はじめに
まず本題に入る前に、例えばFigure1のような形状の下降現象の場合、よくあるリファレンスセルへのアナライトの非特異的結合の可能性が高いので、既出記事「フィッティングがかからない!ーリファレンスへの非特異結合編」を参考にしてください。
Figure 1 非特異結合が原因のセンサーグラム変形
本記事では、これとは別に下記の事象のように決まって添加時間のちょうど中間あたりからレスポンスが下降するような特徴的なセンサーグラム形状を示す事象についてご説明します。
事象
HBS-EP+のようなCMC以上の濃度の界面活性剤を含むバッファーを用いた後に界面活性剤を含まないバッファーを用いたときなどに、blankサイクル、アナライト添加サイクル、Actフローセル、Refフローセルに関わらずおこる(Figure 2)。差し引きセンサーグラム(Act - Ref)形状はある程度は差し引かれるが、ときには解析値に無視できない誤差を生む形状のゆがみを残す場合もあります。
Figure 2 インジェクション途中のレスポンス下降(各フローセルで発生)
原因仮説
弊社スウェーデン研究チームが調査した結果、以下の発生条件が確認され、原因仮説を立てています。
発生条件
- 界面活性剤濃度がCMC未満のバッファーまたは特定の化合物アナライトを用いたとき
- 特定の機種(X100, T200, S200およびそれ以前の多くの機種)が持つアナライト添加機構*)に依存
*):ニードルから吸い上げられたアナライトがいったん流路内のループ構造に留保されたのち、スイッチバックして(吸い上げ方向とは逆方向で)、フローセルに添加される。
原因仮説
弊社スウェーデン研究チームはこのような現象が起こるタイミング(=添加時間のちょうど中間あたり)が機械的な動きの変化が起こる時点ではないことと、スイッチバック添加機構を持たないBiacore™ 8 series**)では現象が起こらないことなどから、スイッチバック動作時に流路上のCMC以下の濃度の界面活性剤によりコーティングされた膜構造の変化が引き起こされることに起因すると仮説を立てています
**):Biacore™ 1 series も 8 series 同様のスイッチバックの無い添加機構です。
対策
本事象は以前使用した界面活性剤が、界面活性剤を含まないバッファー条件下の時に、CMC未満の濃度で残存していることで発生すると考えられています。
従って、Biacore™ T200、S200、X100、もしくはそれ以前の機種を使用している方は以下のような測定条件にしてください。
- ランニングバッファーはCMC(臨界ミセル濃度)以上の濃度の界面活性剤にする。
- 界面活性剤を含まない測定をせざるを得ない場合は、Sensor Chip L1(通常界面活性剤を含まない条件で測定する脂質膜固定化用センサーチップ)の以下推奨使用前手順をご参照ください。
- Desorb and Sanitizeを実施する。
- 超純水でChange Solution / Primeを実施。
- オーバーナイト(場合によっては数日)Standby Flowのままにしておく。
- 界面活性剤無しのランニングバッファーでChange Solution / Primeを実施。
このように一度流路内壁をコーティングした界面活性剤は、完全に取り除くのに多くの時間がかかります。普段何気なく使っていることも多い界面活性剤ですが、このような挙動を示すこともありますのでご注意ください。