連するタンパク質群を特定しました。

3. タンパク質ディファレンシャル解析の結果

2D-DIGEによるディファレンシャル解析結果

APOE3 (33D) 、APOE4 (44D) 間での2D-DIGE 結果を図2Aに示します。解析の結果、64スポットにおいて量変動が認められました。そのうち、APOE4 (44D) で増加したスポットは16、減少したスポットは48でした。

量変動スポットから同定されたタンパク質の中から、mortalin(HSP70 familyに属するシャペロンタンパク質) が興味深い変動を示していました。図2A中の枠で囲まれた部分の拡大図(図2A、右)で示されるa~dのスポットからはすべてmortalin が同定され、これらはアイソフォームの違いで分離されているスポットとわかりました。特に、c のスポットに当たるmortalin アイソフォームは、APOE4 (44D) で顕著に発現量が上がっていました(図2B、ソフトウェアによる3Dスポットイメージ)。

SDS-PAGEによるディファレンシャル解析結果

また、SDS-PAGEでのディファレンシャル解析結果が図3です。顕著に量変動が見られたバンドからいくつかの関連タンパク質を同定することができました。しかし、mortalin と分子量が一致するバンド1(図3)についてはサンプル間の量変動が認められず、2D-DIGEでのディファレンシャル解析から得られたmortalin アイソフォームの違いを見つけることはできませんでした。

横並びに4つのスポットが検出され、これらはすべてmortalinアイソフォームであることがわかりました。apoE4サンプルでは、酸性側からみて3番目の「c」のスポット発現が顕著に増加しています。

図2 2D-DIGE法によるディファレンシャル解析

APOE3(33D)APOE4(44D) での比較

【A】 2D-DIGE泳動パターン
Cy3[緑]:APOE3(33D) 、Cy5[赤]:APOE4(44D)
右図:mortalin アイソフォームが同定されたスポット群の拡大図
Immobiline™ DryStrip pI範囲: pI 4~7
分離分子量範囲: 10,000~260,000

【B】 上記mortalin スポット群の3Dイメージ(DeCyder™ 2D Software)

いくつかのバンドで発現量差異が確認できますが、mortalin 分子量に近いMr=74,000 のバンドでは顕著な発現量差異は判別できません

図3 SDS-PAGEでのディファレンシャル解析

M:分子量マーカー
33N:APOE3 , 健常サンプル
33D:APOE3 , ADサンプル
44D:APOE4, ADサンプル

バンド2, 3, 9, 10: 顕著に量変動が見られたバンド
(それぞれ、glial fibrillary acidic proteins、ACTB protein、myelin basic protein(完全長とアイソフォーム))

※バンド1 がmortalin 分子量と一致するバンドですが、量変動は認めらませんでした。


まとめ

2-D DIGE法は、二次元電気泳動を用いたタンパク質ディファレンシャル解析のパフォーマンスを最大限に引き出すことができる手法です。本報では、SDS-PAGEによる分子量分離だけでは違いの検出できないアイソフォームレベルでの発現量差異を、2D-DIGE法によって特定することができました。この結果より、APOE の遺伝子多型によって調節されるmortalin アイソフォ-ムの発現がADと深く関与していることが示唆され、mortalin が新たな治療薬ターゲットとしてのポテンシャルをもつことがわかりました。

本報の例のようなアイソフォームレベル、または翻訳後修飾レベルでのタンパク質発現量のディファレンシャル解析は、2D-DIGE法(二次元電気泳動)が最もパフォーマンスを発揮できる場であり、これこそがプロテオミクス研究そのものの解析意義につながります。もっと皆さまに一般的にお使いいただけるよう、弊社も努力を続けています。

一方、SDS-PAGEでのディファレンシャル解析にもメリットがあります。SDS を添加しないと溶解できない難溶性のサンプルを扱う場合や、二次元電気泳動での解析能が落ちる150 kDa以上の高分子量タンパク質場合などでは、SDS-PAGE で解析するほうが簡便で得られる情報も多いと予測できます(本報の図3でも、160~180 kDaあたりに発現量が異なるバンドが認められます)。

さらに、HyperPAGEの手法を用いることで、SDS-PAGEでのディファレンシャル解析をより詳細に行うことができます。2D-DIGE 法がもつ分離能および発現差異解析能と、SDS-PAGE(HyperPAGE)がもつサンプル適応性を最大限活用することが、ゴールへの近道です。

 参考文献・資料

●論文
Osorio, C. et al. Mortalin is regulated by APOE in hippocampus of AD patients and by human APOE in TR mice. Neurobiol Aging, doi:10.1016/j.neurobiolaging.2006.08.011(2006).

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