Biacore™に最新モデルBiacore™ 1 seriesが登場しました。1ニードルSPRプラットフォームに、6フローセルと革新的なソフトウェアで、Biacore™の一貫性のあるデータを簡単・効率的に生み出し、将来にわたり幅広いニーズに応えます。
さまざまな特長的な機能の中でも、本記事ではインジェクション方法について注目します。
Biacore™1 seriesの多様なインジェクション
Biacore™では、リガンド、アナライト、再生溶液などをインジェクションする際、通常、その間には必ずRunning bufferが流れ、各ポイントでのレスポンスをレポートすることになっています(図1)。
図1:Biacore™ における通常のインジェクション
しかし、測定内容によっては、間にランニングバッファーを挟まずに複数の溶液を連続で流したいというケースがあります。既存のBiacore™ では、「Dual injection」、「A-B-A injection」という2液を連続で流すインジェクションができるモデルがありました(参考:こんな機能あったんだ「Dual injection」と「A-B-A injection」)。Biacore™ 1 seriesでは、新たに3~5液を連続でインジェクションできる「Poly injection」が加わり、さらに対応アプリケーションが拡がります(図2)。
図2:Biacore™ 1 seriesの多様なインジェクション
Dual injectionでできること
Dual Injection は、1 つ目のサンプル添加終了後、ランニング緩衝液を挟むことなく、引き続き 2 つ目のサンプルを添加することができます(図2)。Biacore™ 1 series をコントロールするBiacore™ Insight Control softwareでは、Dualという名称のコマンドで実行できます。
Dualを選択するとInjection A、Injection Bという項目が現れ、それぞれのSolution名、Contact時間などの設定ができます(図3)。得られたセンサーグラムからは、主に2液を連続添加した時のレポートポイント(RU)を用いた比較解析を行います。1:1 bindingなどのフィッティング解析はできませんが、1:1 dissociationモデルを用いた解離速度定数(kd)の評価は可能です*。
*Dualのフィッティング解析はBiacore™ Insight Evaluation Softwareのみ対応可能です。
図3:Biacore™ Insight Control softwareにおけるDualコマンド
使用例として、子宮内膜・卵巣がんのバイオマーカーであるRAGE(Receptor for Advanced Glycation End Products)とADCs(Antibody-Drug Conjugates)の相互作用を評価した事例を紹介します。
エンドソーム内における解離を評価するため、細胞外(pH 7.4)、エンドソーム内(pH 6.0)の環境を模倣した二種類のpHで解離の違いを測定したものです。
Dual injectionを用いて、ADCsをキャプチャさせたセンサーチップに対して、RAGEを添加した後、続けて、pHの異なるbufferを添加しました。結果、180秒間の解離中に、pH 7.4では25%解離するのに対して、pH 6.0では45%の解離が確認できました(図4)。
図4:ADCs評価におけるDual injectionの活用方法
左図の縦軸は、RAGE溶液添加終了時のレスポンスを100としたNormalized response (RU)です。
※本データはBiacore T200を用いています。詳細はこちらの論文でご覧いただけます。
ABA injectionでできること
A-B-A Injection は、Solution A添加終了後、ランニング緩衝液を挟むことなく、引き続きSolution Bを添加し、再びSolution Aを添加ことができます(図2)。
Biacore™ Insight Control Softwareでは、Buffer Scouting using A-B-AというMethodがプリセットされています(図5)。 他のMethodを編集して A-B-A のコマンドを追加・変更することも可能です。
Buffer Scouting using A-B-Aは、何十種類ものRunning buffer検討を迅速に行いたい場合に使用します。Solution Aとして候補となるRunning buffer、Solution BとしてSolution Aで調整したアナライトサンプルを用意いただきます。
A-B-A Injection は、結合相と解離相のbufferが共通であるためフィッティング解析による評価が可能です。
図5:Biacore™ Insight Control Software における Buffer Scouting using A-B-A
A-B-A injectionを用いることで、多条件のRunning buffer検討を迅速に行うことができます。溶液中の塩濃度の違い(50-600mM)によるモノクローナル抗体の親和性を評価したところ、塩濃度が高くなると4種類の抗体のうち3種類が2~5.5倍程度KD値が減少しました。mAb12のみ塩濃度の影響をほとんど受けませんでした(図6)。
図6:塩濃度の違いによるモノクローナル抗体親和性への影響
Poly injectionでできること
Poly Injection は、ランニング緩衝液をはさむことなく、3~5種類の溶液を連続で添加することができます(図2)。Biacore™ Insight Control softwareでは、Polyという名称のコマンドで実行できます。
Polyを選択するとNumber of Injectionsという項目が選択できます。その数に応じて、Injection A、Injection B、Injection C、、、というタブが現れ、それぞれについてSolution名、Contact時間などの設定ができます(図7)。
図7:Biacore™ Insight Control softwareにおけるPolyコマンド
使用例として、SARS-CoV-2関連タンパク質とそれに対する抗体の相互作用を評価した事例を紹介します。
SARS-CoV-2の宿主細胞へ侵入は、ウィルスのスパイクタンパク質がヒト細胞表面タンパク質angiotensin-converting enzyme 2(ACE2)に結合することからはじまると知られています。
本実験ではスパイクタンパク質のreceptor binding domain(RBD)をSensor Chip CM5へ固定化し、それに対するACE2および各種抗体の多段階結合を評価しました(図8)。
Poly Injectionを用いて、Injection AにACE2、Injection Bに中和抗体(α-RBD)、Injection Cにanti-human antibody (α-Human)と連続インジェクションしたところ、各インジェクションにおいてレスポンスが上昇し、複合体が形成されることが確認できました。
図8:SARS-CoV-2関連タンパク質評価におけるPoly injectionの活用方法
今回は、多様なインジェクション方法についてお伝えいたしました。
さらに詳細なご案内をご希望の方は Tech-JP@cytiva.comまでお問い合わせください。
なお、本国Biacore™ 1 seriesサイトでは、実機を前にしたシステム紹介動画の視聴やBiacore™ 1 seriesのヴァーチャル体験も可能です。Virtual instrument explorerで3Dヴァーチャル体験する際には、「Explore the tool」をクリックし、初回登録いただくとすぐに案内メールが届きます。