不遇の時代を経て、近年アンメット・メディカル・ニーズを満たすために、世界で承認が続いている細胞・遺伝子治療。国内でも注力する動きも見られるなか、シーズを治療薬として実現化するのに必要な知識を国として高めることはもちろんのこと、それともなう規制の整備が急務であり、また課題も多いといわれています。今後、日本が細胞・遺伝子治療をリードするにはどうしたらいいのか――昨年11月、日本でのイベントに参加するため来日していた弊社Cell and Gene Therapy戦略・事業開発GM・Philip Vanekに世界からみた細胞・遺伝子治療について、そして日本への期待感と課題について訊きました。
日本も含め、世界における「細胞治療や遺伝子治療」の取り巻く環境は、長年の月日を経て大きく変化してきています。免疫細胞療法の急速な進歩により、患者さんから採取した免疫細胞を安全に生産するための「次世代製造プラットフォーム」に多くの需要が生まれています。免疫細胞療法はほとんどの場合、患者自身の細胞(自家細胞)を用いる治療法であるため、患者の体内から細胞を採取してその細胞を活性化しその細胞を患者へ戻すまで、特別な配慮が必要です。こうした治療法における製造の効率化やリスク軽減化を図るソリューションを組み合わせて、免疫細胞療法を含め細胞治療や遺伝子治療に関する製造に関して、弊社は総合的なソリューションを提供しています。
昨年2019年に改正された日本の医薬品医療機器等法(薬機法)は、新しい医薬品や治療の安全性の基準を維持しながら「いかに迅速に承認を進めるか」という方針に舵を切りました。安全性と有効性を示す治療法における「条件付き早期承認制度」の制度化によって、日本は細胞治療や遺伝子治療の臨床試験を実施し、それを上市させるのに適した場所になることが大変期待されています。細胞・遺伝子治療の開発を進めるアプローチは現在世界中でモデル化されてきており、開発側と治療に取り組む患者側の双方にとって有益です。こうした変化によって、世界では細胞治療や遺伝子治療に対する開発投資が膨らんでいます。
次世代の新しい治療法に対する需要が上向いているため、特にウイルスベクターにおける製造キャパシティの不足感もありますね。現在、日本も含め世界中の極めて重要な課題のひとつは、こうした需要に対して、可能な限り迅速にデジタルで適切な技術を活用して稼働できる生産能力、つまり細胞治療や遺伝子治療を下支えする重要なインフラの強化ですね。
弊社は、モジュール式バイオ医薬品工場「KuBio」やシングルユース製品を採用しユーザーの要望に応じてカスタマイズして提供するバイオ医薬品デジタルプラットフォーム「FlexFactory™」といった製品を展開しており、わずか20か月で即稼働可能な細胞治療や遺伝子治療向け製造プラットフォームをご提供します。また、最先端の設備を導入した製造拠点の運用スタッフをフォローする「Fast Trak™」というトレーニングプログラムもご用意しています。
弊社は「Xuri™」「Sepax™」、「VIA Freeze™」といった既存システムも利用しながら、細胞・遺伝子治療においてできるだけ多くの治療法をサポートしていきたいと考えています。細胞・遺伝子治療業界が前進し新しい治療アプローチが展開されるにつれて、スケーラブルで堅牢、信頼性の高い製造プラットフォームがますます重要になってきます。この目標を達成するために、弊社は細胞・遺伝子治療をシンプルに、そして最終的には自動化できる次世代のハードウェア、ソフトウェア、消耗品、および試薬を「トータルなソリューション」として展開しています。
今回の日本滞在のあいだ、弊社のスタッフとともに日本の多くのお客さまを訪問する機会がありました。また、在日米国商工会議所(ACCJ)が主催するイベントで、「ヘルスケア・ニューフロンティア政策」を推し進める神奈川県の黒岩祐治知事とのパネルディスカッションにも参加しました。
昨年、11月5日に開催されたこのイベントで黒岩知事とともにパネリストとして登壇させてもらうという大変すばらしい機会を頂戴しました。イベントにおいて知事が講演されたテーマは、日本における高齢化問題と日本が将来直面する課題でした。神奈川県が提唱するヘルスケア・ニューフロンティア政策の2つのアプローチ「未病〈MeByo〉の改善」と「最先端医療・最新技術の追求」において、AIと次世代医薬品の高度な技術をもって、未病がいかに心と体の健康をもたらすかという黒岩知事の考え方は、再生医療分野に従事する私たちの心にとても響きました。イベントでは、細胞治療と遺伝子治療について、治療における開発のペースの速さ、また治療の複雑さが増し、かつてないスピードで進化するテクノロジーの必要性があることを示す事例を紹介しました。知事が提示している医療の全体論的視点は、先進治療の急速な進化の議論とうまく一致し、最終的には日本だけでなく世界中の人々の健康の改善につながることでしょう。
今回の来日を通して、日本の再生医療エコシステムには本当の目的意識があり、将来の医療につなげたいという熱意を感じました。日本における科学の質の高さ、薬機法の改正、そしてこの分野に携わるリーダーの存在を今回知り、これからの日本の細胞・遺伝子治療の未来にとても期待しています。元カルフォルニア州知事で俳優シュワルツェネッガーの名セリフを借りて、「I’ll be back」!(また日本に来ることを楽しみにしています!)