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Location:Home実験手法別製品・技術情報タンパク質サンプル調製・前処理

第3章
目的タンパク質の検出性改善(1)

はじめに

第2章では、供給源からサンプルを採取し、タンパク質を抽出して安定化するプロセスについて説明しました。このプロセスを通して、サンプルを採取した生物源のin vivo状態にできる限り近いタンパク質集団を含む溶液が得られます。特定の分析法に適したサンプルの最終調製を行う前に、多くの場合、目的タンパク質の検出性改善を目指したステップが必要になります(図3.1)。このステップの目的は、分析ステップの能力に合うようにタンパク質含量を調整することで目的タンパク質の分析が成功する確率を高めることです。

図3.1
図3.1 タンパク質サンプルの調製と分析のワークフロー概念図。この章で扱う単位操作カテゴリーを枠で囲んで示します。

リコンビナントまたはハイブリドーマ培養細胞の場合、検出性の改善とは、単一の目的タンパク質をほぼ均質な状態に精製し、詳細な分析(例:構造決定または抗体スクリーニングおよび同定や特徴付け)に使用できる単一の最終サンプルを生成することを意味するのが一般的です。タグ付き組換えタンパク質とモノクローナル抗体の精製はアフィニティー担体を使用して効率的に行うことができ、その後に必要に応じてポリッシングを行います。詳細はこのハンドブックの範囲外となりますので、「Recombinant Protein Purification Handbook: Principles and Methods[組換えタンパク質精製ハンドブック:原理と方法]」、「Antibody Purification: Principles and Methods[抗体精製:原理と方法]」、「Purifying Challenging Proteins[精製が難しいタンパク質のための精製ハンドブック]」など、Cytivaの他のハンドブックを参照してください。この章では、スクリーニングを目的とした小スケールのサンプル調製について簡単に説明します。マイクロウェルプレートを使用したスクリーニングとロボットシステムの使用については第5章で詳述します。

生物モデル系に存在するタンパク質の広範な分析を目的とした手法を用いる場合(例:プロテオミクス全般、システムバイオロジー、バイオマーカーの開発)、検出性の改善とは、タンパク質の複雑度合とダイナミックレンジを低減させたサブサンプルを1つまたは複数生成する方法を適用することを意味します。量の多い初期サンプルからこの手法の適用を始めることで、低存在量タンパク質のアプライ量を増大させることができ、したがって全体的な感度を高められます。このプロセスが必要となる理由は、現在使用できる網羅的タンパク質分析法(二次元電気泳動およびLC-MS/MS)の感度、分離能、ダイナミックレンジおよびデータ収集速度では大半の生物系の複雑度合とダイナミックレンジに十分対応できないためです(第1章を参照してください)。最終的な成功率に影響するパラメーターが複数あるため (1)、分析に供する画分の最適な組成についてアドバイスすることは困難です。サンプル自体の特性、サンプル操作に用いる各ステップの制約および最終分析の性能のすべてが結果に影響します。

この章で説明するタンパク質の濃縮または除去の手順は、以下の手法に基づくものです。

  • タンパク質分画
    • 分画沈殿法を使用
    • クロマトグラフィーを使用
  • アフィニティーベースの高存在量タンパク質の除去
    • 血漿または血清からのアルブミンおよびIgGの除去
  • アフィニティーベースのタンパク質およびタンパク質サブグループの濃縮
    • 免疫グロブリンの濃縮
    • ビオチン化タンパク質の濃縮
    • 共有結合リガンドを用いたタンパク質の濃縮
    • リン酸化タンパク質およびリン酸化ペプチドの濃縮
    • 免疫沈降法を用いた目的タンパク質の濃縮

タンパク質分画を検討する前に考慮すべき点として、これよりも「網羅的」な分画が有効な手段となる場合もあることが挙げられます。この「網羅的」な分画では、サンプルを分割することなくDNA、RNAおよびタンパク質画分を、同一のサンプルから得ることが可能です。

機能ゲノミクス、分子遺伝学、バイオマーカー研究などの分野の研究者は、最近まで、下流の分析でプローブや標的として使用するDNA、RNAおよびタンパク質を3種類の別々のキットを使用して分離していました。しかし、分割した細胞/組織サンプル間が均質でないと結果に歪みが生じる可能性があります。検出される転写(遺伝子)発現、タンパク質発現、コピー数多型および一塩基多型(SNP)の間に良好な相関関係が必要であることから、複数の分析物を同じサンプルから分離する方法が開発されました。同じサンプルからDNA、RNAおよびタンパク質を調製すると、DNAとRNAとタンパク質のデータを直接相関させることが可能になります。そのため、得られた結果が実験デザインのアーチファクトではなく、サンプルの特徴を示すものと断定できます。

Cytivaは、非分割サンプルからゲノムDNA、全RNAおよび変性タンパク質を調製するために、これらの分子カテゴリーを順次分離するillustra™ triplePrep Kitを提供しています。このキットに付属するカオトロープ溶解バッファーは、ほぼすべての生体物質に存在するDNAge、RNAgeおよびプロテアーゼを直ちに不活化し、ミニカラム中のシリカメンブレンへのDNA吸着に適した結合条件を作り出します。RNAとタンパク質はこのカラムを通過します。この素通り画分の条件を調節し、2番目のシリカカラムに全RNAを吸着させます。タンパク質はこのカラムを通過するので、沈殿法で全変性タンパク質を回収します。詳細についてはillustra™ triplePrep Kitの使用説明書を参照してください。

 

>>目的タンパク質の検出性改善(2)

タンパク質サンプル調製ハンドブック目次3章 References 略号と用語、記号解説


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