ご協力いただいたお客様

森井 英一 教授 大阪大学
髙島 剛志 先生 大阪大学

ハイライト

本研究では、ヒト2型肺胞上皮(AT2)オルガノイドのマニュアルワークフローを最適化します。

はじめに

我々は慢性間質性肺炎、特に特発性肺線維症(IPF)と呼ばれる難病の病態解明とそれらを基に、治療薬開発に繋げる研究を行っている(1)。

近年、aberrant basaloid cellsの出現がIPFの病態増悪メカニズムに関与するとして脚光を浴びている。これまでに、ヒト2型肺胞上皮(AT2)からaberrant basaloid cellsへ転化が起こることが報告されているがその転化についての詳細は明らかでないことが多い。これまでに我々は、AT2オルガノイドを用いて炎症刺激をすることで、aberrant basaloid cellsのマーカーであるKRT17遺伝子の発現上昇を確認しており、さらなる培養方法を検討している。

これらの研究を進めていく上で、AT2オルガノイドを効率よく樹立・培養することが重要である。これまでにマニュアルベースでヒト正常肺組織からAT2細胞を単離し、AT2オルガノイドを樹立する方法については既に確立しているが、今回、より簡便で効率的に、初めて研究をスタートする方に対しても取り組みやすいようにCytivaの組織分散装置Omics bundle – VIA ExtractorとBeckman・CoulterのCytoFLEX SRTセルソーターを用いて、オルガノイドの樹立効率等について評価させていただいた。

サンプル調製

手術後12時間後の正常ヒト肺組織サンプルをVIA Extractorでシングルセルに分散処理後、EpCAMとHTⅡ-280で染色し、EpCAMとHTⅡ-280マーカーの陽性領域をCytoFLEX SRTで細胞を分取した。マトリゲルを用いて3D培養し、AT2オルガノイドの樹立効率について評価した(Fig1-3)。

組織分散装置 VIA ExtractorとCytoFLEX SRTセルソーターを用いたAT2オルガノイドの樹立におけるワークフロー概要

Fig 1.組織分散装置 VIA Extractor™ とCytoFLEX SRTセルソーターを用いたAT2オルガノイドの樹立におけるワークフロー概要

正常ヒト肺組織サンプル 約300mgをwholeで使用

Fig 2.正常ヒト肺組織サンプル 約300mgをwholeで使用

  • 37℃、ペダルスピード200rpmで分散開始
  • 10分毎に目視で分散具合を確認し、40分後に細胞懸濁液を全量回収
  • セルストレーナーに入れたのち遠心分離
  • Countessを用いてセルカウント実施

  • 組織サンプルをOmics Pouchコンパートメントに挿入
  • Omics PouchをOmicsクランプにはめ込み、ネジを締める
  • パウチの口をヒートシールする
  • ルアーコネクターシリンジを使用して、消化酵素液Collagenase (濃度)/dispase (濃度)を5mL パウチに加える
  • 同じシリンジを使って、パウチ内の余分な空気を取り除く
  • Omics PouchとOmicsクランプの組み立てが完了

Fig 3.VIA Extractorでのシングルセル分散処理工程

結果

今回、正常ヒト肺組織300 mgから、VIA Extractor™を用いることで組織分散後の細胞生存率は90%以上で2x106 cell/mLの細胞収量を得ることができた(Table 1)。また私が普段より行うマニュアル手法に比べても同等の効率でAT2オルガノイドを樹立することができた(Fig4-6)。マニュアル手法に関してはプロトコルの最適化済みだが、VIA Extractorのプロトコルについては単発的な実施であったため、最適化条件については十分に検討できておらず、一般的と思われる条件で実施したにもかかわらず、非常に良好な結果を得ることができた。

Table 1.VIA Extractor™ による生存率および細胞数の結果

 Instrument and setup  Dissociation time  Temperature  Speed  Cell count (/mL)  Viability (%)
 VIA Extractor™ tissue disaggregator (with visceral pleura)  40 min  37℃  200rpm  2,170,000  91

CytoFLEX SRTで細胞を分取後、マトリゲル下で12日間培養したAT2オルガノイドの明視野画像

Fig 4.CytoFLEX SRTで細胞を分取後、マトリゲル下で12日間培養したAT2オルガノイドの明視野画像

CytoFLEX SRTで細胞を分取後の12日間培養したオルガノイドの免疫染色。(左)HE染色、(中)HTll-280、(右)SFTPCを示す。

Fig 5.CytoFLEX SRTで細胞を分取後の12日間培養したオルガノイドの免疫染色。(左)HE染色、(中)HTll-280、(右)SFTPCを示す。

マニュアル手法とVIA Extractorでのオルガノイドコロニー形成数

Fig 6.マニュアル手法とVIA Extractor™ でのオルガノイドコロニー形成数

まとめ

通常、マニュアル手法の場合、ハンドリングに不慣れな者が行うと、AT2オルガノイド培養可能なAT2細胞数を単離することは難しく、ある程度熟練したテクニックを要する。今回VIA Extractorを使用し最も印象的であったことは、酵素や温度条件などについて未検証にも関わらず単日でマニュアルと同程度かつ、簡便で高効率なオルガノイドの樹立を達成できたことである。さらに、マニュアル手法に比べ、短時間で質の高いシングルセル化を可能にし、全体的な実験時間を短縮させ、実験の効率化も図ることができた。

今回用いた正常ヒト肺組織だけではなく、疾患組織を含む様々な組織に対して、組織の硬さ、組織サイズ、そして酵素の種類などをカスタマイズし、最適な分散時間をプログラムすることで、難しいステップがなく、〝だれが行っても同じ結果“を得ることが出来る自動分散システムであると感じた。

また、オルガノイド作成の為にはHTII-280 が細胞表面での発現が失われないことが条件の一つとなるが、このマーカーの発現の程度もマニュアル手法と遜色なく、VIA Extractorは細胞にとってマイルドな分散方式であることがうかがえた。 我々のような基礎研究だけでなく製薬会社などにおいても、安定した実験結果を得ることは非常に重要であり、安定的に再現性良く組織から質の高いシングルセルを得ることが出来る自動化システムは様々な研究フィールドの発展を加速できるツールであると考察できる。

CytoFLEX SRTについても、アナライザー感覚で機器立ち上げが可能で、感覚的な操作で簡単にフローサイトのプロトコルを組み上げることが出来た。これも、細胞へのダメージを極力少なくし、樹立効率をあげるための重要なポイントとなることが経験からわかる。CytoFLEX SRTはプレートソートなど必要十分な機能がついているにも関わらず、ラボ実験台に収まるサイズと静穏性も魅力の一つであると思う。

参考文献

  • Takashima T, Zeng C, Murakami E, et al. Involvement of lncRNA MIR205HG in idiopathic pulmonary fibrosis and IL-33 regulation via Alu elements. JCI Insight. 2025;10(5):e187172. Published 2025 Mar 10. doi:10.1172/jci.insight.187172

謝辞

今回CytivaとBeckman Coulterが最新のテクノロジーを紹介して頂き、研究者とメーカーで多くの情報交換が出来き、全体を通して有意義な時間となったことに謝辞を申し上げたい。

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