動物用ウイルスワクチンのためのウイルス精製
口蹄疫ワクチン
ワクチンおよびベクターの精製技術 - 目次
口蹄疫
口蹄疫(FMD)は家畜に甚大な被害をもたらします。臨床徴候としては、発熱および小水疱の形成で、主に口腔または鼻腔、趾間部および蹄の冠状結節に発現します。偶蹄目全種に感染するため、このウイルスは極めて高い感染性を有しています。財務上の損失も深刻となりえます。若齢動物の死亡による直接的な損失だけでなく、牛乳、食肉製造の損失および製造能力低下などの影響を受けます。
この疾患の影響をよりコントロールできるようにするためのFMDワクチンの改良は、今日の動物用ワクチン研究の主要な焦点となっています。南米においては、多くの国が家畜のワクチン接種キャンペーンを国家および地域をあげて行い、この疾患のコントロールに努めています。調査および隔離といった他のコントロール対策とともに、ワクチン接種は国家的撲滅プログラムの重要な部分を占めています。ここに記載する例はアルゼンチンのコントロールプログラムで取られた対策を基づいています。
精製ストラテジー
アルゼンチンにおいて動物用ワクチンは、ヒト用ワクチンと比較して伝統的に安価な製品です。しかしながら、この国の高級品種牛の価格が上昇、また規制要件がより厳密になったため、現在では畜産農家はより高品質のワクチンに多くの費用をかけるようになりました。それでもなお、ワクチン製造方法は簡単かつ比較的安価でなければなりません。
さらに南米市場の特徴として、ワクチン製造メーカーは多くの場合、一回用量中に複数の細菌性またはウイルス性ワクチンを混ぜようとしています。このため製造メーカーは最終精製産物を濃縮しなければなりません。さらに、規制当局はより堅実なワクチン製造と高い品質の製品を求めてきています。多くの製造プロセスにおいて、膜をベースとした清澄化および濃縮はこのような目標の達成に役立っています。
精製プロセス
アルゼンチンでは、Frenkelシステムおよびbaby hamster kidney(BHK)細胞を用いた浮遊細胞培養の2つの方法がワクチン製造の主流で、濃縮方法に関してはPEG(ポリエチレングリコール沈殿)とクロスフローフィルトレーションの2つが主流となっています。
Frenkelシステムは牛の舌の舌下腺上皮に感染させる古い方法のため、ウシ海綿状脳症に関する懸念から、最近では、より安全でより純度の高いワクチン製造が可能と考えられているBHK法が中心になっています。図12にBHK法での一般的な製造および精製ストラテジーの概要を紹介します。
図12. BHK法におけるFMDワクチン製造プロセス
濃縮に関しては、PEG沈殿が非常に効果的ですが、大きなタンクと多大な時間を必要とします。一方、クロスフローフィルトレーションは沈殿させる必要がないため、時間短縮ができ、同時に装置の設置面積が小さいためプラント内で場所も取りません。
清澄化は0.2 µmまたは0.45 µmの精密ろ過膜ルーメン径Eを用いて行います。平均流量は約20 LMHです。大型プロセス用カートリッジ(例:85および75)が使われています。
クロスフローフィルトレーションによる濃縮にはルーメン径CおよびEを使用します。平均流量は40 LMHです。この分画分子量500 kDの膜は、不要な低分子タンパク質を素通りさせ、より純度の高い製品が得られます。このプロセスも時間短縮に貢献し、PEG沈殿の48時間に対して、バッチサイズによっては3~6時間で終了します。
コメント
アルゼンチンおよび他の南米諸国では、ここで紹介した方法と同様の改良された製造および精製方法を採用することにより、動物用ワクチンの品質および市場性が向上しています。自動化レベルの向上に伴い極めて大規模なプロセス(バッチサイズが約10,000 L)が可能となり、今ではヒト用ワクチンと比べて大幅に低い価格で、純度および有効性の高い動物用ワクチンを問題なく提供しています。ただし、FMDワクチンは3A BioSafety区域にて製造されていることをお知らせしておきます。
なお、弊社ではワクチン製造するための製品は取り扱っていますが、ワクチン製造は行っておりません。
ホローファイバーカートリッジを使用した口蹄疫ワクチン製造
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