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優しさから発見へ~光毒性が低いライブセルイメージングだからこそ分かった
~ES細胞の分化に伴うゲノム移動度の変化と、X染色体不活性化の仕組み~
DeltaVisionお客さまの声(2/2)

独立行政法人 理化学研究所 統合生命医科学研究センター 研究員
独立行政法人 科学技術振興機構 さきがけ研究者

増井 修 博士

ライブで対合の様子を撮影するためにDeltaVisionを使った理由

「ライブセルイメージングにDeltaVisionを使ったアドバンテージですが、いくつかありました。

  1. 撮影スピードが早い。z軸を50プレーンぐらい撮るこの実験条件(図4)では、1細胞の計測時間が数秒で撮影できることが大きな利点でした。1分間隔でタイムラプス撮影するような場合でも、一回の実験でスライド上の異なる視野を7~8ヶ所ぐらい撮れました。
  2. 数がこなせる。対合を解析する実験では、うまく対合しているところを撮影できるのは視野にある細胞の10%程度です。たくさん撮影して、その中から選んで解析していく必要がありました。とにかく数をこなさないといけない、というこの実験目的にはDeltaVisionが向いていました。
  3. 生きたまま連続して30分間撮り続ける。1分間隔で30分間 3D で撮影する実験をいくつかの顕微鏡で試しましたが、励起光による光毒性のために ES 細胞が途中で死んでしまい、撮影が困難でした。この実験では、唯一DeltaVisionで生きたまま30分間撮り続けることができました。

ライブでXic領域の動きを解析するようになって、気が付いたことがありました。それが、この論文の意義の1つである、ゲノムの移動度が細胞の分化によって変化する、ということです。」

図4. 生細胞イメージングの概要図
図4. 生細胞イメージングの概要図

ライブだからこその気付き、細胞分化によって変化するゲノム移動度

「未分化細胞と、分化の過程にある細胞とを比較すると、分化の過程にある細胞でXic領域間距離の変化が大きいような印象を受けました。ここから考えたのが、ES細胞が分化し始めると、核の中の流動性が高まるのではないか?というアイデアです。これを実験的に証明できないかということで、当時所属していたキュリー研究所の同じ建物にいた生物物理学の研究者に相談を持ちかけました。向こうの(キュリー研究所)良いところは、様々な研究分野の人が同じ建物に出入りしているので簡単にアイデアの交換ができることです。彼女に相談して、MSD (Mean square displacement、Δd2) (図5)という、時間ごとの2点間距離変化の大小を数値化する方法で解析してみることにしました。その結果、

  • ES細胞の分化が始まるとXic領域の移動度(Δd2)が大きくなる
  • ある一定時間を過ぎるとΔd2が~3 μm2 (=~1.7 μm)のプラトー値になる

ことを明らかにしました。

図5. Mean Square DisplacementによるXic-TetO領域の移動度算出
図5. Mean Square DisplacementによるXic-TetO領域の移動度算出

核の中でゲノムDNAがどう動くか、について現在一般的に言われているのは、ランダムに動くことができるが、ある一定の範囲までしか移動できないということです。超解像度顕微鏡DeltaVision OMXの開発者でもある John Sedat 博士の研究(*2)から、ある一定時間を過ぎるとΔd2がプラトーになることが証明されています。私達の、ES細胞の分化が始まるとXic領域の移動度(Δd2)が大きくなり、ある一定時間を経過するとプラトー値になる、という研究結果はこれと一致していました。
興味深いことに、対合が起こっている分化誘導後1日目の細胞だけを取り出して解析すると、未分化細胞と同程度にXic領域の移動度が低く保たれているということも明らかになりました。」

ライブだからこそ明らかにできたXistTsix の発現パターン

「DeltaVisionとES細胞のTet-operatorによる可視化ツールを用いて、もう一つの疑問である Xic領域対合形成後にXist が直接転写活性化されるのか?それとも、まずTsix が片側アリルで転写抑制されXist の転写が活性化されるのか?の答えを見つけられるのではないかと考えました。分化誘導したES細胞をライブイメージングして Xic 領域の対合している細胞を記録した後、一定時間経過するごとにRNA FISHを行って XistTsix の発現を解析してみたところ、以下のことが分かってきました。

  • 未分化ES細胞の95%でXist およびTsix が両アリルから発現
  • 分化誘導後1日目では、Tsix は両アリルから発現しているものの、Xist が片側に蓄積している細胞(X染色体不活性化を開始しつつある細胞)が増加

より詳しく解析するために、分化誘導1日目で Xic領域の対合を起こしている細胞を抜き出しして解析してみると

  • 対合してから10 – 60分後に、Tsix が片側から、且つXist が両アリルから発現している細胞が増加
  • 対合してから150 – 180分後に、上記細胞が減少する一方、X染色体不活性化を開始しつつある細胞が増加

ということが分かってきました。これらの結果から、対合によってまずどちらか片一方のTsix 発現が抑制されてXist の発現を誘起する、その後再びTsix 発現が回復してくるものの一旦活性化されたXist の発現を抑えられなくなっている、というES細胞分化過程におけるX染色体不活性化機構のモデル(図6)を考えました。

図6. Xist RNAとTsix RNAのランダム単アリル性発現メカニズムのモデル図
図6. Xist RNAとTsix RNAのランダム単アリル性発現メカニズムのモデル図

まとめると、この論文で示した大事なことは

  • ES細胞の分化によってゲノムの移動度が変化する。
  • ゲノムの移動度の変化に伴って2つのXic領域が対合し、片側のTsix の発現が一時的に抑制されることでXist の転写抑制が解除され、片方のX染色体からのみXist の転写が活性化される。これにより、ランダム型X染色体不活性化が起こる。

の2点です。生細胞イメージングを用いた時空間的解析によるこれらの発見の意義が認められてCellに掲載されたのだと思います。」

今後の研究方向性:Xist RNAをもっと詳しく解析していきたい

インタビューの終わりに、増井博士は今後の研究の方向性について次のように語ってくださいました。
「個人的には Xist RNA自身をもっと詳しく解析したいと考えています。生細胞でRNAを可視化できる実験系を構築したので、Xist RNAの動きや構造についても解析してみたいと思っています。ライブにこだわるのは、固定してしまうと本来の構造が変わってしまう場合があり、ライブで構造を見ないと本当の姿が見えないのではないか、と考えているからです。3D-SIMなど超解像技術をライブで使えるようになれば、もっと深く知ることができるようになると思います。
長い目でみればエピジェネティクスシステム全体像に興味はありますが、まずはXist RNAをモデルとして、この分子がどのようにして X 染色体全体の不活性化を起こしているのか?どのように制御されているのか?ということにフォーカスしていき、そこからもっと一般的なことにフィードバックできれば、と考えています。」

  1. Masui, O. et al. (2011) Live-Cell Chromosome Dynamics and Outcome of X Chromosome Pairing Events during ES Cell Differentiation. Cell 145, 447-458.
  2. Marshall WF. et al. (1997) Interphase chromosomes undergo constrained diffusional motion in living cells. Current Biology 7, 930-939.
p1  p2

 

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