Dr. 近藤のコラム 2D-DIGEの熱い心
「基礎から臨床への橋渡し」
筆者の道場、もといラボには毎年3、4名の臨床医がフルタイムで研究に参加している。研究期間を2年と決め、臨床業務をいったん中止して研究を行う者たちである。その他に、2年の研究期間を終えて臨床に復帰した後も臨床の合間をぬって筆者と共に研究を行っている者が4名いる。
彼(彼女)らはいずれもがんの臨床に数年間従事した経験があり、診療活動を通じて現代の医療の限界を感じ、基礎医学に解決の可能性を期待して筆者の研究に参加するようになった。動機が明確であるうえに、「手術は12時間を超えてから調子がでる」などと豪語するような連中なので、彼(彼女)らの実験での集中力と持続力はすさまじいものがある。私も助手やポスドクのときは実験のやり過ぎで家庭が崩壊しかけていたが、その私からみても「そこまでしなくても」と思うことがあるくらいである。
彼(彼女)らが私のラボに持ち込む発想やそれに基づくディスカッションは、いろいろな研究計画を立てる際の基礎となっている。研究者は病院で何が起きているのかを理解する機会にきわめて乏しい。これは職業の違いによるものであって、研究における優秀さとは無関係である。かく言う筆者も、医学部の出身で医師免許をもっているし毎日がんの研究をしているのだが、がんが臨床的にどうなっているかを理解しているとはとても言えない。国立がんセンタ-中央病院で働くドクターたちからみると、普通の人と変わらない知識レベルかもしれないと思っている。
職業を変えて臨床医になってがんの専門医として病院で働かない限りこのギャップはいつまでも埋まることはないだろう。プロテオミクスの専門家と臨床の専門家の間でよい関係を構築し、お互いに不足するものを補い合い、得意とするところを活かしていくという関係がどうしても必要である。
「基礎から臨床への橋渡し」、という標語がある。このフレーズを考えられた方の真意はよくわからないが、基礎から臨床への一方通行では臨床に役立つ発見はできないだろう。
基礎研究者が「これは臨床に役立つのでは」と思って何かを発見したとしても、臨床の現場で受け入れられないことは十分ありうる。研究計画を立てる段階から臨床医とよく話をして、臨床医のレベルで常識的に知られているがんの性質、臨床現場で問題とされる事柄、何があれば治療成績は向上すると考えられているのか、といった情報を得ること、その情報に基づいて基礎研究から提案をすること。このプロセスを繰り返すことが「橋渡し」研究を効率よく行うために “DIGE” であると考えている。
近藤 格
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