黄色信号、赤信号は常に採用不可なのでしょうか?
最初に結論を申し上げますと、得られた数値を採用していいか、悪いかの絶対的な基準はありません。
Biacore™のソフトウエアが表示している緑、黄色、赤信号のそれぞれの設定基準は多くの場合、非公開です。と同時に測定者が研究上の仮説を立証するためのka, kdの信頼性(おそらく真度と精度の許容範囲と言い換えられるかもしれません)もさまざまです。
その結果、黄色信号が出ても採用することは考えられ(さすがに赤信号の場合は得られた数値の信頼性を半定量的に推測しても一般的には採用するには足らないものになることが多いのですが)、常に測定者の基準とBiacore™のソフトウエアが出している基準の考え方を理解して突き合せることが理想です。釈迦に説法ですが、仮にBiacore™の信号の色の設定基準が明らかになったとしても測定者の採用基準と1:1で結びつくわけではありません。
このQuality Assessmentのすべての項目に言えることですが、データを採用するかどうかはこれらの信号の色だけでなく、Parameter内の様々な数値や、センサーグラムの形を定性的に解釈することなども総合的に考慮に入れ、測定者の基準を満たすかどうかを考慮することが理想です。(ある程度ルーチンに行う測定系であれば、その中でBiacore™のパラメーター上でのその測定系内での合格基準を設定される方もいらっしゃいます)
ka、kd値のスペック値とは?
下図で赤信号がついているKinetics constant is outside the limit that can be measured by the instrumentはその名の通り、得られたka, kdが測定したBiacore™装置のスペック値(測定限界)を超えている、ということを意味します。(黄信号なら測定限界に近付いている、という意味)
この図の場合ですとkd値が問題になっていますが、Biacore™の(解離速度が遅い側の)kd値のスペック値(測定限界)がどのような要素で決まるかということを考えると、まず考えられるのはBlank subtracted drift(つまりブランク差し引き後のベースラインの安定性)とノイズ幅の小ささかと思われます。
これが何故かというのは既出記事「この相互作用には気をつけろ!」をご参照いただくとイメージがつきやすいかもしれません。
実際の測定で考えると
したがって実測定では、遅い解離の相互作用において、特にブランク差し引き後のベースラインの安定性を確認することが大事です。
これは実際には何本か取得しているブランクサイクルの再現性(どのくらい重なっているか)を確認するということになります。もし黄色信号や赤信号が出ているのであれば、もしかしたらこのブランクサイクルの再現性が低いため真度の低い値を出しているためかもしれません。
その場合再測定することも必要になるかもしれません。Blank subtracted driftの装置スペック並みかより良好ではないか?というような完璧に近いベースラインを取得したとして、なお黄色信号が出るという場合はその真度や精度を見積もって、研究上の採用基準を満たすかを検討する必要が出てきます。
実際の測定の中で、真度と精度を見積もる場合、精度は繰り返し測定をすればわかるのですが、問題は真度をどう見積もるか、ということが難しいときがあります。
kd値で遅い解離の場合は解離相でのレスポンスの降下幅が小さくなりますので、大なり小なり生じる測定上の誤差(本当に観察したい目的の相互作用を100%反映したセンサーグラムの形状にならない状態)がわずかだったとしてもkd値としては真値からずれてしまう可能性があります。
この測定上の誤差の原因となるのは、例えばその濃度を添加したときにわずかに混在する非特異的結合成分や、何らかのその測定条件(濃度、添加時間、解離時間、固定化量(マストランスポートリミテーション))依存で起こる何らかの誤差要因があり得ます。ka値やkd値はその相互作用において、濃度や、添加時間や固定化量に依存しない固有の数値のはずですので、逆にいえば、これらの条件を少し変えて測定してみて、kd値がそれでも小さな範囲の誤差であることで、真値に対する誤差範囲を見積もることができるかもしれません。
一般的にBiacore™の測定条件はこれらの条件を広く振るというアプローチをしないことも多いのですが、このようなスペック限界に近付いた時には試みてみるとより確からしい数値を求める一助になり得ます。
最後に、繰り返しになりますが、そのほかのQuality Assessmentの色やそれ以外の数値、センサーグラム形状も見ながら総合的に判断するということは前提として重要になってきます。