Biacore™ の解析で算出されるパラメーターにはFigure 1に記載されているものなどがあり、tc値もその中に記載されています。

はい、tc値は「マストランスポート定数(kt)の流速非依存性コンポーネント」のことです!

・・・おそらく全Biacoreユーザーの90%以上の方は???なのではないでしょうか。結論から申し上げると実際に利用法が難しい(あまりない)パラメーターです。

にも関わらず一見もしかしたらマストランスポートリミテーション(MTL)の影響を確認するために使えるのでは?と思えるような定義のパラメーターです。

今日はこのtcがどのような意味を持つパラメーターなのか?そして、扱いづらいというのはなぜなのか?ということを解説していきたいと思います。

Figure 1

数式から見るtcの定義

まず、このtc値を理解するにはマストランスポートリミテーション(MTL)と呼ばれる現象が何なのかということと、Biacore™ のフィッティング計算ではこのMTLの影響を含めた下記のようなモデル式を用いているということを理解しておく必要があります。このことは既出記事、固定化に伴う留意点に記載されていますのでご参照いただきますと、以下のような式が記載されています。

つまりバルク添加濃度であるConcから実際に相互作用をするセンサーチップ表面近傍にアナライトが輸送(トランスポート)された結果の表面アナライト濃度Aの時間当たりの変化(dA/dt)は、その時点でのConcとAの差がどれだけ大きいかということの他にtc値によって決まる、ということになります。この式を見るとtc値が小さいと、アナライトのセンサーチップ表面への輸送速度が遅くなってMTLが強くかかるはずなので、tcはMTLの程度が許容できるかどうかの基準値として使えるのではないか、というように一見思えます。

現実のtc値の解釈の難しさ

ところが実際にtc値をMTLの基準値として運用するのは難しい側面があります。なぜならば、kakdが小さな誤差(SE値)*)で算出されるような、望ましい結果であればあるほど、tc値の誤差(SE値)は基本的には大きな値となり、基準値として適切でなくなるためです。kakdが小さな誤差であるということは、多くの場合MTLの影響が小さいことと関連します。

となると、MTLの影響が小さいということは、MTLの程度を記述するパラメーターであるtc値の算出誤差(SE)が大きくなってしまう、というのは直感的にご理解いただけると思いますし、それによりtc値を基準値として運用しづらいということになります。(ここでも固定化に伴う留意点をご参照ください)。それでは、tc値ではなくtcの誤差(SE値)をMTLの基準値をして採用できないか、ということも考えうるわけですが(上述にて基本的には多くの場合という表現を使っていますが)、kakdとtc値の誤差が相対する関係にあることには例外も出てくるため、やはり基準値として設定がしづらいということになります。

*)SE値については”T値やSE値からフィッティングを評価する”をご参照ください

ではMTLの程度を評価するにはどうすればよいか

固定化に伴う留意点にも記載されていますが、目視なども含めたさまざまな観点で総合的に判断することになりますが、ソフトウェア上算出される判定指標としては、Quality AssessmentのKinetics Constants appear to be uniquely determinedのシグナルの色や、U-valueがよく活用されています。