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Dr. 近藤のコラム 2D-DIGEの熱い心
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RPK0272 | CyDye™ DIGE fluors, Cy2 Minimal (25 nmol) | 425,000円 |
RPK0273 | CyDye™ DIGE fluors, Cy3 Minimal (25 nmol) | 425,000円 |
RPK0275 | CyDye™ DIGE fluors, Cy5 Minimal (25 nmol) | 425,000円 |
Cytivaの推奨通り1サンプルあたり50 µgのタンパク質に400 pmolのCyDye™を使用し、一枚のゲルで2サンプル泳動すると、一枚泳動するごとに蛍光色素だけで13,600円かかる。
25800983 | CyDye™ DIGE Fluor Labelling kit for Scarce Samples (100 nmol Cy3 & 100 nmol Cy5) | 250,000円 |
Cytivaの推奨通り1サンプルあたり5 µgのタンパク質に4 nmolのCyDye™を使用し、一枚のゲルで2サンプル泳動すると、一枚泳動するごとに蛍光色素だけで10,000円かかる。
1サンプルを1枚のゲルで1回だけ泳動するのは無謀である。いくら内部標準で補正をかけると言っても、分子生物学実験の常識からしてトリプリケイトの実験はしたいところである。そうすると、蛍光色素代は上述の3倍かかることになる。この金額はプロテオミクスの他の実験法と比較すると高いかどうかを検討する。
質量分析は一回の実験費としては溶媒代と電気代だけで安いように感じるが、購入のための初期投資のコストに加え、年間の保守契約、保守契約に入っていなかった場合の修理代金、タンパク質同定のための検索エンジンの年間契約料などがばかにならない。LC-MSならキャピラリーのカラムも購入することになり、これがまたけっこう高い。
たとえば、筆者がAMR社から購入してLTQ(サーモエレクトロン社)の前段に使用している逆相カラムは性能的に十分満足しているのだが、1本153,000円する(AMR株式会社、MAGIC C18AQ 3µ 100Å、0.075×150 mm、931-61171-00)。タンパク質同定が目的なので極微量のペプチドしか添加しないにも関わらず、メンテナンスの日を除いて24時間ほぼ連続稼働しているため、この高価なカラムを平均すると毎月1本つぶしてしまう。液体クロマトグラフィーを使う以上この種のコストは避けられないだろう。
また、質量分析装置の進歩は日進月歩であり、新製品の登場に合わせて手持ちの装置の性能は相対的に低下していく。1億円の機械であっても10年使うことは難しいのではないだろうか。さらに、定量的な実験を行うとなると同位体を使用することになるが、その場合の試薬代はかなり高額である。どのくらいの検体数をどのくらいの期間で解析するかにもよるが、たとえばABI社のICATでは「スターターキット(4339035)」だと2検体比較の実験が1回分で105,000円、「10アッセイキット(4339036)」なら1回分が33,500円する。iTRAQでは4検体比較の実験を行う場合、「5アッセイキット(4352135)」なら1回分で35,000円である。バイオ・ラッド ラボラトリーズ社(以下Bio-Rad社)のSELDI TOF MSでは、SELDIの陰イオン交換チップ(ProteinChip CN10アレイ、C57-3007)は12本入りで195,000円、1本で8検体が測定できるので1検体あたり約2,000円する。これらのコストもトリプリケイトで実験なら3倍ということだろう。
抗体アレイの進歩は目覚ましく、筆者も期待するところである。出始めの頃に比べると抗体アレイはずいぶん安くなったが、依然として気軽に使用できるほどには安くない。たとえば、シグマ社のパノラマアレイ(Panorama Antibody Microarray-XPRESS Profiler 725 Kit、XP725)は725抗体で30万円が必要である(標識用の蛍光色素を除く)。1キットに2枚のスライドグラスが入っているので、1サンプルごとに15万円が必要となる。トリプリケイトなら3倍である。初期投資として蛍光スキャナー(例えば、Typhoon™ 9000シリーズ・Trio、Ettan™ DIGE Imager、Cytiva)と専用解析ソフト(例えば、DeCyder™ 2D、Cytiva)も必要で、消耗品だけ買って始めるというわけにはいかない。二次元電気泳動法が消える日が来るとしたら、それは翻訳後修飾まで含めて網羅するような抗体アレイができた時だと思っているが、今のところそのような製品ができる兆候はないようである。
Bio-Rad社から出ているBio-Plexでは、複数のタンパク質を同時測定できる。たとえば27種類のサイトカインを96検体に対して45万円で測定することができる(Bio-Rad、Bio-Plexヒトサイトカイン27-Plexパネル、171A11127)。定量的に測定できるし簡便である。しかし、これも測定機器であるBio-Plex200フルシステム(Bio-Rad、17100025、定価950万円)を最初に購入する必要がある。受託解析も可能だがそれだともっとコストがかさむ。専用のキットはBio-Rad社以外からも販売されており、スループット性も高いことから、自分の狙ったタンパク質がたまたまキットの表に複数含まれていればとてもよい実験系だと思うが、その場合も安価なELISAと比べて圧倒的なアドバンテージがあるかどうかが判断のしどころである。
結論としては、一回の実験あたりのコストを冷静に計算すると2D-DIGEは特別高額な実験とは言えない。2D-DIGEに使える蛍光スキャナー(Typhoon™、Cytiva、など)はかなり普及していて、たいていの大学や研究所に導入済みである。2D-DIGE用の解析ソフトだけは高額で、DeCyder™ 2D Softwareであればオラクルのデータベースライセンス料金込みで800万円から、ImageMaster DIGEなら303万円から、蛍光スキャナーに追加できる(追加可能な機種、Versionにより費用が異なる。詳細は要Cytiva問合せ)。他社製品のProgenesis(Nonlinear Dynamics社製、スクラム社販売、DIGE用モジュールなど一式含む)であれば640万円する。他のプロテオーム解析実験と比べれば必要な初期投資はどちらかと言えば安い方であるが、それにしても気軽に購入できる金額ではない。2D-DIGEの蛍光色素は、銀染色と同じように一色で使うという使い方も可能で、それなら100万円台の安い画像解析ソフトで十分である。
ただし2D-DIGEの場合、興味深いタンパク質スポットを同定したあとはかならず質量分析でタンパク質を同定することになる。そうすると、質量分析のコストもかぶることになってしまうので、この単純な計算式はあてはまらなくなってしまう(注1)。もっと安くできる方法は何かないだろうか。
2D-DIGEのコストを下げる一番の方法は泳動するタンパク質の量を減らすことである。筆者のラボではサチュレーションダイをもっぱら使用しているので、サチュレーションダイに限った話しをすることにする。筆者のラボでは手術検体からのサンプリングには基本的にレーザーマイクロダイセクションを使用している。しかし長年保管されていた古い手術検体の場合は凍結切片にしたときに組織像がよく分からないことがあって、レーザーマイクロダイセクションで細胞を正確に回収することができない。そういう場合にはやむを得ず、凍結保存された腫瘍組織をすりつぶしてサンプリングしている。レーザーマイクロダイセクションで細胞を回収してからタンパク質を抽出する場合には血清のコンタミはほとんど問題にならない。それは腫瘍組織中あるいは正常組織中の脈管構造を避けて細胞を回収しているからである。しかし組織全体をすりつぶしてサンプリングした場合は見た目にも血液が混ざっているようなサンプルになることがある。筆者のラボのプロトコールでは全サンプルのミクスチャーを内部標準サンプルとして使用するので、血清のコンタミが激しいサンプルが複数あると実験全体の質が落ちてしまう危険性がある。したがって、全サンプルからミクスチャーを作成する前の予備実験として、血清のコンタミが激しくないことを確認する予備実験を全てのサンプルについて行いたいところである。
昨年、大腸がん検体150例ほどに対してレーザーマイクロダイセクションを用いないでサンプリングを行い、血清のコンタミチェックの目的で予備実験を行った。サンプルチェックとは言えある程度は詳細に観察したいので、チェック用の泳動装置には一次元目等電点電気泳動はMultiphor II、二次元目SDS電気泳動はEttan™ Dalttwelveを使用している。今までは1枚のゲルに添加するタンパク質量を5 µgと決めて本実験を行っていたが、レーザースキャナーでスキャンしたときの感触からしてこの量は多いのではないかとかねてから思っていた。今回はそれを1 µgまで減らしたのだが、各サンプルから2000個近いタンパク質スポットをコンスタントに観察することができた。Ettan™ Daltサイズのゲル(260×200×1 mm)であればこの量で十分ルーチンの実験が可能であることが分かった。
1 µgのタンパク質を標識して2サンプルを一枚のゲルで泳動するのに必要な蛍光色素は、上の表からするとわずか2,000円である。2サンプルの比較をしない上述の実験の場合、一検体1,000円となる。「わずか」と言う割に高いと思われる方もおられるかもしれないが、銀染色のキットだってEttan™ Daltのサイズのゲルを染色すれば一枚あたり数千円かかるだろう。さらに言えばRUBY GEL ステイン(Bio-Rad社、170-3125)などに比べればずいぶん安い。例えば、Ettan™ Dalt サイズのゲルを染色するのに1 Lを使用すれば一回の実験あたり58,000円かかることになる。ゲル一枚ごとのコストは再利用するごとに半額になっていくのだが1万円まで落とすには5回以上再利用しないといけない。銀染色やクマシー染色のための試薬を粉末から調整すれば確実に安く実験できる。しかし、2D-DIGEには内部標準をとることができるという何物にも代え難いアドバンテージがあること、ダイナミックレンジが蛍光色素のそれであること、染色の時間と労力を節約できること、などは無視できない。
泳動するタンパク質の量を減らすことにはコスト以外にもう一つ大きなメリットがある。泳動の再現性が飛躍的によくなるのである。たくさんの量のタンパク質を泳動するということは、そのサンプルに含まれるタンパク質以外の物質(核酸、脂質、塩など)もたくさん泳動することを意味している(注2)。これらの夾雑物はたいていの場合は泳動に対して阻害的に働く。たくさんのタンパク質を泳動する分取ゲルの泳動パターンが解析ゲルの泳動パターンと一致しなかったり、再現性がわるかったりすることを経験された方は多いのではないだろうか(注3)。ふだん泳動するタンパク質の量を減らすことでこれらの夾雑物のコンタミを減らすことになり、結果的に電気泳動の失敗の確立が激減する。タンパク質の量を減らすことで使用する試薬の量を減らし実験の失敗の危険性も減らすことで全体のコストを下げることができる。
1 µgでの実験は状況によってはお勧めするものではない。一本のチューブを使い切る時間の問題があるからである。粉末状で供給される蛍光色素を有機溶媒で溶かして使用するのだが、いったん溶かすと劣化が進むことからできるだけ開封した一本を早く使い切りたいところである。1 µgまではタンパク質量を下げてもいいということを念頭に実験計画を立てることをお勧めする。
注1:このような問題点を解決する目的で2D-DIGE法のデータを基盤としたプロテオームデータベースを構築中である。きちんとしたプロトコールで実験しさえすれば二次元電気泳動法の再現性はかなりよい。データベース上の画像と手元の画像を照合することで、タンパク質同定実験を自分でしなくてもよくするのがデータベースの一つの目的である。現段階では膵がん細胞株の2D-DIGEデータを登録し、タンパク質同定情報を1000個以上のスポットに付加して公開している。
注2:TCA/アセトンなどでこれらの夾雑物は除去できることになっているが、同時に除かれてしまうタンパク質も無視できない。
注3:筆者のラボでは分取用のゲルでもルーチンには100 µgしかタンパク質を泳動しない。結果的に解析ゲルと分取ゲルのパターンは見分けがつかないほど一致することがほとんどである。ただ、このタンパク質の量でたくさんのゲル、例えば600枚ほどのゲルを泳動した場合、失敗する確率が上がることを経験している。このことが問題になるのはミニマルダイでの実験の場合である。ミニマルダイを使用した実験では、1色の蛍光色素用に50 µg、2色で100 µgを一枚のゲルに添加することになるのだが(Cytiva推奨プロトコール)、この量だと失敗の確率が高くなる。失敗の確率の増加は、等電点電気泳動用のIPGゲルの品質や再現性についての限界、タンパク質サンプルの質のばらつき(夾雑物はランダムにコンタミする?)、などに起因するのだろう。タンパク質同定について言えば、100 µgのタンパク質量で分取ゲルを作成しても、サチュレーションダイでタンパク質を標識しても、同定実験はほとんどのタンパク質スポットについて成功する。その秘訣はまた後の号で。
DIGE用の蛍光色素は高くない。泳動するタンパク質はできるだけ少なくすることでさらに安くできるし、失敗の可能性を減らすことができる。
近藤 格
※文中に記載されている他社製品の価格は、本コラム執筆に際し、近藤先生が各メーカーに確認された2008年5月上旬時の価格です。
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