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幹細胞の生体外増幅を捉える ~大腸上皮幹細胞の生体外培養法の確立~
DeltaVisionお客さまの声(3/3)

東京医科歯科大学 消化管先端治療学

准教授 中村 哲也 先生

薬剤吸収効率の評価モデルを創る

中村先生は、自身のグループで開発した大腸培養技術に加え、他で報告された様々な消化管上皮培養技術を用いて新たな可能性を探る研究を進めていらっしゃいます。その中でも、個別化医療のツールの可能性を秘めた薬剤吸収効率評価モデルを創ることに既に成功されています。(*7)このモデルには、薬物を吸収する臓器の一つである、小腸の上皮細胞が用いられています。どのようにモデルを構築したか詳しくお話を伺いました。

薬剤は主に小腸で吸収・排出されます。小腸での薬剤輸送にかかわるABCトランスポートの一つであるP-glycogen(P-gp)がインビトロで解析ができると、創薬研究、特に新薬候補化合物の薬剤吸収効率の検証に有用です。

最新の培養技術を用いると、小腸上皮細胞も大腸上皮細胞同様の球状オルガノイドを形成します。P-gpは、生体内で小腸の管腔側に存在しているように、生体外培養細胞では管腔側にあたるオルガノイド構造の内側に発現していることが明らかになりました。(データはこちらからご覧いただけます。

次に、オルガノイド内側に発現したP-gpが薬剤排出機能を有しているかどうか検証しました。マトリゲルのなかでオルガノイドを3次元培養し、この中にP-gpの基質の一つであるRhodamine 123を注入し、オルガノイドの外側から生体の管腔側にあたるオルガノイドの内側へ排出する様子をDeltaVisionでライブイセルメージングしています。

撮影開始6分後にRhodamine 123を投与し、3分間インターバルで5.5時間のライブセルイメージングを行いました。この結果、オルガノイドの内側にRhodamine 123の顕著な集積が認められました。また、P-gpの阻害剤の一つであるVerapamilをRhodamine 123と共に添加すると、濃度依存的にRhodamine 123の輸送が阻害されることも示されました。動画データをこちらからご覧いただけます。

薬剤吸収効率の評価実験系のために、中村先生のグループではライブセルイメージング用チャンバーFCS2(BIOPTECH社)を使用されたそうです。FCS2の利点は、溶液の注入用と排出用の管がついており、ライブイメージングの最中に培養環境中に薬剤を注入してその前後の様子が観察できることです。

中村先生は、この薬剤吸収効率評価はほんの一例であり、新しい消化管上皮細胞培養技術を、特にイメージング技術とくみあわせることで、今後これまでになかった下記のような研究領域がひろがるだろうと考えておられます。

培養技術によって拓ける新たな可能性

  1. 正常上皮細胞の増殖・分化機構解析や消化管ホルモン分泌解析
  2. 癌化や吸収障害などの疾患・病態解析
  3. ヒトに対する細胞治療
  4. 薬剤吸収効率や抗癌剤感受性評価などの個別化医療への応用

超長時間ライブセルイメージングが決め手

最後に中村先生に、新しい培養技術の開発を陰で支えたDeltaVisionを使用した理由を伺いました。

今回の一連の実験は1週間を超える超長時間にわたり連続して幹細胞をイメージングするという細胞にとってシビアな条件でした。共焦点顕微鏡で得られるような立体構造としての解像度を犠牲にしても、光毒性など細胞へのストレスをおさえて生きた幹細胞の増殖を捉えたい、という今回の目的には、DeltaVisionが適していたそうです。DeltaVisionはレンズを通すことで拡散してしまう光を、演算処理によって元の位置に復元させるデコンボリューション機能を備えています。焦点面だけでなく、非焦点面に分布した光の情報も取り込むデコンボリューション技術は光子の利用効率が高いため、レーザーの様な強い光源ではなく、蛍光の励起エネルギーを抑えた光源を採用しています。そのため、細胞にやさしく、長時間の観察が可能なのです。

一般的にデコンボリューションによる解像度改善が難しいとされる厚みのある組織切片に、あえてDeltaVisionを使用した理由も伺いました。先生の現段階のご研究では、個々の細胞内構造ではなく、例えばクリプトやオルガノイドという何千という細胞集団からなる構造全体を1枚の画像でとらえて、その中における細胞レベルの識別、あるいは蛍光物質の移動をみることが目的であるため、厚みのある組織切片でもDeltaVisionで目的のデータが撮れた、ということです。

ただし、今後この細胞の中の分子レベルでの解析をするか評価をする場合には、DeltaVisionも含めて、他のイメージング技術も検討すべきだということお話くださいました。

 

  1. Yui S. et al., (2012) Functional engraftment of colon epithelium expanded in vitro from a single adult Lgr5+ stem cell. Nature Medicine 18, 618-623
  2. Sato T. et al., (2009) Single Lgr5 stem cells build crypt–villus structures in vitro without a mesenchymal niche. Nature 459, 262-265
  3. Ootani A. et al., (2009) Sustained in vitro intestinal epithelial culture within a Wnt-dependent stem cell niche. Nature Medicine 15, 701-706
  4. Barker N. et al., (2010) Lgr5+ve Stem Cells Drive Self-Renewal in the Stomach and Build Long-Lived Gastric Units In Vitro. Cell Stem Cell 6, 25-36
  5. Jung P. et al., (2011) Isolation and in vitro expansion of human colonic stem cells. Nature Medicine 17, 1225-1227
  6. Sato T. et al., (2011) Long-term Expansion of Epithelial Organoids From Human Colon, Adenoma, Adenocarcinoma, and Barrett's Epithelium. Gastroenterology 141, 1762-1772
  7. Mizutani T. et al., (2012) Real-time analysis of P-glycoprotein-mediated drug transport across primary intestinal epithelium three-dimensionally cultured in vitro. BBRC 419, 238-243

 

※お客さまの使用経験に基づく記載です。

東京医科歯科大学消化器内科のHPです。是非ご覧ください。
http://www.tmd.ac.jp/grad/gast/research.html

p1 p2 p2

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