タンパク質の精製



現在、研究、製薬、タンパク質の精製のために様々な技術が用いられておりますが、その中でもクロマトグラフィーは、生体分子の精製に不可欠な技術の一つとして長い間利用されています。クロマトグラフィーでは、固相担体で構成されるクロマトグラフィーマトリックスに混合サンプルを通過させます。クロマトグラフィーマトリックスの特性は、担体の構造や化学的性質によって決まります。精製対象とするサンプルの性質により、どの種類の担体を選べばよいのかは異なります。

例えば、細胞培養物または血清などを含む複雑なサンプルからのタンパク質精製は、いくつかのクロマトグラフィー方法を用いて行います。第1の工程として、イオン交換またはミックスモードカラムを用いたクロマトグラフィーを行い、サンプルを分画し、標的分子を含むタンパク質の集団を得た後、続けて、目的とする精製純度レベルに達するまで、その集団をさらに分画するための工程として、アフィニティーまたはサイズ排除クロマトグラフィー(ゲルろ過もしくはゲル浸透ろ過)、または、イオン交換またはミックスモードカラムを使用したクロマトグラフィーを行い、最終的に、標的タンパク質を単離することができます。

Cytivaは様々な用途と処理容量用のクロマトグラフィーメンブレン製品を提供しており、お客様のタンパク質精製を包括的にサポートします。



イオン交換クロマトグラフィーは、物質をその正味の表面荷電に基づいて分離します。分子は陰イオン(負の電荷を持つ)、陽イオン(正の電荷を持つ)のどちらかに分類されますが、タンパク質類などの分子によっては陰イオン・陽イオンの両方を持つものがあります。正電荷の担体(陰イオン交換体)は「全体として負電荷の成分」を結合し、反対に負電荷の担体(陽イオン交換体)は「全体として正電荷な成分」を結合します。イオン交換体は結合力の強弱によりさらに細かく分類することができます。強イオン交換体は広範囲のpHでチャージ(イオン化)され、弱イオン交換体は限られたpH範囲でしかイオン化しません。

  • 4級アンモニウム(Quaternary ammonium; Q)基をもつ強陰イオン交換体
  • ジエチルアミノエチル(Diethylaminoethyl; DEAE)基をもつ弱陰イオン交換体
  • スルホン酸(Sulfonic acid;S)基をもつ強陽イオン交換体
  • カルボキシメチル(Carboxymethyl; CM)をもつ弱陽イオン交換体


バッファーの選択

一般的にイオン交換クロマトグラフィーでは、イオン強度の低いバッファーをロードします。この条件下では、電荷を帯びた高分子は反対の電荷をもつ固相に捕捉され、固相と同じ電荷をもつ高分子は吸着せずに通過します。イオン強度の低いバッファーをさらに加えて交換体を洗浄すると、残存していた非吸着な成分が完全に洗い流されます。その後、塩濃度を上げたバッファーを加えることで、イオン交換体に吸着した成分を溶出します。移動相のイオン強度を上げると、塩イオンがイオン交換体上の帯電物質に吸着しようとして競合し、先に吸着していた高分子を引き離すため、その高分子をマトリックスから溶出することができます。陽イオン交換には陰イオンのバッファー(負電荷を持つ)を、陰イオン交換には陽イオンのバッファー(正電荷を持つ)をご使用ください。

pHの選択

pHは、強イオン交換体の電荷に影響を及ぼすことはありませんが、溶液中の高分子の電荷には影響を与えます。イオン交換クロマトグラフィーの処理pHは、バックグラウンドとなる混在物質に対して、目的分子の分解能が最大となるよう選定します。例えば、目的分子の結合量を最大にし、混在物質の結合量を最小限に抑えるpHを選定した場合(ポジティブモード)、目的分子の溶出は塩濃度を上げることで達成されます。逆に、混在物質の結合量を最大化し、目的分子の吸着量を最小限〜ゼロにするpHを選定した場合(ネガティブモード)、目的とする分子は全て通過し、混在物質がマトリックスに吸着することで分離が行われます。イオン交換体や操作pHを慎重に選定すると、1ステップで最大の回収量と純度とを得ることができます。ただし、1つのステップで100%の純度を実現することは不可能なので、目的分子とバックグラウンドとなる混在物質の化学特性の相違を利用しながら、複数のステップを組み合わせることが必要です。

溶出塩の選択

吸着ステップの後に用いる溶出用バッファーは、塩濃度をよく選定して、目的とする分子と同時にイオン交換体に吸着している混在物質が一緒に溶出してこないよう注意します。溶出塩のイオンは、グラジエントもしくはステップで0 〜 1.0 Mの範囲にあり、担体上の荷電基から他の分子を置換できるものを使用します。一般的に、使用される陽イオンの置換効果はCa2+ > Mg2+ > Na+ > K+ > NH4+の順となっており、使用される陰イオンの置換効果はPO43- > SO42- > COO- > Cl-の順となっています (この順序はホフマイスター系列を元にしています)。しかしながら、もっとも強力な溶出塩が常に最適とは限りません。理想的には複数の塩をテストして、試行錯誤を伴いながら最適な溶出条件を見つけるべきです。一般的に使用しやすい、NaClやKClから条件検討を始められるでしょうが、CaCl2やMgCl2も考慮するべきです。また溶出塩の選定の際には、目的分子の純度、安定性、活性に対する影響も考慮する必要があります。

Cytivaのイオン交換クロマトグラフィー用製品は、メンブレン製品があります。クロマトグラフィーにおいて、一般的には主にレジンベースの手法が用いられています。一方で、レジンベースの処理に限界がある場合 (例えばウイルスや大きな分子の精製など) には、メンブレンが頑丈かつスケーラブルで、経済的な方法となることが知られています。メンブレンはレジンよりも高い流速を持ち、レジンでは限界があるアプリケーションでよく機能します。

大きな分子の精製が必要な場合や、より速い流速が必要なクロマトグラフィーでは、メンブレンの使用が推奨されます。メンブレンクロマトグラフィーは、従来のレジンを用いたクロマトグラフィーに比べて著しく速い流速での処理が可能です。これにより処理時間を短縮し、スループットが増加できるため、処理が極めて経済的となります。CytivaのMustang®メンブレンは対流性の高い孔構造と、高い流速でも比較的左右されない動的結合容量を持っており、プラスミドやウイルスのような大きな分子にも適しています。Cytivaのイオン交換クロマトグラフィー用メンブレンデバイスは、お客様に以下の利点をご提供しています。

  • スケーラビリティー:研究室規模のサンプル処理では、単一サンプル向けのAcrodisc®ユニットや多数のサンプル処理向けのAcroPrep™アドバンスフィルタープレートでMustangメンブレンの使用が可能です。
  • アプリケーションに特化したメンブレンの化学的性質:Mustang Qメンブレンは強陰イオン交換体で、プラスミドDNA、負電荷のタンパク質、ウイルス性粒子と効果的に結合します。Mustang Sメンブレンは強陽イオン交換担体で、正電荷のタンパク質やウイルス性粒子と効果的に結合します。
  • 結合容量と流速:Mustangメンブレンは、高い流速でも回収率への影響が少なく、より迅速な精製が行えます。