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Location:Home実験手法別製品・技術情報2D DIGE(蛍光標識二次元発現差異解析)

Dr. 近藤のコラム 2D-DIGEの熱い心
「画像解析ソフトウェアはどれがいいのか?」

二次元電気泳動の必須ツール

画像解析ソフトウェアは二次元電気泳動法には必須のツールである。画像解析ソフトウェアなしには二次元電気泳動の画像から十分な情報を得ることは難しい。特に2D-DIGE法では画像解析ソフトウェアはなくてはならないものである。同じゲルの中でCy5画像とCy3画像で観察されるスポットを同じように囲み両者の濃度の比を取る、という実験は画像解析ソフトウェアなくては不可能だからである。

2D-DIGE法に使える画像解析ソフトウェアとしてCytivaが公式に認めているものはDeCyder™ 2D Software(Cytiva)だけなのだが、2D-DIGE法に使えるということで他社から市販されているものは多い。本当に使えるかどうかはCytivaが保証しているわけではないので、自己責任で購入して使用することになる。一種の海賊版だが、そんなに心配しなくてもよい。たいていは大丈夫だろう。筆者の経験ではスクラム社から販売されているProgenesis SameSpots(Nonlinear Dynamics社)は問題なく使えているし、かえって使い勝手がよかったりする。スポットの囲み方や濃度の測定の仕方は画像解析ソフトウェアごとにずいぶん異なるが、それぞれに主張があるので結局はどれが正しいのか誰にも分からない。タンパク質スポットごとに最適な画像解析ソフトウェアがそれぞれあったりするかもしれない。あまり細部に深入りせず、納得できる説明であればあとは使いやすいかどうかで決めてしまうのも手である。購入して使ってみてだめだったら学会や研究会で発表していただきたい。

圧倒的に楽になった「マッチング作業」

画像解析ソフトウェアによる画像解析は、実はかなりたいへんである。2D-DIGE法の場合は内部標準となる画像を異なるゲル間でマッチさせていくのだが、ゲル間のばらつきの程度に比例してこの「マッチング作業」にかなり時間をとられる。内部標準の画像は基本的には同一のはずなので、異なるゲルの画像上でごく近い部位にあるスポットは同じスポットという仮説のもとにマッチングを行うことができる。

したがって、銀染色などを用いた通常の二次元電気泳動法に比べればマッチング作業は圧倒的に楽である。画像解析をしていると、2D-DIGE法から通常の方法にはもう戻れないとつくづく思う。それでも時間がかかる。

画像解析ソフトウェアェアの抱える三つの問題点

画像解析ソフトウェアの問題点は三つある。

一つは、上述のマッチング作業が完全自動になっていないことである。メーカーの方は自動マッチングの機能をずいぶん喧伝されるのだが、自動マッチングの機能によってソフトウェアがすべてマッチングをしてくれるということは全然なくて、たいていはかなりの手作業が必要になる。マッチングの問題はゲル間での画像のばらつきを減らせばずいぶん改善されるので、研究者側である程度は解決可能である。

二つ目の問題点は、スポットの枠決めが任意にできないことである。電気泳動のゲル自体には、「ここからここまでがスポット」、という情報は入っておらず、画像解析ソフトウェアがスポットの辺縁濃度の域値を設定し、スポット濃度を計測している。スポットの辺縁の決定が問題である。同じスポットでありながらあるゲルでは複数に分割されていたり、複数のスポットがあるゲルでは一つになっていたりする。多くの場合は人間側からみると画像解析ソフトウェアの誤認識である。ソフトウェアによっては手作業による修正がかなり難しかったり時間がかかったりする。スポットが実験者の意に反して複数に分割されている場合、「修正しなくてもよい」という理屈を言う開発者もいる。

しかし、その理屈が正しいかどうかは解析の目的にも依存するので、ユーザーが考えてみる必要がある。スポット分割の問題は研究者側ではなかなか対応することができないのだが、大きなゲルを使ってスポット間の分離をよくしたり収束をよくしたりすることである程度は対応可能である。

三つ目の問題点は、一度にたくさんのゲルを解析するように画像解析ソフトウェアが設計されていないことである。これは筆者が経験した複数の画像解析ソフトウェアで認められることであるが、一つの画像解析ファイルに入れることができる画像の枚数が数10枚からせいぜい200枚程度でしかなく、ある量以上の画像データを入れるとファイルが二度と開かなくなったり、極端に動作が遅くなったりする。数年前のことだが、一か月くらいかけてようやくマッチングを終えた画像を収めた解析ファイルが二度と開かなくなったときはかなりショックだった。メーカーの方に聞くと、何100枚ものゲルを解析するユーザーが少ないから画像解析ソフトウェアをそのような仕様にはしない、いうことなのだが、画像解析ソフトウェアの性能が低いから何100枚ものゲルを泳動するユーザーが少ないという可能性もある。2D-DIGE法は何100枚ものゲルの泳動ができる可能性をもった方法なので、画像解析ソフトウェアもそのようにデザインしてもらいたいものである。

この問題に対する研究者の対応の仕方としては、DeCyder™ 2D Softwareの場合では共通のマスターイメージをどの画像解析ファイルにも入れておいて、画像解析ファイルごとにマッチングを進めることができる。この方法を思いつかなければ筆者は今のようなスケールで2D-DIGE法を行ってはいなかっただろう。

DeCyder™ 2D Softwareの新しいバージョン(バージョン 7)が海外では販売されているらしい。筆者が使っているのはバージョン6までなのだが、発売当初に比べるとずいぶんよくなっている。2001年頃のバージョンではマッチング時の動きが我慢できないほど遅かったし、スポット濃度を出力することもできなかった。付属する統計解析の機能も乏しかったので、スポット濃度を出力できなければそれ以上の解析ができないという状態で、モニターをみながらデータを手で書きだそうかと思っていた。今ではテキストファイルでもエクセルファイルでもXMLファイルでも出力できる。バージョンアップの途中で大きなゲルに対応するようにもなった。最新のバージョンアップでは上記のマッチング機能がずいぶんよくなったと、昨年オランダで開催されたHUPOで開発者から聞いている。どれほどのものか一度試してみたいものである。(注)

ソフトウェアェア開発への提言

「画像解析ソフトウェアはどれがいいのか」はよくある質問なのだが、上記のようなことから、決定的にこれがいいという製品をまだ知らない。開発者とユーザーの間で画像解析に対する考え方が異なっていたり、開発者がユーザーの切実なニーズを理解していなかったりするからではないかと思う。技術的にはすぐに解決可能な問題も多いので、2D-DIGE法を実際に行っているユーザーは、自分たちの意見を開発に反映してもらえるようにどんどんリクエストを出すことが必要である。要求される頻度の高い機能から優先的に追加していくということを(Cytivaではないが)聞いたことがある。画像解析ソフトウェアは2本目、3本目だったりする研究者は多いだろう(筆者の場合、次は21本目)。そのような研究者であれば画像解析ソフトウェアを開発している方よりはるかに実験をしているはずなので、経験を積んだユーザーの意見を特別に吸い上げる努力を開発者は組織的にしていただきたいものである。


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