Q フィッティングがかかりません!こんな感じです。どうすればいいですか?

センサーグラム形状

図1.センサーグラム形状

A リファレンスの結合を確認してみましょう。

今回のセンサーグラムはいかにもこのままではフィッティングがきれいにかからないのがパッとみて分かりますね。解離相は濃度依存性が取れていないし、高濃度側のセンサーグラムは結合相でも何か歪んでます。このようになんか変なカタチになったな、というときはリファレンスセルのセンサーグラム、あるいはBinding to Referenceのプロットを確認してみてください。(本当は、この確認はどんな時もしてもらいたいことなのですが。過去記事“天敵「ノンスぺ」の見つけ方・退治法”も是非ご覧ください)

ではこのデータのリファレンスセルのデータを図2.でご紹介します。

リファレンスセルのセンサーグラム

図2.リファレンスセルのセンサーグラム

このように結構大きな非特異的結合があります。200secくらいのレスポンスの高さで考えると、図1.の差し引き後のセンサーグラムの高さに対して、10%程度から80%程度の大きさになっています。

でもここで一つ疑問に思うのはリファレンスデータを取っているのだから、差し引いたら非特異的結合も差し引かれて、標的リガンドに対する結合だけ観察できるのではないの?ということです。

この疑問至極当然なのですが、回答はかなりNOに近いです。Biacore™のリファレンスデータの主な目的は溶媒効果によるバルクレスポンスを差し引くことにあり、非特異的結合を差し引く正確性は低いと考えてください。

なぜ非特異的結合は正確に差し引けないかというと、図3. の通り、露出したセンサーチップ表面の面積はリガンドを固定化した場合、リファレンスと異なってくるからです。

また、経験的に非特異的結合レスポンスの再現性は低くなりがちです。アナライト溶液はフローセルへの添加にあたり、センサーチップのフローセル部分(1-2 mm2)よりはるかに広い面積を有するバイアル(プレート)、ニードル、チュービングなどを通過しており、非特異的結合(疎水結合や電荷的な物性的な特性で結合してしまう)はその部分でも起こる可能性があります。

となると、Biacore™の装置が十分の稼働性基準を満たした状態でも、非特異的結合の再現性は低くなる傾向があります。上記のような理由で、 Biacore™の測定において、リファレンスに対する非特異的結合をなるべく小さくすることはとても大事なことになってきます。

リファレンスセルとリガンド固定化セルのセンサーチップ表面

図3.リファレンスセルとリガンド固定化セルのセンサーチップ表面

このようにリファレンスに非特異的結合が出てきた場合の対処法ですが、いろいろあります。センサーチップやランニングバッファーを変更したりなどですが、測定するサンプルにより異なりますので、是非Tech-JP@cytiva.comまでお問い合わせください。

また、非特異的結合をなるべく減らすのはわかったとしてもどうしても少しは出てきてしまうんだよね、というときはどう考えればいいでしょうか。

上記の80%くらい非特異的結合だと感覚的にもそれはダメかな、と思うのですが、では何%までなら許されるのか。。。という疑問があります。弊社が出しているチュートリアル的な資料では5%くらいまで、という記載もあるかもしれません。

ただこれはある程度の目安として使っていただいても構いませんが、本質的には、センサーグラム形状の誤差がka、kd値の算出値の誤差に与える影響は、その相互作用プロファイル(ka、kdの値の範囲)にも大きく依存しますし、何よりご研究の目的としてどのくらいの誤差まで許容できるのか、ということにも大きく依存します。もし、そのあたりの判断にお困りでしたら、こちらも是非、Tech-JP@cytiva.comまでお問い合わせください。弊社の学術スタッフが勘所をお伝えいたします。

最後にこのデータのリファレンスのノンスぺを解消したときのリファレンスのデータと差し引きデータのフィッティングをご紹介します(図5)。うーん、ほれぼれするようなきれいなフィッティングですね!

非特異的結合のないリファレンスデータ

図4.非特異的結合のないリファレンスデータ

リファレンスに非特異的結合のないときの差し引きデータへのフィッティング結果

図5.リファレンスに非特異的結合のないときの差し引きデータへのフィッティング結果