Biacore™はka、kd値やKD値を測定するもの、というイメージが強いかと思いますが、” センサーグラム”にはまだまだいろいろな情報を引き出す余地があります。
一般的にBiacore™の原理上リガンドに対してアナライトがいくつ結合するかを直接的に知ることはできないとされています。私たちもよく、1:1やBivalent analyteなどのモデル式を採用するときには、よりフィッティングがきれいな方のモデル式に沿った反応様式(結合価数)と判断するのは間違いで、まず反応様式の知見を知ったうえでモデル式を採用しなければならない、ということをよくご説明します。
確かにフィッティングが良いか悪いかで結合価数を説明するのは結果をミスリードするリスクが高すぎます。しかしながら、Rmaxの情報をうまく利用すると相互作用のストイキオメトリーに関して確からしい情報を得ることも可能です。
Epitope and Paratope Mapping by HDX-MS Combined with SPR Elucidates the Difference in Bactericidal Activity of Two Anti-NadA Monoclonal AntibodiesJ. Am. Soc. Mass Spectrom.2021
上記論文では主要な抗原を三量体Coiled-coilタンパク質NadAとする髄膜炎菌ワクチンBexsero投与例から単離した2種類のNadA特異的モノクローナル抗体について評価しています。
この2つの抗体のうち1つだけが殺菌性を持つのですが、類似のアフィニティを示し、似たような部位を認識していることが分かっています。
HDX-MS(水素-重水素交換質量分析)法を用いてエピトープ-パラトープマッピングを組み合わせた相互作用の詳細解析を行いました。加えてSPR(Biacore™ T200)を用いてNadAへの2種の抗体それぞれのストイキオメトリー解析を行っています。
エピトープマッピングでは1つの抗体でのみ明確な結合が確認された一方で、パラトープマッピングでは両方の抗体が重鎖、軽鎖領域にまたがるいくつかのCDRを介してNadAと結合することが分かりました。
この論文では、なぜ2つの個体に殺菌性の違いが出るのかを三量体NadAタンパク質に対する2つの抗体のストイキオメトリーの違いから説明を可能としており、HDX-MSを用いたエピトープ-パラトープマッピングとそれをサポートする抗体抗原相互作用のキャラクタリゼーションを組み合わせることの利点を強調しています。