Cytiva

検索のヘルプ

Location:Homeテクニカル情報配信サービス > Pure Protein Club

3段階精製ストラテジー【3】中間精製(Intermediate Purification)ステップ
~目的分子を追い詰めろ!~

原料から粗抽出したサンプル溶液には、一般的に数千~1万種以上の様々なタンパク質が存在しています。前回ご紹介した初期精製ステップでは、イオン交換クロマトグラフィーに代表される“処理量とスピード”を優先した精製法により濃縮と安定化を行うことが先決であるとご説明をしました。

従って初期精製ステップを終えた状態のサンプル溶液は、プロテアーゼ・グリコシダーゼなどの“有害”分子の脅威も、タンパク質の総数も大幅に減り、さらに液量も減って取り扱いやすくなった状態といえます。

初期精製ステップを振り返りたい方はこちら


今回ご説明する中間精製ステップでは、下表のような目的と留意ポイントがあります。

表1. 三段階精製における各ステップの役割
精製ステップ 目的 精製方法の選択に重要なファクター
初期精製 目的タンパク質の単離、濃縮、安定化 処理容量、処理速度
中間精製 大量に含まれる不純物の除去 処理容量、分離能
最終精製 微量の不純物、目的タンパク質に特性がよく似た物質の除去 分離能、回収率

ただ、実はこのステップは全ての精製において必ずしも必要なものではありません。精製のゴール設定によっては、“初期精製+最終精製”または“初期精製+バッファー交換”などで用が済んでしまうこともあります。

精製を重ねるほど純度はアップしますが、手数が増えることでに回収率の低下は避けられません。イオン精製の計画段階で設定したゴールを見失わず、必要最低限の処理で精製を終了することはいつも忘れないようにしたい重要なポイントです。

では、どんな場合に中間精製をしっかりと行う必要があるでしょうか?たとえば治療用タンパク質や構造解析を目的とした精製など非常に高い純度が要求されるケースでは、中間精製ステップで複数の手法を組合せる必要があります。

つまり、中間精製とは手を変え品を変え徐々に夾雑タンパク質を取り除くことで、目的分子をじわじわと追いつめてゆく作業と言い換えることができます。

次に、中間精製に用いる手法について考えてみます。初期精製によって液量がある程度減ったうえ、“有害”分子もおおかた除去されているため、中間精製では処理速度はさほど要求されません。初期精製とは違った選択性をもつ手法を用いて、異なる切り口から夾雑物を取り除き、目的タンパク質を徐々に追い詰めることが求められます。よって、目的分子にとってマイルドな条件であればどのような手法を用いてもよいことになります。

中間精製ステップで選択可能な手法について特徴と注意点を挙げます。

中間精製ステップで選択可能な手法

イオン交換クロマトグラフィー

→タンパク質の荷電状態の違いを利用した精製手法

初期精製でイオン交換を用いた場合でも、さらに高分離を得られるイオン交換カラムで再精製することは一般によく行われています。中間精製では、より多く夾雑物を取り除くための条件検討として陽・陰イオン交換体の再検討、バッファーpHの至適化、溶出方法の検討など、詳細に至適条件を探すことがより重要です。なおイオン交換では開始条件は低塩濃度であることが必須ですので、希釈またはバッファー交換によるコンディショニングが必要です。

疎水性相互作用クロマトグラフィー

→タンパク質表面の疎水性の違いを利用した精製手法

イオン交換とは逆で、高塩濃度の条件でカラムに吸着させ、塩濃度を下げることにより溶出させます。Phenyl、Butyl、Octyl等の疎水性の強度の異なるリガンドがあり、どのリガンドを用いたときによりよく夾雑物が除去され、かつサンプルのカラム内残留が少ないかを検討する必要があります。開始条件で過剰に強い塩強度を用いることで、目的分子が変性してしまうこともありますので、バッファー塩強度の見極めも重要です。

アフィニティークロマトグラフィー

→目的タンパク質がほかの分子と生物学的に引き合う性質を利用した精製方法

非常に選択性が高いのが特徴。初期精製で利用する事も可能ですが、担体へのリガンド固定を自分で行った自作カラムや高価なカラムなどの貴重なものを用いる場合には、カラムの汚染・劣化を防ぐために中間精製で利用することをお勧めしています。吸着・溶出バッファーとも利用する担体によって様々ですが、一般に溶出後はバッファー交換が必要な場合が多いです。

ゲルろ過クロマトグラフィー

→分子量の違いを利用した精製手法

バッファー条件を選ばず操作も簡単ですが、処理容量に限界があります。カラム体積の0.5~2%程度が許容範囲ですので、液量がまだ多い中間精製段階では大型カラムが必要となってしまいます。この点から、ゲルろ過は最終精製で用いることをお勧めしています。

これらの手法を組み合わせる際に注意したいのは、なるべく各段階ごとにサンプル溶液の組成を調整する必要がないようにすることです。あるカラムからサンプルを溶出する際は、次に用いるカラムでの開始条件(吸着条件)に適するようにできるのが理想です。

たとえば、イオン交換で精製したサンプルは塩濃度が高い状態ですので、ここへ適宜硫酸アンモニウムを添加することで疎水性相互作用カラムの開始条件に素早く調整することが可能です。逆に疎水カラム精製後のフラクションを希釈して塩強度を下げることでイオン交換の開始条件とすることも可能です。このようにイオン交換と疎水性相互作用クロマトグラフィーは、表裏一体となって中間精製で大活躍する組み合わせといえます。

条件検討する際は前段階の精製で得られたフラクションを少量用いて実験し、決定した条件で残りのサンプルをスケールアップ精製処理する流れとなります。この作業を、必要な純度を満たせる工程ごとに行いますので、精製全体を通じ、最も煩雑な条件検討が必要なのが中間精製ステップだといえると思います。知力も労力も惜しみなくフル活用し、最適な条件を見つけましょう!

中間精製ステップで除ききれない不要物の除去については、次回ご紹介する最終精製ステップ(polishing step)にて詳しくご説明します。


三段階精製ストラテジー 全4回


お問合せフォーム

※日本ポールの他事業部取扱い製品(例: 食品・飲料、半導体、化学/石油/ガス )はこちらより各事業部へお問い合わせください。