Kinetics/Affinity解析のフィッティング計算を行うと、ka、kdなどと一緒にTもしくはSEというパラメーターが出ているのをお気づきですか。
n=1で実験しているのになんでSE(Standard Error)値がでるの?と疑問に思った方もいるかもしれません。
Biacore™ のフィッティング解析におけるSE値とは
Biacore™ T200、S200、X100などをご使用いただいている方は、Kinetics/Affinity解析結果からParameter タブを開くと、 ka、kd、Rmaxなどの各パラメーターについてそれぞれのSE値が確認できます(Figure 1)。
Figure 1
このSE値は、n=3などの反復試験を行った際に、平均値とともに評価する標準誤差とは意味が異なります。Biacore™ のフィッティング解析におけるSE値を理解するためには、そもそもフィッティング解析は何をしているのかを思い返してください。
Biacore™ のセンサーグラムは、1、10、40 Hz(1秒間に1、10、40回*機種や設定で変わります)で取得される(x,y)=(時間,レスポンス)データの集まりです。そして、フィッティング解析とはセンサーグラムに対して、選択された解析モデルが最もフィットするような変数を探す、非線形最小二乗法という計算手法です。
Kinetics解析で最もよく使用される1:1 bindingは、Figure 1の通り、ka、kd、Rmax、tc、RI、といった4つの変数と固定値である濃度からなるモデルです。
フィッティングでは、Figure 2のようにセンサーグラム(橙色)に対して1:1 bindingモデル(黒色)の残差(矢印間のズレ)が一番小さくなるような変数を探します。また、この残差はChi2値という数値で算出されます。すなわち、フィッティング解析は各変数を繰り返し代入しながらChi2値が最小となる組み合わせを決定する解析となります。
Figure 2
この計算によってka、kdなどの各パラメーターが算出されますが、同時にChi2値が最小になる際に各パラメーターが取り得る誤差範囲も決まります。これが、Kinetics/Affinity解析におけるSE値です。ka、kd、Rmax、RIについては、SE値が低いほど各パラメーターの有意性は高く、一般的なガイドラインとして各パラメーターの10%以下であることが望ましいとされます。
なお、Chi2値とSE値の間に相関はありません。Chi2値が大きかった場合でも、その際に取りうる誤差範囲を算出します。
また、tc値に関しては、その値が大きくSE値も大きいほど解析結果は良好とされます。tc値の詳細は「tc値のミカタ」をご覧ください。
SE値とT値
Biacore™ 1 seriesやBiacore™ 8 seriesに標準搭載のBiacore™ Insight Evaluation Softwareを用いてKinetics解析をしている方は、デフォルトでSE値は表示がされておらず、Fit detailsのParametersタブではT値として表示がされています。
Figure 3
T値とは、各パラメーターをSE値で割った値です。
すなわちT値が高いことはSE値が低いことを意味します。kaとkdなど絶対値が大きく異なるパラメーターで誤差を比較するためにT値は便利です。ka、kd、Rmax、RIについては、T値が高いほど各パラメーターの有意性は高く、一般的なガイドラインとして10以上の値を取ることが望ましいとされます。
*Figure 3ではRIおよびDriftを固定値としているため、T(RI)およびT(Drift)はNot a numberとなっています。
SE値とT値の表示変更方法
各種Evaluation Softwareによって、デフォルトで表示される値は異なりますが、いずれのソフトウェアでもSE値とT値を表示させることができます。
Insight Evaluation SoftwareにT値およびSE値を表示させる
フィッティング解析後、Result tableを表示させて、Table Setting(歯車マーク)のColumnsタブからAvailable columnsで必要な数値を選択します(Figure 4)。
Figure 4
Biacore™ X100/T200/S200 Evaluation SoftwareでSE値とT値の表示を変更する。
各機種のEvaluation Softwareを起動し、メインメニューのTools>Preferenceを開くと、SE値もしくはT値の選択ができます(Figure 5)。
Figure 5
(a) Biacore X100、(b) Biacore T200/S200
まとめ
- T値やSE値はフィッティング解析によって得られる各パラメーターの有意性を評価する値です。
- T値 = 各パラメーター / SE値
- ka、kd、Rmax、RIについては、一般的なガイドラインとしてT値で10以上の値を取ること、SE値で各パラメーターの10%以下の値を取ることが望ましいとされます。
- 各種Evaluation Softwareでは、T値、SE値いずれも表示は可能です。扱いやすい数値を用いてください。