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DIGE定期便 第1号
 ~基本的なサンプル調製テクニック~

DIGEイメージ画像

この「DIGE定期便」では、毎回Ettan™ DIGEに関するアプリケーションやちょっとしたテクニックなどをご紹介するコンテンツです。今回の“お便り1”では、サンプル調製のポイントについて泳動パターン例を交えながらご紹介いたします。通常の二次元電気泳動にも適用されている方法ですので、DIGE解析を行っていない方もぜひご覧になってください。

●まずEttan™ DIGEについて詳しく知りたい方のために
Ettan™ DIGEの技術概要についてはコチラ


組織サンプルの破砕方法

生体の組織や器官、細胞壁を持つ植物組織は溶解しにくく、バッファーを加えて懸濁するだけでは十分にタンパク質を抽出することはできません。このような場合には、ホモジナイザーや超音波処理といった強力な細胞溶解法を用います。これらの強力な細胞溶解法の例を表1に示しました。

表1 強力な細胞溶解法
細胞溶解法 適用サンプル 一般的な手順
超音波処理
超音波のせん断力により細胞を破壊します。
細胞懸濁液 細胞溶解効果は高いですが、熱と泡の発生に注意が必要です。熱発生を避けるため、細胞を短時間超音波処理します。処理中は氷で冷却します。
フレンチプレス
細胞懸濁液を高圧下で強制的に小穴から押し出して、せん断力により細胞を破壊します。
細胞壁のある微生物
( 細菌、藻類、酵母)
細胞懸濁液をあらかじめ冷却しておいたフレンチプレス用小室に入れます。圧力をかけて、押し出されたライセート( 細胞溶解液)を回収します。
粉砕
乳鉢と乳棒を使用してすりつぶします。
実質性組織
微生物
通常は、組織や細胞を液体窒素で凍結し、細かい粉になるまですりつぶします。アルミナや砂を加えるとより効率良く破砕できます。
機械による破砕
組織を機械的にホモジナイズする器具には、いろいろな種類があります。手で持って操作するタイプのDounceホモジナイザーやPotter-Elvehjemホモジナイザーは、細胞懸濁液や比較的破砕しやすい組織用です。ブレンダーやその他のモーター付器具は、大容量のサンプルに使用します。
実質性組織 必要に応じて組織を刻んで小片にします。冷えたホモジナイゼーションバッファー(サンプル量の3~5倍量)を加えます。短時間ホモジネートします。ライセート(溶解産物液)をろ過または遠心分離して不溶物を除去します。細胞破壊により遊離されるプロテアーゼを除けば、タンパク質の性状を損なうことはありません。
ガラスビーズによる破砕
研磨作用のあるガラスビーズを用いて細胞壁や細胞膜を破砕します。
細胞懸濁液
微生物
サンプルと等量の冷却した細胞溶解液に細胞を懸濁し、懸濁液1 gあたり1~3 gの冷却したガラスビーズを加えます。1分ボルテックスし、1分氷中におきます。この操作を2~4回繰り返します。
Sample Grinding Kitによる破砕
破砕ビーズと専用ペッスルにより効率的な破砕が可能です。
細胞懸濁液
(100 mgまでのサンプル処理が可能)
使用前に破砕ビーズ入りチューブを遠心し、上清を除去します。サンプルと抽出溶液を添加し、ペッスルでサンプル破砕後、5~10分遠心します。遠心後、抽出タンパク質が含まれている上清を回収します。

これらの手法を用いる際に特に気をつける点は、温度上昇です。細胞が完全に破砕されると熱が発生します(特に超音波処理時は要注意)。一般的に、温度が上がるとタンパク質は分解されやすくなりますので、サンプル溶液の温度が上がらないよう氷水中につけて注意深く操作を行う必要があります。また、サンプル調製のプロトコールを確立させることはタンパク質抽出の再現性(≒結果の再現性)を得るための重要なファクターです。処理時間や処理終了の目安(例:懸濁液が透明になるまで)などの基準を決めて、各調製ごとの抽出効率が大きく変わらないようにします。


バッファー組成によるタンパク質溶解性の変化
~尿素とチオ尿素~

添加変性剤 マウス小脳
(mouse cerebellum)
マウス骨格筋
(mouse skeletal muscle)
8 M尿素

8M尿素よりも・・・

8M尿素よりも・・・

7 M尿素

2M チオ尿素

7M尿素・2Mチオ尿素の方が検出スポットが増加!

7M尿素・2Mチオ尿素の方が検出スポットが増加!

図1 チオ尿素添加による溶解性の改善
※同サンプルをCy2, Cy3, Cy5標識し、各50μg(合計150μg)を泳動。イメージは3サンプルの重ね合わせイメージ。
サンプル: マウス小脳(中央列)、マウス骨格筋(右列)
バッファー組成: 
 ・8 M尿素(8 M Urea, 30 mM Tris, 4% CHAPS, pH 8.5:上段)
 ・7 M尿素 + 2M チオ尿素(7 M Urea, 2 M Thiourea, 30 mM Tris, 4% CHAPS, pH 8.5:下段)

解析に用いる標準サンプル溶解バッファーには、尿素が変性剤として用いられます。また、尿素だけでなくチオ尿素と併せて使用することで、より多くのタンパク質を溶解させることができます。マウス組織サンプルを用いてチオ尿素添加の効果をみた結果を図1に示しました。上段の8 M尿素のみの時と比較して、7 M尿素+2 Mチオ尿素で調製したサンプルの泳動結果では、多くのスポットを検出することができました。研究目的に合わせてバッファー組成を選択してみてください。

また、チオ尿素には微量のイオン性不純物が混在します。イオン性の不純物は泳動パターンやCyDye™標識に悪影響を与えます。純度の高いチオ尿素を選択し、なるべく新しく調製したバッファーを使用してください。それでも改善されない場合には、イオン交換樹脂を使ってイオン性不純物を除く方法があります。イオン交換樹脂のアンバーライト(Amberlite IRN-150L)を使った不純物除去の方法を下に示しますので、ご参考になさってください。

【チオ尿素バッファーの清澄化】

  1. バッファー成分の内、尿素/チオ尿素のみを先に溶解する
  2. 1~数%(w/v)のアンバーライトを加え、1時間撹拌する
  3. 溶液をろ過してアンバーライトを除き、Trisなど残りの試薬を加え溶解する

Trisの濃度とpH調整

標識もうまくいっており、キレイな泳動パターンが得られています
図2 ラット腎臓サンプルのDIGE泳動パターン
サンプルにあわせて、標準バッファーとは異なる組成を使用することができます。

バッファー組成:7 M尿素, 2 Mチオ尿素, 10 mM Tris, 5 mM magnesium acetate, 4% CHAPS, pH 8.0

CyDye™標識を効率よく行うためには、バッファーのpH条件が最も重要です。標準プロトコールでは30 mM Tris, pH = 8.5を推奨しています。ただし、この条件から若干Trisの濃度やpHを変えても、サンプルによっては問題なくきれいな泳動パターンが得られます(図2)。この場合には、pHが8.0以下にならないよう、十分注意してバッファーを調製します。pHが8.0以下になると、CyDye™標識効率が大きく落ちてしまい、定量解析を行うことができなくなってしまいます。また、CyDye™標識は氷中で行うため、バッファーのpH調整は冷却した状態で行うことがポイントです。

標準プロトコールとは異なる組成のバッファーを用いて解析を行う際には、特に注意してCyDye™標識のチェックを行ってください。


まとめ

ここでご紹介した以外にも、多くのサンプル解析例がございますので下記の参考一覧をご参照ください。Ettan™ DIGE解析では、サンプルの選択・調製が良好な実験結果を得るための大きなウエイトを占めています。サンプル調製や実験系構築など何かお困りの際には、遠慮なくバイオダイレクトラインまでご連絡ください。

タンパク質サンプル調製サイト イメージ タンパク質サンプル調製サイトがオープン!ぜひご覧ください。

 参考一覧

○ サンプル調製ガイド(Minimal dyes)
○ サンプル調製ガイド(Saturation dyes)
○ 文献リスト

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